目覚め

小倉千尋

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第十四章

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 午後からは会議だった、会議と言っても俺と真理子と事務長の原田の三人と西田と永井の五人だけだった。真理子が話し出す。

「私の代わりに坂井直人さんがオーナーになったけれど経営方針は基本的に変えません、それと新しく西田さんに総支配人になっていただくわ、仕入れや人事などある程度任せるわ、辞令は後ほど」

 最後に新しく外注してたバミューダのホームページを皆で見て終わりだった、俺が、

「ネットに載った事で更に客足が増えるだろう、接客が疎かにならないようくれぐれも注意してくれ」
 と言って解散だった。
 十五時に真理子と一緒に帰宅した。
 真理子に谷口モータースへ辞表を出したことを伝えると、

「直人さん、もう未練はないの?  後悔してない?」
「ああ、大丈夫だ。ただあのオイルやガソリンの匂いは恋しくなるかもな」
「近所なんだしたまに顔を出したらいいわ」
「そうさせてもらうよ、それに谷口モータースとの契約は切れてないから車を預ける事もあるだろう、妙な感じだよ」
「そうね、直人さんにとっては修理する側がされる側になったのですもの」
 
  とクスリと笑う、

「ところで今日の会議だが毎回あんな感じなのか?」
「そうね、会議と言うよりミーティングね、いつも小一時間で終わるわ。でもビックリしたのはいつ誘っても来ない永井君が来てた事よ、直人さんに懐いちゃったのかしら」
「それはあるかもな、それに今までもあいつは夜勤だし眠かったんだろう。今日は一言も発さなかったな、半分寝てたろ」
 他愛ない話をしてから、夕飯に真理子の手料理を食べる、ハンバーグだった。やはり真理子は料理が美味い。
 以前これまで誰とも交際した事がないと言うのも聞いた時は衝撃だった事を思い出す。
 俺がバミューダの様子を見に行くと言ったら、真理子も付いていくと言った。
 二十時を少し過ぎたところだった。
 店に着くとネットの影響か客でごった返していたのでカウンター席に並んで座る。
 西田が気付いたのか飛んでくる。

「今日の会議の後、事務所の原田さんが来られて総支配人の辞令頂きました、坂井様ありがとうございます、しかし給料あんなに頂いてもいいのでしょうか?」
「私ももう坂井よ、坂井真理子」

 真理子は割って入ってきた、

「そうでしたね、改めてご結婚おめでとうございます」
「仕事量に見合った賃金を出したまでさ、これからも頑張ってくれ」
「わかりました、ところで今夜はお食事ですか、見回りですか?」
「両方さ、食事は軽いものを頼もう」

 メニュー表を開く、やはりメニューは他のレストランより圧倒的に多い。

「俺はレアのステーキだけでいいニンニク多めに頼む、真理子は何にする?」

 真理子はビーフシチューを頼んだ。

「すぐにお持ちしますと言って奥へ消えた。
「西田さんのあんなに生き生きした笑顔初めて見るわ、直人さんのお陰ね」
「俺が気付いてないだけで、俺は意外とこういう仕事も向いてるのかもな」
「絶対向いてるわよ、原田さんも感心してたし、私から見ても私が独学で必死に学んだ事以上の知識を持ってるわ、それに人のまとめ方も上手だし」
 話してる間に俺と真理子の前に食事が並んだ。
 ステーキをぺろりとたいらげる、いい感じのレア具合だ脂身が美味しかった、真理子は味を吟味するかのようにゆっくり味わっていた。真理子が西田を呼ぶ、

「社長、味に問題でも?」
「いえ、とても美味しかったわ。この前みたいにレシピ貰えるかしら」
「はい、少々お待ちを」

 と言って、メモを取って真理子に渡した。

「ありがとう、西田さん何でも作れるのね、これからもバミューダをよろしくね」
「ありがとうございます、この西田これから先もここに骨を埋めるつもりで頑張ります」

 俺が話題を変える、

「永井はまだ休んでいるのか?」
「いえ、今日の会議後に今夜から出ると言ってましたのでそろそろ来ているかと」
「会ってこよう」
「この前みたいにならないでね」

 真理子が心配そうに言う、

「あいつはもう俺に逆らったりはしない」
立ち上がりスタッフルームへ向かう、真理子も後を付いてくる。
 スタッフルーム永井の個室をノックする。

「どうぞ」

 ドアを開けると永井はもう着替え終わっていた。俺に続いて真理子も入ってくる。何故か佐々木までいる、両手はまだ治ってないらしく包帯で指先しか出ていない。永井が、

「オーナーじゃないですか、昼間の会議中うとうとしてて失礼しました。顔の腫れももう治ったので今夜から頑張ります。それから社長、今まですいませんでした。心を入れ替えて仕事に精を出します」

 真理子は不思議そうに見ている、

「な、俺が言った通りだろ」

 と真理子に言うと、

「永井君真面目になったのね、よかったわ」
「オーナーのお陰ですよ」

 真理子は佐々木を見て、

「こちらの方は?」

 の問に俺が答える、

「もう一人雇うって言ってただろ、こいつがそうさ、怪我が治ってからだけどな、
「佐々木と言います、オーナーに用心棒として雇われました、まだ怪我が治ってませんがよろしくお願いします」
「そうだったのね、その手の怪我は?」
「オーナーにボコボコにされた結果です、心配しないで下さい、もうオーナーとやりあっったりしませんから、と言うかされたくないですね」

 と苦笑いをしている、

「ところでオーナー、包帯はまだしていますが、もう仕事は出来そうです。今夜から働かせてもらっていいですか?」
「お前が出来ると言うならいいぞ、主に夜の仕事だがな。手が治ったら永井のようにバーテンダーにでもなってみないか?」
「いいんですか?  自分は酒の事何も知らないですよ」
「誰でも最初はそうさ、永井から直接学ぶといい」
「わかりました、ありがとうございます」
「永井、お前の腕前を知りたい、ちょっと時間が早いが頼めるか?」
「わかりました、何をお作りしましょう?」
「ハイボールとカクテルを頼むよ」

 と言って部屋を出て、カウンターに腰を下ろす、永井も姿を見せる物陰から佐々木も見ているようだ。
 まずはハイボール、炭酸とウイスキーの割合はバッチリだった。

「カクテルは何にされますか?」
「俺はカクテルには疎いので任せるよ、得意なやつを作ってくれ」

 わかりました、と言い。
 シェイカーを振り始める、手慣れたものだった。俺と真理子の分二種類用意してあった、

「オーナーにはソルティードッグを社長にはモスコミュールを」

 ソルティードッグは初めてだった、グラスの縁に塩が盛ってある、実に美味い。真理子も満足気だった、

「暴走族上がりにしてはいい出来じゃないかこの質を落とさず精進してくれ、後佐々木聞こえてるんだろ?  出来そうか?」
「何故、元暴走族って知ってるんですですか本当に何でも知ってますね」

 永井はそれ以上追求して来なかった。
 佐々木も出てきて

「こいつは難しそうです、覚えるのにかなりかかりそうですがいいんですか?」
「一年だ、一年で覚えてみせろ。そうしたらバーテンとして給料を上げてやる」
「わかりました」

 と言って引っ込んで行った、

「真理子帰ろうか」
「ええ、そうしましょ。永井君頑張ってね」
「はい、社長」

 席を立つと、まだ残っていた西田と永井が見送りに出てきた、

「後は頼んだぞ」

 と言い車に乗り込み帰宅した、

「初仕事お疲れ様、見事ですわ」
「仕事が少ないな」
「もう整備士じゃないのよオーナーにはオーナーの仕事があるのよ。さっきのも立派なオーナーとしての仕事のうちよ。それにこれからは直人さんの店になるのよ、直人さんの一言で全てが決まるし変わるわ、仕事量も増えてくるわよ、サポートなら任せて」



 チャイムが鳴った、こんな時間に誰だ?
 二十二時半帰宅してすぐの事だった、インターホンでを確認して見ると例の刑事だ、一応聞いてみる、

「どちらさま?」
「夜分遅くにすいません、木下です」

 今頃になってやって来た、

「部屋には上げたくないんでね、下に降りるよ」
 真理子が心配そうにしている、

「木下って、直人さんが言ってたあの刑事さんかしら」
「そうだ、手は引いたと聞いていたが」

 真理子も上着を着て付いてくる、止はしなかった。
 エレベーターで下に降りる。

「今頃何の用かな?  飲酒運転で捕まえに来たのかな」
「私は私のワッパに誇りを持ってる、そんな事はせんよ、それよりもちょっと前まで整備士をしてて古い集合住宅に住んでた坂井さんがバミューダのオーナーになるとは驚きですな」
「それはこっちの問題だ口を挟まないでくれないか」
「失礼失礼」

 若い刑事の方はイライラしている。

「本題に移ってくれ、寒くて敵わん」
「もうお宮入りの事件だが、どこを当たっても坂井さんの名前が出てくるし、車も上野のベンツだった事くらいしかわからなかった、覚せい剤が絡んでいそうな事件だったから捜査してたんだがね。上野とあなたはどういう繋がりか、それと上野の舎弟と言うか子分みたいなのが二人バミューダで働いている。一人は先日大怪我でね、どういう事か教えてもらえるかね」

 尾行されていたらしい、全く気付かなかった
 望月のようだ、いやそれ以上か。

「俺は上野は知らんな話した事もない、それと覚せい剤なんて俺には興味ない、それに上野の取り巻き二人が両方もうちの店にいるのは偶然だ」
 若い方の刑事が怒りを堪えられなくなったのか。

「正直に答えないとぶっ飛ばすぞ」

 と、今にも飛びかかってきそうな気配だったので身構える、腕を掴もうとしている、柔道だと確信した、ステップで横に回り右フックで若い刑事は倒れた、が起き上がって来た、

「安田止めなさい、お前には到底勝てる相手じゃあない」

 木下はベテランと言われるだけあって、すぐに俺の力を見極めたようだった。
 安田と呼ばれた刑事も顎を擦りやる気をなくしたようだった。

「これ以上何かあるならうちの顧問弁護士呼びますわ」
 真理子が震えた声でそう言った、

「新田弁護士か、田辺さんいやもう坂井真理子さんでしたね、これ以上何もしませんよ、さっきも言った通り事件はお宮入りです。新田さんも怖いしもう帰りますよ。もう会うこともないでしょう」
 と言って木下と安田は帰って行った。
 車が去るのを待って部屋へ戻った、

「さっきのがボクシングなの?  一発だけだったけど殺気みたいなのが直人さんから出てて怖かった、でも警察相手に一発で終わらせるなんて格好よかったわ」
「あの程度なら容易いもんだ、あの刑事が弱かっただけの話さ、それより真理子これで警察も身を引いたし、今度こそ本当の終わりだよ、もう何も心配しなくていい、それと新田弁護士って優秀なのか?」
「ええ、この市内では一番じゃないかしら、それと本当に事件は終わったのね、あの木下さんから言われた時に一気に安堵感に包まれたわ」
「そうだ、もう警察ともヤクザとも無縁の世界さ」
「よかった、全部直人さんのお陰ね」
「運命のめぐり合わせってとこかな」
「直人さんに出会えた事に感謝するわ」
「俺もだよ、ありがとう幸せにするよ」
「私もよ、今とっても幸せ」
 真理子が抱きついて来てそう答える。改めて心から真理子に感謝した。
 この幸せは守り抜く、そう心に誓った。

 俺も真理子と言う幸せを強く抱きしめた。
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