17 / 24
【2周目】嫌われ者のモブ、実は最強の“推し”から溺愛執着されてました。
16
目が覚めたとき、既に窓の外は明るかった。
家の中にフレックスの気配はなく、既に出立したことを悟る。
重たい身体を無理に起こして慌てて跡を追おうと立ち上がった。十分寝たはずなのに頭はまだズキズキと痛んでいて、視界が歪み迷妄感は晴れない。
——それでも、
自分のいない遠征で、何が起きるかを知っているから。
どんなに酷いことをされても、彼の優しさを知っている。
彼が犯罪を冒した理由も、自分を痛めつけた訳も、
全て優しさに帰路することを分かっている。
執念じみた″目的″が、彼女の身体を支えて足を動かした。
しかし、
家からは出られなかった。
リセを阻んだのは防護壁を逆転させた、分厚い魔術の壁。
本来中にいる人物を傷つけないため外界から遮断させる用途で扱うそれは、自分が外に出られないように外界への″侵入″を拒む用途で設計されていた。
家を覆うほどの巨大で分厚いそれを、逆転させるなんて高度なことを出来る魔術師なんて一人しかいない。
フレックス、
お願い、
私に、あなたの人生を、変えさせて。
祈りは届かず数日後、
自分を囲う魔術が砕け散ったことで、
彼が魔術を扱える状態ではなくなったことを知る。
それでも、彼の帰りを待ち続けた。
どうか命だけでもと無事を願って。
——————
遠征からの帰り道、重苦しい空気が漂っていた。
あまりに大きな喪失感に誰も言葉を発することなくただ歩みを進める。
自分たちに魔術を教え、生き方を教え、居場所をくれた人。
フレックス隊長が、殉職した。
(……私のせいだ)
セーニャは自分が魔獣に捕えられ隊長の足を引っ張ったことを悔いた。あまりに多い魔獣の群れに私たちの編成は分断され、隊長と自分だけが豚魔獣率いる本部隊に相対することになった。
初めは、善戦していた。
無尽蔵に近い魔力をもつ隊長と、癒しの異能がある私。真正面から魔獣の群れを相手にしても押し返せる圧倒的な戦闘力を前に、慢心してしまったのかもしれない。
(私が、人質にならなければ…)
部下を盾にされた隊長は、部下ごと魔獣を殺せるほど非情じゃなかった。
あと少し待てばロイド達がこちらへ合流する。
それまで持ち堪えろと、そう言って私に防護壁をかけ続けた。
任務は達成した。
魔獣は全て駆逐された。
それでも、犠牲と呼ぶにはあまりに大きな代償だった。
(……俺が、もっと早く着いていれば…)
ロイドは、隊長に次いで高威力の魔術を扱える自分が隊長の死までに間に合わなかったことを悔いていた。
隊長にも才能を認められていたのに、いざという時は分隊を率いるように言われ、隊長の心配のとおり俺たちは魔獣に翻弄され本来の編成から予定を狂わされた。
セグエス含め同期のメンバーはこちらへ寄せられたけど、セーニャがいない。
聖女の魔力が″一番美味しそう″に見えたのかもしれないと、ここにいない彼女の身を心配して隊長へ叫んだ。″こちらは任せてください″と。
走っていく隊長に背中を向けて、託された仕事に集中した。
誰よりも強いあの人なら、いつものように余裕な顔をしてセーニャを連れ戻し帰ってくると、そう思ったから。
(あいつに、なんて言えばいいんだよ………)
今回の遠征から外された、同期の顔が頭に浮かぶ。
何かに取り憑かれたように魔術に没頭し、精神的に不安定で、少しこどもみたいな心をしたあいつに、かける言葉が見つからない。
家族を失う苦しみは、俺は誰より知っている。
もしも彼女が、かつての俺のように自死を選ぼうとしたら
その時は俺が隊長の代わりにあいつの手を引いて、
今度こそ仲間として支えてやろうと、静かに心に誓った。
「あの子には、俺が話しするわ」
「……」
「それが一番、適任やろ」
——アホやな。
今から暗い話しに行くって時に、
こっちまで暗い顔しとったら、
あの子も気ぃつこうて、泣くこともできひんやろ。
暗い顔をした特務部隊のメンバーを集め彼らの顔をすっと見る。視線に気がつきどこか安堵した顔をする奴、何も言わずに地面を見つめる奴、泣き疲れた顔で虚空を見る奴。反応はそれぞれだったが、どこか腹を決めたような顔をしているセーニャとロイドにだけは″任してはいけない″と本能が告げていた。
家族であり、上司であり、彼女の手を引いてきた人。
そんな人間がおらんなったら、どんな行動するかなんて、俺やって分からへん。
やからこと気負わずに彼女にどうするか問いかけ、その心を支えてやらないかんのに…。
独善に染まった目をした同期の二人を前に、セグエスは彼らの神経を逆撫でしないようなるべく言葉を選んだつもりだった。
「俺も行く」
「……まあ、そう言うと思っとったわ。」
「わ、私も…っ! 私のせいで、隊長が………な、亡くなったわけだし……っわたしが………」
「セーニャ。」
声が震え瞳孔が触れる彼女の肩を持ち、″深呼吸しろ″と伝える。
呼吸もまともに吸えていない彼女は目をぐらぐら揺らして不安定な表情をしていた。
「誰が悪い話でもないやろ。お前が責を感じるんは、隊長やったら認めへんと思うで。」
「セグ、エス…」
「悪いけど、今のセーニャを同行はさせられへん。あの子には俺とロイドで話をしに行く、それでええな?」
……こくりと彼女が頷いて、他の奴らからの意見もなかった。
ほんまなら、今のセーニャを一人にはしたくないけど
同期のメンバーで女性はセーニャとリセのみ。彼女がいない状況では部屋まで付き添える人物は側に居なかった。
全く、損な役回りだと思う。
人の泣き顔を見るのも、
絶望する瞬間を知るのも、
俺は、心底苦手や。
一緒におるこっちまで胸が苦しゅうなって、
腕を引くことが出来ないなら、
せめて一緒に死んでやろうかなんて思ってしまうから。
そんな同情は誰の救いにもならないと分かっているからこそ、暗い話をするときは端的に、
相手の言葉を引き出すように気をつけている。
(頼むから、ちゃんと泣いたり沈んだりしてくれや)
(感情殺した人間ほど″大丈夫″って顔して)
(そのくせなんも大丈夫やなくて、死んだりすんねん)
「———………と、いう訳や。…あんたの居らん任務で俺らの力不足で、隊長を死なせてしまったことは謝る。殴っても蹴ってくれてもええから、言いたいことがあるなら言ってくれんか。」
「…………」
「な、なあリセっ、お前が良いって言ってくれるなら、俺らの寮に来ないか?今は一人でいるべきじゃないと思うし、その……家族を失うしんどさは、俺は分かってやれるから…」
「……………………」
ああ、
そう。
フレックスは……、
本来の、シナリオの通りに……。
「大丈夫だよ………、誰のせいでもないから………。わたし、一人でも生活できるし……、フレックスが、居なくても………。」
大丈夫、
「……リセ、俺が言うことやあらへんけど。今のあんたは大丈夫なんかやない。俺らを頼ってくれんか」
「……何言ってるの、セグエス。…むしろ、こんな報告させちゃって、ごめんね」
涙は出なかった。
彼が帰ってこないことなんて、とっくに知ってたから。
それでも″もしかしたら″なんて本気で信じて、願って、
待ち続けて……、
ごめんね、
私がさっさと諦めて″次″に行っていたら、二人にこんな報告させなくて済んだのに。
セグエスとロイドから見たリセは、
どこか上の空で空虚な目をしていた。
彼女はこんなに痩せていただろうか?
数日会わなかっただけで、やつれたような印象を受ける。
「心配かけて、ごめんね…。寮に行くかどうかはちゃんと考えるからさ、今日はもう帰ってくれないかな……」
か細い声でそう話す彼女と、視線は合わない。
ロイドが無理に彼女を引き出そうと伸ばした腕を、咄嗟にセグエスが阻止した。
″なんで″と此方を睨む目に、″今やない″と首を振る。
悲しみを受け止める時間に隣に居られるほど、俺らは信用されてないんや。
一人になりたいと彼女が言うなら、そうさせてやるべきやろ。
「……分かったわ。……また明日、部隊室で。」
「…うん、また明日。」
納得してない顔をしたロイドの手を引いて、隊長の家を後にした。
俺たちの前では泣くことも出来ない彼女が、せめて心のままに隊長を想い涙を流してくれることを願う。
心を殺して、壊れないように。
明日もし彼女が来なければ、その時は家に来て彼女の世話くらいはしてやろう。
(同期やからな、……しんどい時は、お互い様や。)
***
【実績解除】
『帰らない愛しびとend』の実績を解除しました。
エンディング到達おめでとうございます。
あなたの目的が達成されましたか?
お好みの″エンディング″を迎えられるまで、あなたは何度でもやり直すことができます。
運命を、やり直しますか?
▶︎はい ▷いいえ
***
【▶︎はい】
あなたにおすすめの小説
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
田舎の幼馴染に囲い込まれた
兎角
恋愛
25.10/21 殴り書きの続き更新
都会に飛び出した田舎娘が渋々帰郷した田舎のムチムチ幼馴染に囲い込まれてズブズブになる予定 ※殴り書きなので改行などない状態です…そのうち直します。
幼馴染の勇者に「魔王を倒して帰ってきたら何でもしてあげる」と言った結果
景華
恋愛
平和な村で毎日を過ごす村娘ステラ。
ある日ステラの長年の想い人である幼馴染であるリードが勇者として選ばれ、聖女、女剣士、女魔術師と共に魔王討伐に向かうことになる。
「俺……ステラと離れたくない」
そんなリードに、ステラは思わずこう告げる。
「そうだ‼ リードが帰ってきたら、私がリードのお願い、一つだけなんでも叶えてあげる‼」
そんなとっさにステラから飛び出た約束を胸に、リードは村を旅立つ。
それから半年、毎日リードの無事を祈り続けるステラのもとに、リードの史上最速での魔王城攻略の知らせが届く。
勇者一行はこれからたくさんの祝勝パーティに参加した後、故郷に凱旋するというが、それと同時に、パーティメンバーである聖女と女剣士、そして女魔術師の話も耳にすることになる。
戦いの昂りを鎮める役割も担うという三人は、戦いの後全員が重婚の認められた勇者の嫁になるということを知ったステラは思いを諦めようとするが、突然現れたリードは彼女に『ステラの身体《約束のお願い》』を迫って来て──?
誰がどう見ても両片思いな二人がお願いをきっかけに結ばれるまで──。
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?