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2.七星と少年
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◆◆◆
「魔力神経が────潰えている……!?」
「先生、それはどういった……」
俺には彼らが何を話しているのか分からなかった。病院に連れていかれたが、無知ゆえ何も理解出来ず親の顔色を伺うことしかできない。
だからこそ残酷だった。
「前例がない故あまり多くは語れませんが端的に申しますと……彼は魔法を行使できません」
病院で告げられた言葉、シチュエーションは今も夢に見るほどトラウマになっている。父の目が、心配の目でも哀れみの目でもなく“ゴミを見る目”に変わったあの瞬間は脳裏に焼き付いて、心を苛んで離してくれない。
この瞬間からだったのだろう。イオナヘク家に生まれたことが“誇り”から“呪い”へと変化したのは、
◆◆◆
魔法を使えない
父も、母も、後に生まれた妹も、そして同級生も────誰一人として“俺”を見ていなかった。魔法が使えないということに囚われ人間性を無視して放棄し切り捨てる。俺は生まれた時からイオナヘク家の道具でしか無かったのだ。
親は俺の事を恥だと思い、友人関係を全て上から強制的に絶ってきた。残されたのは孤独、そして地獄のような境遇での生活。
「魔法を使えない人間はイオナヘク家に必要ない」
出て行けと言われた方がどれだけマシであっただろうか?絶縁された方がどれだけ救いになっただろうか? それでも俺の処遇は一途を辿るばかりで絶縁などされることは今の今まで無かった。
必要ないのになぜ捨てないのか。理解できない。
俺も諦める気は微塵もなかった。滾る復讐心に身を任せ、本を読み漁り知識をつける。家の本棚の本を全て読破する頃には、俺の生きるための道筋がある程度分かり始めていた。
魔力は流せるので魔法陣を利用するのが良いと気づき、定めた方針の一つが“魔法陣”の利用による近接戦闘であった。
でもこの努力も思いも誰一人として理解はしようとしてくれなかった。ついさっきまでは
◆◆◆
七星の大魔導師という天才がいる。かつての戦役では一人で万人に匹敵する戦果を挙げ、全属性の魔法を極め遂には誰しも認める最強となった男。
俺にとっては理想であり、憧れであり、この人と並び立つために強くなりたいと思うほど鮮烈な存在だ。
「この面接、彼と二人でやらせてくれないか?」
何の因果がだろう。面接の場で出会うなんて夢にも思わなかった。それも何故か二人きり。
無礼のないようにできるだろうか、俺は俺のベストを尽くせるのだろうか。そう思うと身が強ばる。
「魔法を使ってくれないか?」
私は一瞬固まった。それもそうだ、全魔導師にとって究極の存在として崇められる男に「魔法が使えない」などと言えるはずがない。手袋を嵌めているので魔法陣起動による魔法自体は発動可能であるが、でもそれは“俺の魔法”ではない。
一瞬俯き、彼の目を見た。
そして理解した。彼は俺が魔法を使えないことは知っている上で問うていると。そうならば私は私の信じる道を見せるしかない。
(紅火)
魔力を流し、魔法陣を起動。出現したのは小さな炎だが、これは本来の用途では無いのでこんなものだ。
「噂について知っているか?」
……これほど高名な男が俺に目をかけているはずがない。事前調査に引っ掛からないようにはした筈だし、なんかしらの根も葉もない噂を耳にしてしまったのだろう。まぁ真実ではあるが。
「えぇ、何となくは。察するに魔法使用関連でしょう?」
くる
「やはり君は魔法を使えないんだな」
「……はい」
苦しい悔しい逃げ出したい。こんな惨いことがあるのかと、心の奥底から思い父母を磔にしてやりたいほど恨めしくなってくる。憧れに晒されているのは家の恥、そして知られてしまった悲しみ。
隠し通すことなどできなかったのだろう。光魔法を極めた物は魔力の察知能力が異常になる、身体から出た魔法と手袋から出た魔法では、感じ方も異なるに違いない。
「先天性魔力神経障害。魔力を魔法に変換することだけができない、そんな病気らしいです」
患者は世界で俺のみ。原因不明の不治の病。虚しい話だ、魔法の名家に生まれたことが俺を更に惨めに、地獄のような環境へと後押ししたのだから。
「あなたに憧れもがいてきた。見返すために努力した。誰も頼れず本を読み漁り、こんな答えに行き着きました」
それが魔法陣だった。今はそれを応用したものの作成をしているが────一次試験で試作品が壊れたので今は放置している。
これが到達点だとは微塵も思っていていない。魔法を使えるのがベスト、これはあくまで次善策に過ぎないし俺の立ち回りは常に変化しなければならない。魔法陣戦闘はどうしても、多対一には弱いのだから。
「試験という場、本来であれば君は落ちる。何せ魔法が使えないというのは死活問題、どんな理由があれど命に大きく影響してくる。君は弱いから」
「……」
ぐうの音も出ない。俺は確かに弱い。年端もいかぬ妹にボロ負けした時夜は涙で枕を濡らしたし、メンタルも身体も実力も全てが弱い。
落ちるのは分かっている。受かれば妹の引き立て役として扱われる未来、落ちても同様。無能な兄の存在をここで公にして家督を継ぐのに妹が相応しいことを証明するのに親は必死だ。
「でも強くなればいい」
そう言いながら彼は不合格の欄にハンコを押した。
俺は驚いた。話の流れと行動が噛み合わず、それに加えて彼はまだ面接を終わらせる気がないのだから。
「今日の私は面接官。加えて過去の経歴的に即断即決が許される立場にある。君の処遇をこの場で決めることなんて造作もないのさ」
待て、処遇?
「君は王立テラス士官学院において魔導士として100点満点中堂々の0点、文句なしの不合格だ。それは分かるね?」
話の方向が分かってきた。この人は何かをしようとしている。ふざけていて、アホらしくて、それで何かをしでかしそうな感じがして、どこか胸騒ぎがする。
「不合格にする理由は単純で、さっきも言ったように君が弱いからだ。強くなればいいとは言ったが、そんな一朝一夕で済む簡単な話ではない。最速でも数年は要するだろう」
「……」
「でも君の努力を鑑みれば報われるべきだ」
サラサラサラッと用紙に何かを記入する。あれは……備考欄?書き終え、それを俺に提示してきた。
『備考:此度は不合格ではあるものの見所あり。『七星の大魔導師』が半年預かった後、転入という形での入学をさせる』
「最速最短で私が君を強くすると約束しよう」
「魔力神経が────潰えている……!?」
「先生、それはどういった……」
俺には彼らが何を話しているのか分からなかった。病院に連れていかれたが、無知ゆえ何も理解出来ず親の顔色を伺うことしかできない。
だからこそ残酷だった。
「前例がない故あまり多くは語れませんが端的に申しますと……彼は魔法を行使できません」
病院で告げられた言葉、シチュエーションは今も夢に見るほどトラウマになっている。父の目が、心配の目でも哀れみの目でもなく“ゴミを見る目”に変わったあの瞬間は脳裏に焼き付いて、心を苛んで離してくれない。
この瞬間からだったのだろう。イオナヘク家に生まれたことが“誇り”から“呪い”へと変化したのは、
◆◆◆
魔法を使えない
父も、母も、後に生まれた妹も、そして同級生も────誰一人として“俺”を見ていなかった。魔法が使えないということに囚われ人間性を無視して放棄し切り捨てる。俺は生まれた時からイオナヘク家の道具でしか無かったのだ。
親は俺の事を恥だと思い、友人関係を全て上から強制的に絶ってきた。残されたのは孤独、そして地獄のような境遇での生活。
「魔法を使えない人間はイオナヘク家に必要ない」
出て行けと言われた方がどれだけマシであっただろうか?絶縁された方がどれだけ救いになっただろうか? それでも俺の処遇は一途を辿るばかりで絶縁などされることは今の今まで無かった。
必要ないのになぜ捨てないのか。理解できない。
俺も諦める気は微塵もなかった。滾る復讐心に身を任せ、本を読み漁り知識をつける。家の本棚の本を全て読破する頃には、俺の生きるための道筋がある程度分かり始めていた。
魔力は流せるので魔法陣を利用するのが良いと気づき、定めた方針の一つが“魔法陣”の利用による近接戦闘であった。
でもこの努力も思いも誰一人として理解はしようとしてくれなかった。ついさっきまでは
◆◆◆
七星の大魔導師という天才がいる。かつての戦役では一人で万人に匹敵する戦果を挙げ、全属性の魔法を極め遂には誰しも認める最強となった男。
俺にとっては理想であり、憧れであり、この人と並び立つために強くなりたいと思うほど鮮烈な存在だ。
「この面接、彼と二人でやらせてくれないか?」
何の因果がだろう。面接の場で出会うなんて夢にも思わなかった。それも何故か二人きり。
無礼のないようにできるだろうか、俺は俺のベストを尽くせるのだろうか。そう思うと身が強ばる。
「魔法を使ってくれないか?」
私は一瞬固まった。それもそうだ、全魔導師にとって究極の存在として崇められる男に「魔法が使えない」などと言えるはずがない。手袋を嵌めているので魔法陣起動による魔法自体は発動可能であるが、でもそれは“俺の魔法”ではない。
一瞬俯き、彼の目を見た。
そして理解した。彼は俺が魔法を使えないことは知っている上で問うていると。そうならば私は私の信じる道を見せるしかない。
(紅火)
魔力を流し、魔法陣を起動。出現したのは小さな炎だが、これは本来の用途では無いのでこんなものだ。
「噂について知っているか?」
……これほど高名な男が俺に目をかけているはずがない。事前調査に引っ掛からないようにはした筈だし、なんかしらの根も葉もない噂を耳にしてしまったのだろう。まぁ真実ではあるが。
「えぇ、何となくは。察するに魔法使用関連でしょう?」
くる
「やはり君は魔法を使えないんだな」
「……はい」
苦しい悔しい逃げ出したい。こんな惨いことがあるのかと、心の奥底から思い父母を磔にしてやりたいほど恨めしくなってくる。憧れに晒されているのは家の恥、そして知られてしまった悲しみ。
隠し通すことなどできなかったのだろう。光魔法を極めた物は魔力の察知能力が異常になる、身体から出た魔法と手袋から出た魔法では、感じ方も異なるに違いない。
「先天性魔力神経障害。魔力を魔法に変換することだけができない、そんな病気らしいです」
患者は世界で俺のみ。原因不明の不治の病。虚しい話だ、魔法の名家に生まれたことが俺を更に惨めに、地獄のような環境へと後押ししたのだから。
「あなたに憧れもがいてきた。見返すために努力した。誰も頼れず本を読み漁り、こんな答えに行き着きました」
それが魔法陣だった。今はそれを応用したものの作成をしているが────一次試験で試作品が壊れたので今は放置している。
これが到達点だとは微塵も思っていていない。魔法を使えるのがベスト、これはあくまで次善策に過ぎないし俺の立ち回りは常に変化しなければならない。魔法陣戦闘はどうしても、多対一には弱いのだから。
「試験という場、本来であれば君は落ちる。何せ魔法が使えないというのは死活問題、どんな理由があれど命に大きく影響してくる。君は弱いから」
「……」
ぐうの音も出ない。俺は確かに弱い。年端もいかぬ妹にボロ負けした時夜は涙で枕を濡らしたし、メンタルも身体も実力も全てが弱い。
落ちるのは分かっている。受かれば妹の引き立て役として扱われる未来、落ちても同様。無能な兄の存在をここで公にして家督を継ぐのに妹が相応しいことを証明するのに親は必死だ。
「でも強くなればいい」
そう言いながら彼は不合格の欄にハンコを押した。
俺は驚いた。話の流れと行動が噛み合わず、それに加えて彼はまだ面接を終わらせる気がないのだから。
「今日の私は面接官。加えて過去の経歴的に即断即決が許される立場にある。君の処遇をこの場で決めることなんて造作もないのさ」
待て、処遇?
「君は王立テラス士官学院において魔導士として100点満点中堂々の0点、文句なしの不合格だ。それは分かるね?」
話の方向が分かってきた。この人は何かをしようとしている。ふざけていて、アホらしくて、それで何かをしでかしそうな感じがして、どこか胸騒ぎがする。
「不合格にする理由は単純で、さっきも言ったように君が弱いからだ。強くなればいいとは言ったが、そんな一朝一夕で済む簡単な話ではない。最速でも数年は要するだろう」
「……」
「でも君の努力を鑑みれば報われるべきだ」
サラサラサラッと用紙に何かを記入する。あれは……備考欄?書き終え、それを俺に提示してきた。
『備考:此度は不合格ではあるものの見所あり。『七星の大魔導師』が半年預かった後、転入という形での入学をさせる』
「最速最短で私が君を強くすると約束しよう」
応援ありがとうございます!
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