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第7話「父」
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私はラドフォルン家の屋敷に戻ってきた。
そして屋敷の扉が開く。
私はやけどの痕が隠れないノースリーブの肩出しドレスを着て赤絨毯の上を堂々と闊歩する。
すれ違った使用人たちは一様に驚いた顔をする。
私は腹を括った。
他者の視線はもう気にしない。
そうでもしないと父には勝てないから。
「おひさしゅうございます。お父様」
私はレンリ様を連れて父と対峙する。
父は私と対面するなり衝撃を受けたような顔をする。
「シャルロット⋯⋯どうしてそのような」
「本日はお父様にお願いがあって参りました」
「⋯⋯申してみよ」
「私とレンリ・ウォルトレーン辺境伯様との結婚をお認めください」
周りのメイドたちがざわつきだす
しかし父は沈黙したまま。
「⋯⋯」
「お父様、それで折り入ってお願いがございます。ハロルド国王陛下に直接会って、ぜひこの報告をしたいのです。どうか謁見のお取次ぎを」
無言だった父のまゆがピクリと動く。
「それが目的だったか。なにを企んでいるウォルトレーン辺境伯」
「⁉︎ 待ってくださいお父様!」
「セバス、剣を」
父の傍にいた執事のセバスがすぐさま壁に掛かっていた剣を手に取って父に手渡す。
そして父は剣を手にレンリ様にゆっくりと近づく。
「シャルロットにあのような格好までさせて晒しものにするとはどういうつもりだ」
「あの姿がシャルロットにふさわしいと思ったからさせたまで」
「貴様ッ!」
「なら決着をつけようクラウス・ラドフォルン」
「レンリ様も何を!」
「セバス、辺境伯にも剣を」
レンリ様は躊躇することなくセバスから剣を受け取る。
「貴様、私が姿を現してからずっと殺気を飛ばしていたな」
「敵(かたき)にようやく会えたんだ当然だろ」
「そういうところ本当に父親にそっくりだ。よいか。これはつまらないケンカではない。
侯爵と辺境伯の争い。つまりは戦争だ。今宵をきっかけに王国が再び戦火に包まれるやもしれないのだぞ。そなたにその覚悟はできているのか?」
「野暮なこと言うなよ。難しい御託なんざいらねぇ。ひとりの女を取り合う男と男の真剣勝負だろ」
父とレンリ様は同時に斬りかかる。
メイドたちが悲鳴を上げる中、2人が振るった剣と剣が火花を散らしながら鋼の音を轟かせる。
冷静沈着な父が髪を振り乱し、息を荒くしている。
そしてなによりも少年のようなギラついた目。
あんなお父様見たことがない。
「マートの倅(せがれ)がなんの魂胆もなしに娘と結婚したいなどと到底信じることはできん」
「どうしてそう思うんだ」
「貴族の嫡男が何の企みもなしに醜い姿の娘と結婚したいなどと考えるはずがない。そんな戯言を信じる親などいない」
「醜いからと娘を蔑む腐った親なんてどこにも存在いないと思っていた。ついさっきまではな」
「どこまで私を愚弄するか!」
「よく見てみな自分の娘を。臆することもなく凛としているシャルロットの姿ほど美しいものはないぜ」
そう言ってレンリ様は父のお腹を蹴り上げて、怯んだ父の喉に切先を突きつける。
「俺はそこに惹かれた」
父は片膝をついてうずくまる。
「⋯⋯私の負けだ。辺境伯様はどうやら本気のようだ」
「試していたのか」
「無論だ。ラドフォルン家の侯爵令嬢ではない本当のシャルロットを辺境伯が駆け引きなしに心から愛しているのか確かめたかった」
「周りくどいって言われないかあんた」
「さぁな。口汚い婿よ。感謝している。自分の姿に引け目を感じていたシャルロットに自信を与えてくれて」
「お父様」
「お前たちの望み通り、陛下にお会いできるよう取り次ぐ。王都での商売が叶うことを祈っている」
「⁉︎ お父様、私たちの目的ご存知だったのですね」
「もちろんだ。大事な娘に監視をつけて置いておくのは当然だ」
「溺愛じゃないか」
急に顔が熱くなる。
「恥ずかしいですお父様」
「結婚が方便だったら断るつもりだった。だがそれは杞憂にすぎなかった」
「いいお父様じゃないかシャルロット」
「はい」
「その代わりと言ってはなんだが、レンリ・ウォルトレーン卿、私に友人の墓参りをさせてほしい」
「親父のことか?」
「敵と味方に分かれてはしまったがマートとは学生時代からの友人だ。
あいつの策には何度も煮湯を飲まされた。
まさに乱世を生きるために生まれたような男だったよ。
戦場で笑い。死ぬことを恐れなかった」
「だから平和な領地で過ごすことを親父への罰とした」
「マートにとっては死より辛い罰だったはずだ」
「クラウス・ラドフォルン侯爵様はたしかに非情なお方だ。
おかげで親父は領民の子供たちに囲まれて過ごしているうちに
最期は目尻下がりっぱなしの情けないツラになってたぜ」
レンリ様はそう言って「フフッ⋯⋯」と、笑って口角をあげる。
そして父も「フフッ」と、口角をあげる。
2人で“分かり合えた”みたいな顔をしているけど
どうして男って素直にものが言えないのかしら。
『ラドフォルン侯爵様ーーッ!』と、突然、王国警備兵の男性が飛び込んでくる。
「何事だ」
「可及な知らせです」と、父に耳打ちをする。
「何ッ⁉︎ ハロルド様が倒れただと?」
そして屋敷の扉が開く。
私はやけどの痕が隠れないノースリーブの肩出しドレスを着て赤絨毯の上を堂々と闊歩する。
すれ違った使用人たちは一様に驚いた顔をする。
私は腹を括った。
他者の視線はもう気にしない。
そうでもしないと父には勝てないから。
「おひさしゅうございます。お父様」
私はレンリ様を連れて父と対峙する。
父は私と対面するなり衝撃を受けたような顔をする。
「シャルロット⋯⋯どうしてそのような」
「本日はお父様にお願いがあって参りました」
「⋯⋯申してみよ」
「私とレンリ・ウォルトレーン辺境伯様との結婚をお認めください」
周りのメイドたちがざわつきだす
しかし父は沈黙したまま。
「⋯⋯」
「お父様、それで折り入ってお願いがございます。ハロルド国王陛下に直接会って、ぜひこの報告をしたいのです。どうか謁見のお取次ぎを」
無言だった父のまゆがピクリと動く。
「それが目的だったか。なにを企んでいるウォルトレーン辺境伯」
「⁉︎ 待ってくださいお父様!」
「セバス、剣を」
父の傍にいた執事のセバスがすぐさま壁に掛かっていた剣を手に取って父に手渡す。
そして父は剣を手にレンリ様にゆっくりと近づく。
「シャルロットにあのような格好までさせて晒しものにするとはどういうつもりだ」
「あの姿がシャルロットにふさわしいと思ったからさせたまで」
「貴様ッ!」
「なら決着をつけようクラウス・ラドフォルン」
「レンリ様も何を!」
「セバス、辺境伯にも剣を」
レンリ様は躊躇することなくセバスから剣を受け取る。
「貴様、私が姿を現してからずっと殺気を飛ばしていたな」
「敵(かたき)にようやく会えたんだ当然だろ」
「そういうところ本当に父親にそっくりだ。よいか。これはつまらないケンカではない。
侯爵と辺境伯の争い。つまりは戦争だ。今宵をきっかけに王国が再び戦火に包まれるやもしれないのだぞ。そなたにその覚悟はできているのか?」
「野暮なこと言うなよ。難しい御託なんざいらねぇ。ひとりの女を取り合う男と男の真剣勝負だろ」
父とレンリ様は同時に斬りかかる。
メイドたちが悲鳴を上げる中、2人が振るった剣と剣が火花を散らしながら鋼の音を轟かせる。
冷静沈着な父が髪を振り乱し、息を荒くしている。
そしてなによりも少年のようなギラついた目。
あんなお父様見たことがない。
「マートの倅(せがれ)がなんの魂胆もなしに娘と結婚したいなどと到底信じることはできん」
「どうしてそう思うんだ」
「貴族の嫡男が何の企みもなしに醜い姿の娘と結婚したいなどと考えるはずがない。そんな戯言を信じる親などいない」
「醜いからと娘を蔑む腐った親なんてどこにも存在いないと思っていた。ついさっきまではな」
「どこまで私を愚弄するか!」
「よく見てみな自分の娘を。臆することもなく凛としているシャルロットの姿ほど美しいものはないぜ」
そう言ってレンリ様は父のお腹を蹴り上げて、怯んだ父の喉に切先を突きつける。
「俺はそこに惹かれた」
父は片膝をついてうずくまる。
「⋯⋯私の負けだ。辺境伯様はどうやら本気のようだ」
「試していたのか」
「無論だ。ラドフォルン家の侯爵令嬢ではない本当のシャルロットを辺境伯が駆け引きなしに心から愛しているのか確かめたかった」
「周りくどいって言われないかあんた」
「さぁな。口汚い婿よ。感謝している。自分の姿に引け目を感じていたシャルロットに自信を与えてくれて」
「お父様」
「お前たちの望み通り、陛下にお会いできるよう取り次ぐ。王都での商売が叶うことを祈っている」
「⁉︎ お父様、私たちの目的ご存知だったのですね」
「もちろんだ。大事な娘に監視をつけて置いておくのは当然だ」
「溺愛じゃないか」
急に顔が熱くなる。
「恥ずかしいですお父様」
「結婚が方便だったら断るつもりだった。だがそれは杞憂にすぎなかった」
「いいお父様じゃないかシャルロット」
「はい」
「その代わりと言ってはなんだが、レンリ・ウォルトレーン卿、私に友人の墓参りをさせてほしい」
「親父のことか?」
「敵と味方に分かれてはしまったがマートとは学生時代からの友人だ。
あいつの策には何度も煮湯を飲まされた。
まさに乱世を生きるために生まれたような男だったよ。
戦場で笑い。死ぬことを恐れなかった」
「だから平和な領地で過ごすことを親父への罰とした」
「マートにとっては死より辛い罰だったはずだ」
「クラウス・ラドフォルン侯爵様はたしかに非情なお方だ。
おかげで親父は領民の子供たちに囲まれて過ごしているうちに
最期は目尻下がりっぱなしの情けないツラになってたぜ」
レンリ様はそう言って「フフッ⋯⋯」と、笑って口角をあげる。
そして父も「フフッ」と、口角をあげる。
2人で“分かり合えた”みたいな顔をしているけど
どうして男って素直にものが言えないのかしら。
『ラドフォルン侯爵様ーーッ!』と、突然、王国警備兵の男性が飛び込んでくる。
「何事だ」
「可及な知らせです」と、父に耳打ちをする。
「何ッ⁉︎ ハロルド様が倒れただと?」
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