【R18】″推し″に幸せになってほしいだけなのに。(最強の推し×死に戻りモブ)

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【2周目】嫌われ者のモブ、実は最強の“推し”から溺愛執着されてました。

9



1周目の私は、モブのくせにみんなの近くに居座り過ぎた。

フレックスが家族になって、ヒロインであるセーニャと友達になって、同期のロイドやセグエス達とも仲良くなって、大変だったけど毎日楽しかった。


でも、それじゃ駄目なんだ。


フレックスに好きと言われた時、今更逃げようもないのにどうにか過去に戻れないかと本気で思った。
思えば同期のみんながやたらと事故するのが多かったのだって、ゲーム本編に本来存在しない私がみんなと仲良くしてたせいでセーニャ達の好感度と友好度がバグってしまってたのかもしれない。
私は、本来いてはいけない人間だから。


(……でも、それでも、運命を変えたい)

あの豚魔獣さえ始末してしまえば、フレックスが死なないことは確認出来た。それならこれから約6年、あの遠征までの間私はなるべくフレックスとも同期とも距離を置いて関わらないようにしながら生きて行けばいいだけの話だ。


…大丈夫、もし失敗しても、


何度だってやり直せばいいんだから。








——————



「…初めましてお嬢さん、私のことは…ご存知かな?」

目を覚ました時、はじめに消毒液の臭いが鼻をついた。
近くに控えていた女性が私が目覚めたことに気がついて、『少し待っていてね』と声をかけ何処かに行ってしまう。
少し見慣れた光景と様相が違っているけれど、ここは討伐魔術隊の医務室だろう。
すぐに戻ってきた女性の隣には、まだ未成年のころの懐かしいフレックスが共に連れ立って来ていた。
そこで、話しは冒頭に戻る。


「………いいえ」
「そうか。それならまず自己紹介をしよう、私の名前はフレックス。魔術師として、魔力のある人を集めて魔術を扱えるように指導している。」
「……」

ほんとは、知ってる。
でも出会ったばかりの貴族邸から出たこともない厩舎員の女が、彼のことを知ってるはずがないから嘘をついた。

「君の名前も、教えてくれるかな?」
「…………」


当たり前だけど、フレックスも自分の名前を忘れてる。
そんなの分かっていたことなのに、何故か胸がずんと重くなって泣きそうな気持ちになった。



「………リセ、です。」

「……そう、リセ……いい名前だね。
 まずは、気絶している君を無理矢理連れて来てしまったことを謝らないといけないね。すまない、君のことは屋敷の当主から話を聞いた。両親は居らず、本来は学校に通う歳なのに厩舎員として労働をしていると。」

「…はい」

「私の勝手で申し訳ないが、あの家の者達の元にいるのは君に悪影響だと判断した。…これからは、私が君の後継人となり身の安全を保証しよう」

「…………」



ああ、私が生き残ってしまうとやっぱりこうなるのか。
フレックスは優しいし、責任感があるから、
厩舎小屋で働く子どもを放置なんて出来ないんだろう。


「……腕にあざがあったが、あいつらに折檻されていたのか?」
「………あざ?」
「鞭打ちの跡のような、ひどい痣だった」

……折檻なんてそんなもの、されたことない。
鞭打ちの跡のような痣なら、もしかしたら馬の世話をしているときに尻尾があたって出来るかもしれないけど、
でも私が担当していたあの子は人懐こくて尻尾が勢いよく私に当たるなんてことはそうそう無かったし、心配そうにこちらを見る女性と彼の視線に困るほど何もピンとくるものが無かった。


「虐待であれば放置なんてできないからね、辛い記憶なら思い出さなくていいよ。これからはそんな目に合うことはないから安心してほしい」


……フレックスは、何を言ってるんだろう?
私はべつに、辛いことなんて何一つされてないのに。
むしろ親のいない子どもを引き取って、飯と寝る場所を用意してくれただけあの家の方達には恩を感じている。
私を放ってみんな逃げ出したことは、許しはしないけど。




それから、
フレックスに手を引かれて
私は見慣れた家に連れられて行った。

6年間ずっと暮らして来た彼の家、ドアが開かれた瞬間嗅ぎ慣れた匂いが肺に広がる。
不意に溢れた『ただいま』という言葉に、フレックスはとても驚いた顔をしていて、すぐに″しくじった″と頭に警報が響いた。
けれどすぐに彼は嬉しそうに頬を緩めて、私の手をしっかりと握り込んで言葉を返した。


「おかえり、リセ。これからは、ここが君の家だよ」


兄として、親代わりとして、微笑む彼は
6年後に犯罪を冒してまで私を閉じ込める人にはどうしても見えなくて、
6年間、甘え続けてきた頼り甲斐がある優しい笑顔に今すぐ縋り付きたくなるのをグッと堪えた。






——————




それからの日々は、記憶にある幼いときの記憶よりも想定外に甘い日常だったと思う。

『好きなものを食べていいんだよ、腹一杯になったらあとは俺が食べてあげるからね』
『服も買いに行こっか。リセちゃんはどんな服が好き?』
『もっと甘えていいんだよ。俺はリセのことを妹みたいに思ってるから』
『フレックス″さん″じゃなくて、フレックスって呼びな?』

ああ、確かに前にもこんなことを彼は言っていた気がするけれど、あの時は私もまだ幼くてゲームの中の彼を知っているとはいえ見ず知らずの人間に突然身の回りの世話をしてもらえるようになって頭が麻痺していたから、
彼の保護が、こんなにも過保護だったことはすっかり忘れていた。

フレックスと衣食住を共にして一週間目、
栄養失調でほとんど脂肪がなかった身体は年相応に飯が食べられる程食欲が戻った。
『どこで魔術の扱い方を学んだんだ?』と聞くフレックスに『誰にも教えてもらってない』と嘘を並べて彼に教えてもらった料理の作り方で晩飯を用意する。
疲れて帰って来たフレックスは出来上がっている食事に目を見開いて少し固まってしまった。その後私の手を急に掴んで、『怪我はしてない!?』と声を荒げられてこちらが驚く。
ああ、そっか。彼にそうしてもらうのが当たり前過ぎて、お返しすることも日常に溶け込んでいたから忘れてしまっていた。
私たち、家族になったばかりでまだこんな距離感じゃなかったね…。


「あの、フレックス」
「ん?なあに、リセ」
「…私に、魔術は教えてくれないんですか」


家族になって一月がたった頃。
一向に私を魔術師候補生として登録しようとしない彼に業を煮やして問いかけてしまった。
だって、今回の彼は私が魔術を扱えるから、腕を見込んで私をここに連れて来たはずだ。
だというのにあれから一月、やることといえば彼が呼んだ家庭教師に学を学びながら空いた時間で家事をして、フレックスの帰りを待つ毎日。
魔術師としてなんの成果も出していない私に彼は毎日のように″頑張っているご褒美″と言ってケーキやお菓子を持って帰ってきてくれて、綺麗な服も何着も買ってもらった。


「……魔術師に、なりたいのかい?」


質問されたフレックスは、浮かない顔をしていた。
いつか言われると分かっていたけど、それでも言わなかった。そんな顔。
彼が目を伏せる意味が分からなくて、
私は自身の目的の遂行のため、言葉を続けた。


「はい。私は魔術を扱えるようになるため、ここに来ました。」
「……止めておきなよ。魔術師なんて、碌な仕事じゃない」

一瞬、何を言われているか理解できなかった。
頼り甲斐があって、優しくて、情深くて、ゲームでヒロイン達を率いる上司でありながら師匠として魔術師として生き抜く方法を入念に教えてくれるフレックス。
前回の人生で、魔力の使い方さえ知らない私に時間を割いて手解きして教えてくれた人。
そんな彼から魔術師を否定する言葉が出るなんて思わなくて、
脳が、理解するのを拒んだ。


「なんで、そんなこと言うんですか…っ」

思わず、情けなく声が震える。
どんなに彼に怒られても、どんなに叱られても、″討伐魔術隊に入れてください″と頑なに懇願するつもりでいた。
でも彼が彼自身を貶めるようなその話ぶりは、納得ができなくて。
ぼたりと涙が溢れて落ちるのを、フレックスは呆然とした顔で見ていた。


「フレックスが、人々のため戦ってくれてることを知ってますっ、わ、わたしみたいな、魔力持ちの子どものために、魔術を教えてあげてることも…っ、そんな、わたしは、そんなフレックスに憧れたんですっ!優しくて、頼り甲斐があって…っ、わたしも助けになりたいって思ったんです!」

あなたのことが好きだった。
ゲームの画面の中でしか、知らなかった時から。
あなたの優しさに憧れた。
あなたという魔術師に心を動かされた。
私も現実で誰かを支えられる人間になりたいと思えた。
なのに、なんであなたが魔術師を否定するの。

ぼろぼろと子どもみたいにしゃくりあげて泣くリセを前に、フレックスは涙を拭おうと手を伸ばして、止めた。
出会った時から冷静だった彼女がこんなに号泣するのは初めてのことで、どこかで″以前″の彼女のような天真爛漫な姿が重なって見える。
何を言われても君を魔術師にするわけにはいかない。
君は、ただの魔力があるだけの女の子として、戦いなんて血生臭いものから離れただ幸せであってくれたらいいんだ。


そんな願いを打ち壊したのは、痛いくらいひたむきな彼女の声だった。



「…わたしは、家を出て″討伐魔術隊″に行きます。
 あそこなら、寮もあるし、
 わたしと境遇が似てる人たちも沢山いますから、
 きっと今より魔術師として成長できると思います」

「…………は?」


時が止まった気がした。


「沢山、
 お世話をかけて、すみませんでした。
 このご恩は必ずお返ししに来ます。」


ぺこりと少女は頭を下げて、荷物もなしに出て行こうとする。
月の上った夜の街、街灯が星のように街を照らしていても、星あかりしか届かない路地裏にはひ弱な子供や女性を金に替えようと企む陰湿なやつらが闇夜から腕を伸ばしている。


「……ま、……待て、待て待て待て待てっ!  女の子が一人で何処に行くつもりだ!!世間知らずで少し魔術を扱えるだけの君がっ、こんな時間に外を出歩くなんて…!!」


街の治安なんて知らないくせに。
意思の強い目をしてこちらを見上げる彼女を見て、
喉が詰まって、呼吸が出来なくなった。

リセが私の手から離れ討伐魔術隊に入れば、この歳で魔術を扱える天才児だ。すぐに持て囃されるだろう。
魔術師として訓練兵に上がるのに日は掛からないだろうし、いずれは命懸けの任務にも顔を出すようになる。
毎日のように人が消費され、死んでいく。
あの環境に、
君が行く?


……無理だ。



「…………分かった。私が、魔術を教えるから…っ、魔術隊にもいれるし、君をちゃんと魔術師にするから、
 だから……っ、
 ……何処にも、いかないでくれ」



君が私の元から離れること。
君が消耗品として軍の作戦に組み込まれること。
無理だ。どれひとつ、受け入れられない。

情けなく震えた声で縋り付く大男に、小さな彼女は困った顔をして、諦めたように扉から手を離し私を抱きしめた。
腕の中に戻った愛しい人を大切に抱き抱える。








リセの魔力は人並み程度だったが、
まるで何年も魔術を扱って来た魔術師のように操作能力は完璧で、すぐに実戦に組み込めるレベルの能力を上は高く評価した。
俺が今後率いる予定の『特務部隊』への配属が決まり、
せめて手元で彼女を監視できることに安堵する。

リセは案外人見知りだったのか、人付き合いが苦手らしく評価されたのが早かったのもあり周りから浮いていた。
以前の彼女は同期達と打ち解けていたし、環境が変われば彼女の居場所も出来るだろう。


修練場にひとり、魔術をこなすリセを見つめる。
大した魔力量はないくせにと笑われながらも努力する彼女は、″前回″と変わらずひたむきで、格好良い。
きっと俺がどんな気持ちで君を見ているかなんて、知る由もないんだろうな。



(魔術師なんてクソみたいな仕事、俺は今度こそお前にさせたくなかったよ……)





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