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【1周目】最強の″推し″を幸せにしたいモブが、激重執着を引き出して地獄みたいな溺愛えっちされる話。
3
家に帰って扉を開けた私を出迎えたのは、
顔の高さにある鍛えられた大胸筋だった。
『は?』と目を見紛うのも束の間、ぎゅっと太い腕にそのままホールドされて頭上の夕色の瞳と目が合う。
ニコッと軽やかに微笑んだフレックスを見て、逃す気はないらしいと察したリセは全身にダラダラと汗を流しながら『ただいま…』とか細い声で呟いた。
「今日のアレはなんだったのかな」
「アレ、とは」
「分かってるだろ?俺はあんな無茶な戦い方教えていない」
ひぇー怒っていても声が良い。なんて惚気てる場合じゃないことは馬鹿でも分かる。
額に青筋をたてたフレックスの腕に抱かれリビングに連れられていく最中、カフェ代無駄になったな…。とリセは内心でぼやいた。
この子が無茶な戦い方をしだしたのは、一体いつからだったろう。
いつもは俺が教えた通りに身の守りを固めて、魔獣に狙われないよう戦場を駆け回りながら一体づつ確実に魔獣の核を破壊する。
それがある日から突然、わざと魔獣を惹きつけるように広範囲の魔術を扱ったかと思えば同期達から離れて一人で魔獣を処理することが増えていった。
(それと、たまにある妙な魔力の気配…)
魔術師にはたまに″稀人″と呼ばれる稀有な魔力を持つ人間が現れる。
指導しているセーニャがいい例だ。
本来人の身体に干渉するには高度な魔力操作が必要で、その危険性から国に禁止されているが彼女は″聖女″とも呼ばれ人を癒す特別な魔力を保持している。
フレックスも血筋柄、魔獣を一瞬で粉に変えることが出来るほど高出力な特異な魔力を保持していた。
(リセは稀人ではないし、魔力も人並みのはずだ)
魔力検査で測定された数値でもそれは確認出来ている。
しかしどんなに死に直面しても死なない異様な悪運の強さと、危なっかしい彼女の戦い方は、妙な噛み合い方をしていた。
彼らの会話が気になって戦闘の記録玉を見たフレックスは、今日また危険を侵したリセに堪忍袋の尾が切れそうだった。
なぜ、自分の教えた通りにしない?
誰に強制されているわけでもなのに囮になって、
魔獣の恐怖を忘れたのか?
自分がよく知っている彼女は、こんなに馬鹿な行動をする人間だっただろうか?
日の近くには長期の遠征も控えている。
今回は大規模な魔獣討伐になりそうだし、次は自分も最前線に出る予定だ。何かあっても助けに入ることは出来ない。
なのに、リセ本人がこんな調子では命がいくつあっても足りない
これまでどれほど運が良かったとしても、人間は死ねばそれまでなんだから。
「……リセ、私が言いたいことは分かるね?」
「…………はい」
怒られたときに身を小さくする彼女の癖は、6年前から変わらない。
そう悲しそうな顔をされるとつい甘やかしてしまいたくなるけれど、自分も隊を任された身だ。
彼女が行動を鑑みないのであれば、今度の遠征から除名するのも手だろう。
「君の魔力は多くない、君の魔術は強くない。……私の戦い方を参考にしているのなら、どうか止めてほしい」
「………」
「分かってくれ。君は出来ることを十分してくれている。過度な行動に出た魔術師がどうなるかは散々教えてきたはずだ。」
「…………はい、ごめんなさい………」
「………分かったならいいんだ。…でも、もしまた同じような真似をすれば私は隊長として君の安全確保をするよ」
「っそれ、って………除名ってこと……!?」
突然、彼女の目の色が変わった。
珍しく真剣な顔をして焦った様子に、こちらが戸惑う。
魔術師として居場所を得て、同期という友達が出来て、その環境を失くすのは今の彼女にとって大きな痛手なのか。
これまでのどの言葉より、業務上の忠告は″効いた″らしい。
「……俺は、家族も部下も死なせるつもりはない。」
「…………」
リセは、言葉もなく俺を見上げていた。
「分かり、ました…………。もう、……しません……………」
とても悲しそうな声をしてそう言う彼女に、
グッと喉が詰まる感覚がしたけど。
『良い子だね』と俺はなるべくこの汚い本性が彼女に悟られないように、笑った。
——————
あれから、リセは同期達と隊列を組み的確に役割をこなしていた。
これなら大丈夫だろうと遠征の人員にも組み込まれ、セーニャもロイドも他の仲間たちも『憑き物の戦闘狂は落ちたか』と彼女を揶揄して笑っていた。
変わったはずの、リセ。
しかし、次の遠征での彼女の活躍は、酷いものだった。
「待てリセ!戻れ!!君の手に負える相手じゃない‼︎‼︎」
(分かってる。″知ってる″んだよフレックス。
でも、コイツすっごいずる賢いからさ。
貴方とこの魔獣を相対させたらコイツ、
セーニャを人質にとって貴方を殺すんだよ。)
制止する隊長の声を振り切り、リセは豚のような特徴をした巨体の魔獣を防御壁で囲み自分の方へ無理矢理引き連れた。
仲間と協力する気なんて欠片もない動きに、同期達も制止しようとするが、魔獣の数が多くその手は届かない。
そのままリセはフレックスの方へ向き直ることはなく、『みんなをよろしくね』と言って森の中へ魔獣と共に消えていった。
——何回、死んだんだろ。
あと、何回やり直したら、
コイツを殺せるんだろう。
馬鹿みたいな巨体しやがって、このデブ魔獣が。
おかげで私の非力な魔術じゃ全然こいつの身体に致命傷が入らないんだけど。
フレックスみたいな強い魔力があったら話は別なのに。
はー、なんで私には魔力の才能がないんだろ。
………でも、何度死んでも、やり遂げなきゃ。
フレックスにはセーニャがいて、私が死んでも大丈夫かもしんないけどさ。
でも無事に死亡フラグが折れてるかなんて、戻るまで分かんないじゃん。
この戦場が、貴方が生きるかの分岐点。
最強の貴方が側にいたらみんなを守ってくれるよね。
だから、私がコイツさえ始末すれば、誰も死なない新しい″ルート″がやっと見れるってわけ。
コイツ一体どうやったら殺せんだろ。
…………あ、
そっか。別に馬鹿正直に剣みたいに魔術で切り付ける必要なんてないじゃん。
人間も魔獣も、″防御できない場所″は絶対にあるんだから。
パシュン
軽い音を立ててリセの手から放たれた小さな魔術は、
こちらへ襲い掛かる魔獣の″眼球″に真っ直ぐ着弾した。
「ギュ、オ、オオオッ″ッ″ッ″オ″オ″オ″オ″オ″オ″‼︎‼︎‼︎‼︎」
「…やっと、悲鳴らしい声が聞けたね。……痛い?
お互い様だよね、アンタだって何度も私のこと殺してんだから。」
この世界線の豚魔獣に言ったところで意味なんてないのに、何度も殺された恨み節が口から溢れた。
それと同時に目から血を流し怯む魔獣の顔目掛け大量の氷柱を発現して発射する。
その氷には、周りの木の蔓や泥を混ぜ込ませ、飛ばした。
身体に攻撃が通らないのであれば内臓に直接ダメージを与えればいい。再生できないように傷口に泥を擦り込んで、肉に蔓を埋めて木に巻きつけて動けなくしてやろう。
無慈悲なくらい冷徹に、リセは魔獣に氷柱を食らわせ、痛みで苦しみ悶える隙に距離を取るため走り出した。
追いかけっこには自信がある。
少ない魔力で戦うため、戦場を駆け回りながら魔術を扱う訓練だけは人一倍してきた。
あなたの血が流れ出て出血死するまでに、
私を捕まえられるかな?
ほら、動けば動くほど蔓が巻き付いて、逃げられなくなるよ。
その馬鹿力で木ごと引っこ抜く?
試してもいいよ。
もしまた死んでも、次のあなたを殺してみせるから。
ねえフレックス。
貴方の死亡フラグ、回避できたかな。
——————
大量の魔獣に手を焼かれ自分から離れる彼女に手を伸ばすことが出来なかった。
『みんなをよろしく』と言った彼女の言葉に、ただただ憤りを感じる。
なあリセ、君、いつからそんな偉くなったんだ。
人を守れるほど君は強くないだろ。
みんなって、誰のこと言ってるんだい。
特務隊の人間全員、俺にとってはかわいい部下。
そこに君も含まれてるって、まだ分からないのか?
「こっちにリセの魔力を感じます!!」
漸く魔獣の殆どを始末できた頃には、リセが離脱して一刻以上の時間がたっていた。
魔力探知が出来るセーニャの声に従い鬱蒼とした森の中を走る。初めに違和感を感じたのは酷い悪臭だった。
傷だらけで木の蔓に巻き取られ動けない魔物は、ひゅーひゅーと僅かな息で生きながらえていた。
骨まで見える傷口に泥が入り込んでいてもうまともに動くことも出来ないらしいそれは、ただ命が尽きるのを待っている事しかできない。
これを、リセがしたのか?と呆然としたのも束の間。
『リセ…‼︎』と叫ぶセーニャの声に現実に引き戻された。
彼女は、近くの藪の中で血を流し倒れていた。
息はあるが、意識はない。
全身をズタズタに引き裂かれ足が変な方向へ曲がって血を流しているリセを見た瞬間、俺は自分がとんでもない間違いを犯したことに気がついた。
「リセ、リセ‼︎ 今助けるから、しっかりして‼︎」
悲痛な声を上げながら彼女が自分の魔力を注ぐ。
リセの周りに魔術陣が発現し彼女の身体を包むように淡い魔力の泡がリセの姿を覆い隠した。
——なんで、おれは、リセを連れて来てしまったんだろう。
俺は隊長なのに、
不適格な部下を除名する選択肢もあったのに
リセが死んだらどうしよう。
魔術師なんて、毎日のように死んでいく。
この子の危なっかしいやり方なら、
早死にするのは分かってたのに。
なのになんで俺は、コイツを除名しなかったんだ。
こんなことになるなら、嫌われてもいいから切り捨てるべきだった。
もう、
悪臭さえ感じなくなるほど、
目の前がどす黒く染まっていく感情が、
フレックスの中を静かに満たした。
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