公爵サマの夜伽の仕事。

熾月あおい

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7、おしごと*

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 しばらく躊躇うように口籠ったあと、潤んだ眸で、じっとグレンを見上げた。

「グレン、その……おまえに…………ついてきて、ほしい」

「……は?」

「い、嫌か?」

「や、そうじゃないですけど……」

 グレンは戸惑った。

「俺、騎士として、もう役に立てませんよ。腕、動かないし」

「そ、それについては、だな……」

 リシェルノアはもごもごと言い澱んだ。顔がみるみる赤くなっていく。

「お、おまえの、我がもとでの新たな仕事は……」

「はい」

「私の……よ、よ、よ、よ……」

「よ?」

「……夜伽、だ」

「へ……?」

 グレンは思わず間の抜けた声を上げた。

 いま彼は、夜伽と言ったか。それはつまり、彼の寝台に侍り、夜毎に奉仕し、甘やかし、慰める仕事ということか。

 グレンはぽかんとしてしまった。

「お、表向きは、もちろん、侍官として連れて行く……! ただ……気持ちの上では、その……伴侶、と、いうか……私のそばに、いてほしいんだ、グレン……ずっと……」

 リシェルノアは真っ赤になりつつ、潤んだ眸でじっとグレンを見つめた。

 グレンは心臓が跳ね上がるのを感じた。これは現実か、死にかけて、今際の際に都合のいい夢でも見ているだけではないのか、と、頬をつねりたくなったくらいだ。

「殿下、それは……」

「私は……おまえが、好きだ」

 リシェルノアは震える声で言った。

「いつからかは、分からない。でも、気づいたら……おまえが傍にいてくれるのが、私にとって、あたりまえになっていた。私が笑顔を向けると、おまえも嬉しそうにしてくれる……それだけで、胸が、すごくあたたかくなって……私だって、誰かに心をさらしてもいいのだと、おまえが……教えてくれた、から」

 リシェルノアは、蒼灰色の眸で、熱っぽくグレンを見ている。グレンは、こく、と、喉を鳴らした。夢ではない。自分は、護衛騎士としてだけではなく、リシェルノアに望んでもらっているのだ。

「殿下……」

 グレンは感極まってすぐには言葉が出なかった。

「っ、リシェルノア様……!」

 代わりに、残った左腕で、力いっぱいにリシェルノアを抱き締めた。

「俺も……俺も、あんたのこと、好きです」

 グレンがゆっくりと噛みしめるように告げると、リシェルノアの目が大きく見開かれた。

「本当に……」

「ええ。――だから、これからもあんたの傍にいさせてください、殿下……いや、今日からは、閣下か」

「グレン……!」

 リシェルノアはぎゅっとグレンに抱きついた。

「うれしい……ありがとう、グレン」

 涙に頬を濡らしながら、ふわ、と、冬を堪えた花芽が春に綻ぶときのように笑う。

 その顔にグレンは堪らない気分になった。ゆっくりと顔を近づけると、リシェルノアは目を閉じる。それを確かめて、グレンは相手にそっとキスをした。

 重なった唇の、柔らかく、温かい感触。リシェルノアの唇は、すこしだけ、震えていた。グレンは左手でリシェルノアの頬に触れた。涙を拭うようにそこを撫でてやりながら、キスは、優しく、切なく、長く続いた。

 やがて唇が離れても、二人はしばらく見つめ合っていた。

「――……公爵、閣下」

 グレンは、ほう、と、息を吐く。リシェルノアの素直でかわいい様子に、グレンの身体がすっかり熱を持ってしまって、どうにも堪えられそうになかった。

「今日からの俺の仕事……さっそく、励ませてもらってもいいですか?」

「え……?」

「心を籠めて、精いっぱい、ご奉仕させてもらいますから……閣下」

「あっ、ちょっと……グ、グレン……ッ」

 戸惑うリシェルノアに、グレンは再び口づけた。今度は先程よりも深く重ね合わせる。グレンの舌がリシェルノアの唇をなぞった。リシェルノアは、びっくりしたように目を瞬かせている。

「ちょっ、待って、グレン」

「ん。あんたがそう言うなら待つけど、主命だし。でも……ほんとは、もう待てないって気持ちでいっぱいいっぱいではありますね」

 グレンが言うと、リシェルノアはまた頬を染めた。その様子がかわいくて、グレンは、くす、と、笑う。そしてもう一度、ちゅ、と、リシェルノアに口づけ、はむ、と、唇を食んでみた。

 すると相手が、躊躇いつつも、薄く唇を開いてくれる。

 グレンはすこしだけ目を瞠った。

「……いいんですか?」

 こく、と、本能的に喉を鳴らしつつ、問う。

「ん」

 ちいさく頷いた相手の頬を、グレンは左手でそっと撫でた。

「むり、してません?」

「……して、る。でも……私も、おまえに……」

 その後に続く言葉は何だったのか。言いよどんだリシェルノアは、けれど、熱っぽくグレンを見詰めた。首の後ろに腕をまわされ、頭を引き寄せられる。今度はリシェルノアのほうから口づけられ、その刹那、グレンの中の躊躇いは霧散して消えた。

 グレンは待ち兼ねたように、再び相手に深く口づけた。己の舌をリシェルノアの口内に挿し込むと、相手の舌を絡め取り、ちぅ、と、吸った。

「ぅん、ん」

 リシェルノアは、鼻にかかった甘い声を漏らす。グレンの口づけに必死に応えようとしてくれている様子は健気で、グレンはますます我慢できなくなりそうだった。

 さらりと相手の髪を撫でる。耳朶に触れ、首の後ろに手を指し込む。接吻はさらに熱を帯び、こぼれる甘い吐息すら奪うように、グレンは唇を深く重ねた。

 リシェルノアの背中に腕をまわし、背筋をするりと撫でつつ、褥に押し倒した。圧し掛かって、服を脱がせにかかる。右手が思うように動いてくれないのがもどかしかった。

 いったん唇を離すと、はぁ、はぁ、と、乱れた息を吐きながら、グレンはリシェルノアを見下ろした。

「すみません、俺……右腕がきかなくて、あんたに負担かけるかも」

 グレンは申し訳なさそうに言った。

「重くない?」

 身体を両腕で支えられないグレンが問うと、頬を上気させ、ぼんやりとグレンを見上げていたリシェルノアは首を横に振った。

「へいき、だ……おまえの、重みだもの……」

 そう言った彼が腕を伸ばし、グレンを引き寄せるように、抱き込んだ。

 グレンは、じん、と、胸が熱くなるのを感じる。それとともに新たな昂奮も湧き起こって、性急にリシェルノアの服のボタンを外そうとした。

 それでも、片手だとなかなかうまくいかなくて焦れる。舌打ちしかけたとき、リシェルノアのきれいな指先が、グレンの左手に触れた。

「自分で……」

 恥ずかしそうにつぶやき、リシェルノアは自ら服のボタンを外した。

「これで、いい、か……?」

 窺うように見上げられ、グレンはリシェルノアを抱き締めた。

「ああ、閣下……すてきです。とてもきれいだ」

「……なまえ」

「え?」

「名前で、呼んでくれ」

「リシェルノアさま」

「さまも、いらない……ベッドでは」

「リシェルノア……リシェ」

「……うん」

「リシェ、リシェ、俺……もっとあんたに触れたい……もっと、深くまで」

 グレンは顕わになったリシェルノアの下腹のあたりをさらりと撫でた。相手は、かぁ、と、頬を染める。が、嫌がる素振りはなかった。

「わ、たしも……グレン。もっと、もっと、おまえに……触れてほしい」

 熱い吐息とともにこぼされた言葉を合図に、グレンはさらされたリシェルノアの白い肌を愛撫しはじめた。

「ほんとに綺麗だ」

 思わずうっとりと呟きつつ、胸に手を這わせる。

「ん……グレン……ッ」

 グレンの指が胸の飾りに触れると、リシェルノアは思わずのように鼻にかかった甘い声を漏らした。その声にグレンは、ずく、と、腹のほうに重たい熱が溜まっていくのを感じた。

「リシェルノア……」

 白い首筋に唇を這わせる。

「あ……ッ」

 リシェルノアの身体がびくりと震えた。グレンはそのまま相手の首筋を舐め、ちゅう、と、軽く吸った。ちゅ、ちゅ、と、肌へのキスを落としつつ、肩や鎖骨に甘く歯を立てたりもした。

「ん、ん……ぁッ」

 リシェルノアはグレンの肩にしがみつく。

「きもちよさそう」

 グレンがリシェルノアの耳元で囁くと、相手は顔を真っ赤にして、そっぽを向いた。

「う、うるさい……言う、な……っ」

「なんで?」

「だって……はずかし、い……」

「はは。かわいい。でも、我慢しないで……俺に、全部見せて。あんたの心、ぜんぶ……見せてもらえるの、うれしいんだ」

「グレン……」

「さっきも、言ってくれたでしょ。心をさらしてもいいって思えたって……あれ、すごい、うれしかった」

 そう言ってグレンは笑った。じっとこちらを見るリシェルノアの顎を取り、再び唇を奪う。

「んっ……ふ……」

 リシェルノアは抵抗せず、グレンに身体を委ねてくれた。

 グレンは再びリシェルノアの胸に触れた。指先で胸の先端を軽くいじりつつ、もう片方の胸には唇を寄せた。

「あっ……」

 リシェルノアがびくんと身体を跳ねさせる。その反応を確かめながら、グレンは片方の乳首を指でくにくにと捏ねながら、もう片方をぺろりと舐めた。

「ゃ、ぁ」

 震える声にまじるのは、隠せない甘さだ。そのまま、ちぅ、と、吸いつき、軽く食んだままで、舌先でちろちろとなぶった。

「ぁ……っ、や……ん、ぁ……ッ」

 さらに刺激を続けると、リシェルノアが涙目でグレンを見上げた。その蒼灰色の眸は熱にすっかりとろけている。

「っ」

 相手の表情にますます昂ぶりを覚えたグレンは、相手の下衣の中へと手を差し入れ、肢のあわいでゆるく勃ちあがりかけている核心に指を絡めた。ゆるゆる、と、撫で擦ると、粘膜への直接の刺激にリシェルノアが身をふるわせた。

「ひぁっ……あぁッ! グ、グレン……っ」

 たまらなさそうに身悶える。グレンは息を詰めると、リシェルノアの下衣を脱がせ、左腕で相手の腰を抱いて固定すると、蜜をこぼす花茎に唇を寄せた。

「アァッ……! だめ、そんな……っ」

 リシェルノアの手がグレンの髪を掴む。が、グレンはそのまま深く銜え込むと、舐め、吸い、頬の肉で締め付けた。

「ンッ……っ、あっ……」

 リシェルノアの身体が何度も震える。声も甘さを増している。

 グレンはリシェルノアの太腿に手を這わせた。花茎を口で愛撫しつつ、後ろの莟に指で触れる。くるくると撫で、つぷ、と、ゆっくり差し入れた。

 リシェルノアは一瞬、身を強張らせた。

「リシェ、力を抜いて……あんたのこと、気持ちよくしてやりたいんです」

 グレンは顔を上げ、そう言った。

「リシェ」

 伸び上がって耳許に囁くと、リシェルノアはグレンの頭を自らのほうへと引き寄せる。応えるように唇を重ね、相手の身体から力が抜けたのをたしかめてから、グレンは慎重に指を動かした。

 たっぷりと甘やかしつつ、中を慣らしていく。時間をかけ、食ませた指が三本になる頃には、リシェルノアはもう完全に蕩けた表情をしていた。

 荒い息を繰り返してはいるけれども、眸は熱にうるみ、頬は紅潮している。

「リシェルノア……いい?」

 グレンは優しく訊ねた。

「……う、ん……」

 リシェルノアは小さく頷いた。

 グレンはリシェルノアの莟に己の熱を押し当てる。ぐぅ、と、体重をかけ、ゆっくりとリシェルノアの奥を目指した。

「ん……ッ、グレンっ」

 リシェルノアが身体をくねらせる。

「いたい?」

「す、こし、だけ……でも、へいき、だから……やめ、ないで……グレン」

「リシェ、リシェ、好きです、すき……あんたとひとつになれて、うれしい」

「あ……っ、ん、ん、グレン……わたし、も、好き、すき、っ……あぁ、ア、あぁあ……ッ!」

 奥まで貫くと、リシェルノアの身体が突っ張った。はぁ、はぁ、と、お互いに乱れた息を吐きながら、しばらくじっと抱き合った。

「……動いて、いい?」

 やがてグレンは相手の様子を窺いつつ、ゆっくりと腰を動かし始めた。

「っ、あ……ん……っ」

 リシェルノアの甘い声がグレンを煽る。律動が熱を帯びる。とちゅ、とちゅん、と、最奥を深々と突き上げた。動かすたび、ぐち、ぐちゅ、と、濡れた淫靡な音が響く。抜けば切なげに縋りつかれ、突けばたまらなそうに、きゅう、と、締め付けられた。

「リシェルノア……ッ!」

「グレン、グレン……っ、あぁ、あん、ん、アッ……!」

 グレンは左手でリシェルノアを抱きしめ、何度も何度も腰を打ち付けた。口づけながら揺すりあげると、リシェルノアもグレンにしがみつき、その愛を全身で受け止めた。

「すき……すきだ、グレン……」

「俺も、すき。あいして、ます……リシェ、リシェルノア」

「あ、もうっ、も、いく……ッ」

「く、ぅ」

「ンァ、ッ、ぁ、や、あ、あぁ、っ、アァア――……ッ!」

 やがてグレンは、リシェルノアの中に熱い飛沫を放った。グレンの熱を奥に受けとめ、リシェルノアがふるえる。そのままふたりはきつく抱き合った。

 荒く息を吐きながら、長く引く余韻を味わう。

「これからも……お傍に」

 グレンは誓うように口にすると、リシェルノアの額にそっと口付けた。



***



 それから数週間後、グレンは、新たに領地となった土地へと向かうリシェルノアと共に、馬車に揺られていた。

「もうすぐ着くな」

 リシェルノアが窓の外を見ながら言う。その口許には、穏やかな微笑みが浮かんでいた。出逢ったころの無愛想が、いっそ信じられないくらいのやわらかな表情だ。

「ですね」

 グレンは隣に座るリシェルノアに微笑みかける。リシェルノアはグレンの肩に頭を預けるようにしながら、こちらの動かない右手を優しく撫でた。

「これからどんな日々が待っているんだろう。私はうまくやっていけるだろうか? 領民たちに受け入れてもらえるだろうか?」

「きっと大丈夫ですよ、閣下。むしろいまのあんたなら、まわりから愛されすぎて、俺は嫉妬に狂うかもしれない」

「はは、まさか」

「そうまさかでもないでしょう、閣下」

 グレンは冗談めかして言って、ちいさく肩をすくめた。左の手を伸ばして、リシェルノアの前髪をそっとく。

「でも、どんなにあんたのまわりに人がいっぱいになっても……俺のこと、ずっとお傍においてくださいね」

「もちろんだ。おまえは私の……大切な、伴侶なのだから」

 リシェルノアは少し照れくさそうに言った。

「夜伽役じゃなくて?」

「っ、それは……!」

「もちろん、夜伽役そっちのほうも、しっかり励むつもりですけどね、俺は」

「グレン、あまりからかうな……!」

「はは、かわいいな、俺の公爵閣下は。――俺も、あんたを大切にします……リシェルノア様」

 グレンは自分の右手を包むリシェルノアの手に左手を重ねた。

「ずっと傍で、大事にしますよ、リシェ」

 相手の手を持ち上げ、額に押し当て、騎士の誓いのように告げる。

「…………うん。よろしく頼む」

 リシェルノアは恥ずかしげに俯きながら答えたが、顔を上げると、ふわり、と、笑った。グレンはそんな相手をそっと抱き寄せ、抱き締める。

 りんりんと車輪を鳴らしながら、馬車は緑豊かな領地へと進んでいた。

 その道は、あたかかく眩しい陽光に照らされていた。
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