小さな子どもと太った男

辻堂安古市

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小さな子どもと太った男

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もし君たちに魂が宿っていたのだとしたら。
本当はどう思っていたのだろうか。





────────────────




少しだけ昔のお話です。
多くの国が話し合いではなく、
力で物事を解決しようとしていた、
そんな悲しい時代がありました。


力を示さなければ国が亡びる。
生き残るためには他の国を奪い、
他の国の言葉や文化も奪う、
それが「正しいこと」だった時代がありました。


どの国も生き延びるために戦うことを選びました。
そんな「戦争の時代」を終わらせるために、
ある国で「秘密兵器」が造られました。





すごい威力を持ったその「秘密兵器」は、
「小さな子ども」
「太った男」
と、名付けられました。


みんなは口々に言いました。
「こんなすごい兵器には、どこもかないっこない」
「この威力を見たら、この戦争もすぐ終わるだろう」
そうなんです。だれも本当に使うなんて思ってなかったのです。


「小さな子ども」は聞きました。
ねぇおじさん おじさん
ぼくたちは平和のために作られたんだよね?


「太った男」は答えました。
少年よ 少年よ
私たちは平和のために作られたんだよ。
これ以上多くの人が死なないためにね。






───でも。





──おじさん おじさん
  ぼくは ぼくはね
  あんなことはしたくなかったんだよ
  あんなことになるって思わなかったんだよ


──ああ少年よ 少年よ
  私は 私はね
  知っていたんだ 知っていたんだよ
  あんなことになることは分かっていたんだよ








8月6日。

ぼくは飛行機に乗せられた。
日本のHIROSHIMAという街の上空で
ぼくは落とされた。


ぼくのせいで熱と光と暴風が街を粉々になった。
そこにいる人たちを焼いてしまったんだ。
それから「黒い雨」は
さらに多くの人を苦しめてしまったんだ。




8月9日。

私もまた飛行機に乗せられた。
日本のKOKURAという街の上空では
落とされずにほっとしていたのだが
そのままNAGASAKIへ向かい
私もまた落とされた。


私もまた、熱と光と暴風で町を破壊し
そこにいる人たちを焼いてしまった。
私たちはこの世に「地獄」を作る、
「原子爆弾」という兵器だったのだ。






私たちは、「平和をもたらすもの」ではなかった。
私たちの名は、永遠に「地獄をもたらしたもの」として人々の間に語り継がれるのだろう。



ならばせめて。



「リトルボーイ」「ファットマン」

この名に続くものが、永久に現れないことを私たちは願う。
この名とともに、私たちがもたらしてしまった、あの地獄の光景を語り継ぎ、忘れないで欲しいと願う。
あのような悲劇が二度と繰り返されないように。


私たちの兄弟が永久に使われないことを、
戦争がなくなることを、
力の誇示で相手を圧する世界ではなく、
思いやりでつながる世界を。

私たちは、心から願っている。




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感想 1

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みんなの感想(1件)

織花かおり
2025.09.04 織花かおり

児童書なだけに重い話題も読みやすく、分かりやすく書かれていて、原子爆弾の目から見た戦争という視点が斬新でした。「平和」のために作られたと思っていた「リトルボーイ」に涙が出そうになりました。力で抑える「平和」は危うく、必ず悲劇を呼びます。このお話を読めば、そのことが子供たちの心に響くと思います。本当にたくさんのお子さんに読んでいただきたい。読ませていただいたこと、感謝いたします。

2025.09.05 辻堂安古市

織花かおり様

感想をお寄せいただき、ありがとうございます。
原爆の事を調べていた時、「最初ふらふらと落下した」とあり、それがこの物語に繋がりました。

この物語を読まれた方の心に、少しでも残ってもらえたら嬉しいです。

解除

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