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【最終章】「腹黒王子と俺、今ではすっかり″恋人同士″です(ただし逃げ場はない)」
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しおりを挟む「でさ、次のイベントの買い出し担当、まだ決まってないんだけど」
生徒会室の端で、凪くんが書類をぱらぱらとめくりながら言った。
「美咲くん、買い出し付き合ってくれる? その顔面偏差値なら、僕の横にいても遜色ないし」
「えっ、ああ、はい……?」
俺が反射的に返事をすると、隣で晴人がピタリと手を止めた。
「……ふぅん」
「なに、晴人」
凪くんは晴人の顔を覗き込み、にやりと笑う。
「また“嫉妬”しちゃうの?」
「してるけど?」
即答すなぁ。
「あー……」
会長が椅子にのけぞりながら額を押さえた。
「お前ら、喋るたびに生産性が下がるな……」
「じゃあさ、要はどう思う?」
凪くんがすかさず振ってくる。
「美咲くんみたいな庶民系男子と晴人。僕とどっちが釣り合ってると思う?」
「しらねぇよ」
会長は即答したが、凪くんはにやにやしている。
「もしかして……嫉妬?」
「……するか馬鹿。こいつが“可愛いお姫様”なわけあるかよ」
言いながら、会長は凪くんの方向を人差し指で指した。
「どっちかといえば……クッパだろ」
「……っはああああああああ!?!?!?」
凪くんの怒声が室内に響き渡る。
次の瞬間、彼は勢いよく立ち上がり——そして放った。
「昨日も僕に“アンアン”鳴かされてたくせに、よくそんな口きけるよねえ!!?」
「!!!!?????!!??!」
え、え、えええええええええええええ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!
口から心臓が飛び出しかけた。
なに!? いまの!?!?!?
えっ、俺様会長が……!? アンアン……!?!?
「……おい、凪」
会長の声が低くなる。
頬が、りんごのように真っ赤だった。俺は生まれて初めて、″赤面する俺様″を見た。
(……ま、まさか……このカップル、逆……!?)
俺の脳内には、即座にBLノートの新章タイトルが浮かぶ。
——《絶対君主の下克上 ~俺様会長は受けだった!?~》
うわああああ……!これは書きたい……でもまずは落ち着こう……!
「ちょっ……と待って……!? 会長、そっち……!?え、まじで、凪くんが……?」
「聞こえないふりしろ。全部忘れろ。脳を初期化しろ、根津」
「えっ無理です無理です……!すでに記憶に永久保存されてます!!」
俺がわたわたしている横で、凪くんはふんっと鼻を鳴らす。
「要は、僕じゃないとダメなんだから。美咲くんには悪いけど、君の席は空いてなかったよ?」
美形カップルの、まさかの、上下逆転!!!?
護堂会長、まさかの受け……!!!
「あはは、やばい、要の顔、真っ赤~」
凪くんはまるで他人事のようにケラケラ笑ってる。
一方で、俺の頭の中では「俺様受け」の可能性が無限に膨張していた。
(……見た目×中身のギャップ、最っ高かよ……)
晴人が横でくすくすと笑っている。
「根津くん、顔、にやけてるよ」
「ち、ちがっ、俺は何も、なんでもないですっ!!」
けれど本当は何よりもテンションが上がっていた。
会長×凪くんじゃなかった、凪くん×会長だった。しかも、凪くんは自覚して“攻め”だった。
——最高に萌えるじゃん。
もしかしたら、俺は今、人生で一番尊い瞬間に立ち会ってしまったのかもしれない。
(今日って、奇跡の日じゃね……?)
そんなふうに思ったところで、隣の晴人と目が合った。
彼は、心底楽しそうに笑っていた。
「君の頭の中、今すっごく忙しいでしょ?」
「………………はい」
——俺、今日、帰りたくない。
***
「……で、要は誰が好きなの?」
突然の凪くんの言葉に、会長はペンを置いて無言になった。
「誰って……?」
「美咲くん? 晴人? それとも……僕?」
三択の中に自然に自分を入れてくるところが、凪くんの凄さだった。
……というか、いきなり修羅場案件をぶち込んでこないでくれ。
「………………」
会長のこめかみがピクリと動いた。
「いい加減にしろ。お前の冗談は面倒なんだよ」
「え~? じゃあさ、要が美咲くんのこと好きって言ったら、どうする? 僕、泣いちゃうかも~」
からかうように肩に寄りかかる凪くん。
その瞬間だった。
「酷い言い草だね」
晴人の声が、ぴたりと割って入る。
「そんな言葉、要に嫌われちゃうよ?」
一見穏やかな声音。けれど、笑っていない。
晴人はすっと立ち上がると、会長の席へと歩み寄った。
「ね、要。凪って、時々ほんと空気読めないよね?」
「……お前が言うか」
晴人の言葉に、要は半眼で返す。
しかし凪は、軽く鼻で笑っていた。
「はあ? 要は僕のこと大好きだから大丈夫だし。……晴人とは違うんだよ、僕は」
その瞬間、ぴたりと空気が変わった。
「……そっか」
晴人の指が、するりと会長のネクタイに触れる。
指先で器用に結び目を解き、ゆっくりと引き抜いた。
「……あんなこと言ってるけど、要はどうしたいの?」
その動作は、どこか挑発的で——艶やかですらあった。
(……え、え……ちょっ……ま……)
目の前で繰り広げられる″晴人×会長″の構図に、俺の脳内が一瞬で飽和する。
いやいやいやいや……何それ何それ……何その手つき……色気がバグってる……っ!!
えっ、晴人が攻め? 会長が受け? 今のシーン攻×受の扉絵じゃん……!!
固まったまま動かない会長の頬を白い指が撫でて、ネクタイが無くなった涼しげな首元が見える。
ひぇぇぇえ!!!供給過多!!正しい腐男子の殺し方!!!
「うるっさいなあっ!」
バン、と凪がテーブルを叩いた。
「要はお前みたいな性悪じゃないの! ベタベタしないでくれる!? 僕の要なんだからね!!」
「……自分は人のモノにベタベタ触っておいて、何を偉そうに」
晴人が、静かに言った。
その顔は微笑んでいたが、言葉には鋭い棘があった。
「……てめえら」
次の瞬間、会長が低く呟いた。
「……お前ら、全員五月蝿い。邪魔だから帰れ。」
「え?」
「ええ?」
「え……俺も???」
美咲、晴人、凪。全員、ポカンとした顔を並べる。
ポイポイポイと鞄と荷物を廊下に放り出され、会長の本気が分かった。
「お前らのせいで、1ミリも仕事が進んでねぇんだよ。……凪、お前はあとで覚えとけ。晴人、お前もだ」
「えー、僕そんな悪いことした~?」
「…うーん、これは武が悪いから、大人しく帰ろっか根津くん」
「あ、え、俺も?」
いやいや俺あんたらと違って生徒会役員なんですけど、副会長なんですけど。
そりゃ仕事の中身はほとんど会長の雑用だけど——、
部屋に戻ろうした手は、会長にはたき落とされた。
「お前がいたら、晴人まで残る。晴人がいたら凪が帰らない。邪魔だから帰れ。」
「そんなぁ……」
会長の一言で、俺たちは生徒会室から追い出された。
すごすごと帰りながら三人で反省会を開く。
「……ねぇ、美咲くん。僕のなにが悪かったのかな」
「凪くん、最後まで怒られてたよね」
「ねえ根津くん。さっき妄想してたこと、あとでちゃんと僕に教えてね」
「…アンタはちょっとは反省しろ……」
寮まで一緒に行くかと思ってたけど、凪くんは「買い物があるから」と途中で解散した。
晴人と二人で並んで帰るのは久しぶり…、というか初めてかもしれない。
初々しい初夏の風が二人を包んでいた。
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