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32 ルキウス日記「我が行く手を阻むもの無し」
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〈記録日時:熱帯遠征より帰還後〉
――私は、ついに、私は真の美に到達するための聖域へと足を踏み入れた。
「王の果実」を求め、私が率いる精鋭美学部隊は熱帯奥地へと進軍する。
帝国地図にも記されていない、湿り気と狂気が渦巻くジャングル。帝都の洗練とは対極にある、この不潔極まる密林。湿度は私の完璧に整えられた前髪を執拗に乱す。視界を遮る蒸気の壁は、まるで私の美しさを試す“門”のようであった。
行軍の初日。
隊員たちは巨大昆虫の群れに襲われ、名もなき羽虫どもは私の白磁の肌を狙って無礼にも群がってこようとする。
「閣下、これ以上の進軍は……!部隊の損耗が……」
だが私は言った。
「恐れるな。彼らは我々の舞台に乱入した黒子にすぎない」
……その瞬間、昆虫の群れは私の言葉に怯んだのか、あるいは私の美学が眩しすぎたのか、音もなく散っていった。自然界でさえ、私の“気配”には膝を折るのだ。
実際には隊員もろとも電気ショックで薙ぎ払った。私の至高の肌に無粋な着地などさせぬ。
次に我々の前に立ち塞がったのは、底知れぬ泥沼。
隊員の一人が足を取られ、ずぶずぶと沈み始めた。
ああ、無粋な。視界に入るものすべてが私の美学を汚染しようとするこの状況こそ、至高の果実を手に入れるための「試練」という名の額縁ではないか。私は軍刀の柄で、その兵士の泥を優雅に払い除け、前進を命じた。
「貴様、私の美の旅路の途中で泥に飲まれるなど、画的に許されると思っているのか?」
……その声が合図だったかのように、泥沼そのものが震え、まるで恐縮したかのように、隊員を吐き出した。
自然ですら、私のシナリオを乱すまいとして協力する――これが“格の差”である。
何?私がどうしたか、だと?
私は泥になどまみれぬ。特注ブーツを汚すなど、言語道断。私は迷わず、動けなくなった重装歩兵の肩を足場にして優雅に歩を進めた。彼らの無骨な装甲も、私の靴底を汚さないための踏み台になれば、多少は芸術的価値が生まれるというものだ。
次に行く手を遮ったのは、原生植物。色とりどりの胞子を撒き散らす不潔な花ども。私の感覚を麻痺させようとするその香りは、安物の香水のようで吐き気がした。だが、それも私の放つ「気品」という名のバリアの前には無力。私は優雅に指を鳴らし、随伴の火炎放射兵に命じて、その不細工な生態系を焼き払わせた。
生態系破壊?
自然保護?
真理を教えてやろう。人が愛する自然とは、人に害を成す自然ではない事が絶対的な条件なのだよ。
数日後。
我々はついに、古代文明の遺跡へと到達した。
石壁には鮮やかなレリーフが刻まれ、その中心に記されていたのは古の文字。
「果物の王様」
それを見た瞬間、私の背中を電撃が走った。
いや、世界のほうが私の発見に震えたのだ。
遺跡の最奥――幾重にも施された封印術式を前にして、私は悟った。
この封印、あまりにも厳重。
あまりにも威圧的。
そして、封印の内側から放たれるこの“存在感”。
果実でありながら、まるで帝王の如き気配を周囲へと放っている。
私は震える声で呟いた。
「……これだ。
これこそが、私が求め続けた――真の美の核。
古代が畏れ、封じた“果物の王”。
『ロイヤル・フルーリ・カノン』の魂となる存在……!」
封印を解くとき、周囲の空気は確かに震えた。
隊員たちが息を呑む中、私はその果実を抱き上げた。
重い。
しかし、その重さは質量ではない。
王の威厳だ。
私は歓喜に打ち震えた。
もはや疑う余地はない。
私は、真の王を手に入れたのだ。
この果実を持ち帰った瞬間、私は思った。
これを砲に装填したとき――私の美学は、人類の常識を超え、神話へと昇華する。
いや、すでにして私はそこへ片足を踏み入れている。
この日記の続きを書く暇さえ惜しい。
私は急いで帰還し、王の果実を“美学噴進砲”へと組み込まなければならない。
世界よ、震えるがいい。
私はすべてを変える。
私の美が、時代を撃ち抜くのだ。
第3師団長 ルキウス・ヴァレンハイト
(美学追求者/王の光りと共に歩む者)
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