Stars & the Moon

辻堂安古市

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Stars & the Moon

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 紅掛空色が
 だんだんと
 瑠璃紺色へ溶けて

 そして白銀の淡い光が
 静かな紺と黒の夜空を
 照らし始めた世界の奥深く。




 銀色の絹をまとった月の精霊・ルナと
 線香花火のように瞬く小さな北極星の精霊・ステラが
 藍白色の雲の端に腰を下ろして語り合っていました。


 下界では世界は深い紺碧に包まれ
 人間は寝静まっています。



「ねえ、ルナ。聞いてほしいの」 

 ステラは小さな光を震わせながら言いました。 

「私はときどき、悲しくなるの。あなたは大きくて、夜道を歩く旅人を照らすことができるわ。でも、私はこんなにちっぽけ。私がどれほど一生懸命に輝いても、誰の役にも立っていない気がするの」



 悲しそうに震えるステラに、ルナは優しく微笑みました。 

「ステラ。あなたは自分を小さすぎると思っているのね?でも、輝くことの意味は、大きさで決まるわけではないのよ」

 ルナはその銀色の髪をさらりと揺らし、自分の手をそっと夜空にかざしました。

「見て。私の光は、実は私自身のものじゃないの。私は太陽の光を受け取って、それをみんなに届けているだけなのよ。私は、暗闇を怖がる人たちのための『光を映す鏡』。それが私の輝き方なの」

 ステラはますます小さくなって言いました。

「でも私は……やっぱりそんなに輝けないもの」
 




「でもね」と、ルナは首を振ってステラの小さな手を握りました。 

「あなたは違うわ、ステラ。あなたの光は、あなた自身から湧き出ている『命そのものの光』。それは、何光年も遠く離れた場所に届くほど、強くて純粋な光なのよ」

「わたしの光が、強い……?」

「ええ。旅人は、私の光の下で道を歩くけれど、暗い海で迷った航海士は、あなたを見つめて自分の居場所を知るわ。確かに私は広く世界を照らすことができるわ。でもね。いつも夜空の一点にとどまって光っているあなたのほうが、『目的地』を示すにはふさわしいの」


 輝くことの本当の意味
 ステラは顔を上げて、少しだけ光を強くしました。

 「目的地……。私が、誰かの道しるべになっているの?」

 「ええ」とルナは頷きました。

「輝くということは、誰かに勝つことが全てじゃない。『私はここにいるよ。あなたと一緒にいるよ』と、誰かの孤独に合図を送ることなの。あなたがそこにいてくれるだけで、夜空は完成する。もしあなたが消えてしまったら、夜空には寂しい穴が空いてしまうわ」

 
 ステラは深く息を吸い込みました。
 すると、彼女の体から青白い、美しい光が溢れ出しました。


「私、わかった気がする。ルナが優しく包み込むなら、私は、私を見てくれる誰かに希望を届けたい」

「ええ。あなたの輝きは、きっと届いているわ」

 二人の精霊が笑い合うと、空には満天の星空と大きな月が並び、地上を照らしました。 





 その夜。
 ある詩人は その光景についてペンを走らせました。
 ある親子は 月と星の物語についてのお話を語り合いました。
 ある恋人たちは 窓の外を見て「綺麗だね」と呟きました。

 輝き方は違っても、それぞれの光が、誰かの夜を救っているのです。
 
 きっと、あなたも。




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