短編集 黒

オウル

文字の大きさ
上 下
1 / 1

手紙

しおりを挟む

ポストに手紙が来ていた。
兄からの手紙だった。 


庭の鉢植えに水をやってほしい、との事だった。
庭に出て、ホースで水をやりながら考える。 

思い出していた。土を小さなスコップで無理矢理掘り起こしたときの感触。柄の部分に水が入って、ちゃぷちゃぷと音を立てていた事。あの時は、雨が降っていた。雨が、降っていた。 

無計画に開けた穴は小さくて、はじっこがはみ出していた。少し脚が動いていた。
でも、それは気のせいだと思うことにした。適当に土を被せて、その場を後にした。 

どうせ死ぬ。
殺したのは、あいつ。
あの時の私はただ、面倒なことに巻き込まれないために、処分しただけだ。



ぐらり、と意識が傾いたような気がして、目をぎゅっと閉じたり開けたりした。まだ大丈夫なんだろうか。もう、駄目なんだろうか。
いつなら、大丈夫だったんだろうか。いつから、駄目になったんだろうか。
水滴を弾く葉っぱは、夏の朝日を浴びてきらきらと輝いていた、どうしてだろう?どうして今かがやくんだろうか。いつから、輝いていたんだろうか。もとから、輝いていたのだろうか。 

あれが見つかったところで、ただの動物の死骸として処分されるだけ。 

ふと、鉢植えの表面に根っこがはみ出ている事に気がついた。
放ったらかしだったので、根っこが中で詰まっているのだろう。 

水分を得た土表は、どろりと溶けて、今にも溢れだしそうだった。
どうしてだろう。その中から、あの時の脚が突きだしている。ふらふらと宙を掻いているようだ。 

なぜ今なのだろう。どうしていまなのだろう?
あの手紙が来たからだろうか。兄さんは、私が遺体を埋めたことを知っていたのだろうか。

だから、


ぐらり、と再び世界が傾いた。もうそのまま
戻らなくなってしまうのだろうか、と観念した頃に、 

目の前の脚は姿を消していた。 

きらり、きらりと光ながら落ちていくしずくを見ていた。どうして輝くのだろうか。どうして今輝くのだろうか?
私の世界はもう終わってしまっているのに。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...