21 / 24
【3周目】
【閑話】セーニャ
(リセ視点)
さて、無事今回はフレックスに保護されることなくやり過ごせた私ですが、現在一つ問題が起こっています。
それは、
「魔術師になるために王都へ行く?ふざけるな!
まだお前が殺した馬の代金も働いていないんだぞ!?」
次の計画のため仕事を辞めて王都へ行きたいのに、
屋敷の主人がバリキレてること。
退職の話をした瞬間から、この調子です。
馬魔獣の事件のあとから屋敷に留まった私は厩舎番から外された。魔術が扱える使用人として、旦那様の側に控え貴族の話し相手が仕事になった。
いやほんとなんでこうなったのか分からないんだけど、学も親もない子どもの話なんて誰が聞きたいの?と思いながら求められるままに魔術を披露する。
新しい馬が買われても私が厩舎番に戻ることはなく、旦那様のステータスとしてお飾り使用人を勤めていた。
(馬の代金って言うけどさぁ?)
(私が厩舎に閉じ込めてなかったら庭も屋敷も荒らされてたと思うし。それこそもっと被害額大きかったんじゃないの?)
というか、私を囮にして逃げ出しておきながら
どの口が言ってんだよ。と正直思う。
ついでに言うなら魔獣を殺したの、私じゃないし。
(…話にならないなあ)
この人達、前はもっと優しい人間かと思ってたのに。
身寄りのない子どもを置いてくれて、この歳まで一応職を与えてくれてたわけだし。
いつか恩返しをなんて思ってたはずなのに、
命の危機を金勘定する話ぶりに清々しいくらい心が冷えていった。結局、私はその日の晩黙って屋敷を出た。
王都までの移動は、小さな身体では中々大変だった。
過去に戻る前は遠征で長旅も慣れていたのに、
ごはんをまともに食べていない身体はすぐに息があがって、森や人のいない場所を歩く時は息を殺して魔獣の気配に常に注意を払わなくてはいけないし、人が多い場所では子どもを食い物にする輩に常に気をつけてないといけなかった。
まあ、そんなわけで無事王都に辿り着きまして、
12歳の晴れ空の日のこと。
私は討伐魔術隊に加入しました。
———【閑話】聖女セーニャの瞳の秘密———
———私は、
リセという女の子に出逢った時初めて、
自分に好意がある人の″色″を知ったの。
私は、産まれてすぐ両親を亡くした。
原因は私の特異な体質である、人の治癒を出来る魔力。
人間の体内に干渉できる魔力を保持した赤ん坊は、
感情の制御を覚えるより前に魔力を暴走させてしまい、
被害に遭ったのは私を誰よりも近くで見守ってくれていた両親だった。
物心ついたときにはもう、お母さんもお父さんもいなかった。
寂しいと思ったことはない。
だって、二人をそうさせたのは私なのに。
会いたいなんて思う権利、私にはないでしょ?
魔力の制御を覚えるより先に、セーニャという少女は感情の制御を覚えた。
心を殺し気持ちを平穏に保てば自身の魔力が暴走することも、
それで誰かを傷つけることもない。
それでも″親殺し″と呼ぶ声が止むことはなく、
村民100人ほどの小さな村で、小さな少女は同世代のみんなと同じように学校に通うことを禁止され、隔離された環境の中で静かに育った。
″稀人″の噂が広まり、辺境の村にいる少女が保護されたとき、
痩せ細った彼女の身体には日常的に石を投げつけられた無数の痣があったという。
「初めまして、わたしはリセ。あなたがセーニャだよね?」
「……はじめ、まして……」
人生の転機は、討伐魔術隊という、魔力持ちの人間ばかりを集めた育成機関には保護されたこと。
そこには私と同じように両親がいない子や、
魔力持ちなことを疎まれて捨てられた子が沢山居た。
でもまあ、″親殺し″という呼び声が変わることはなくて、
こんな私に笑顔で話しかけてきてくれたのは、リセが初めてだった。
「セーニャって人の治癒ができるんでしょ?」
「セーニャが任務にいたら、安心するんだよね」
「ほら、私そそっかしいからさ。怪我が多くって」
彼女は私から見ても容量がいい人で、特に任務中に関しては魔獣相手に正確に距離を取りながら戦う力量に″凄い″と感じていた。そんな人から認められたことが嬉しくて、
同時に本心からの言葉みたいに笑ってリセが話すから、私は呆気に取られてしまった。
特異体質が解析されこの魔力が治癒に使えると分かっても人との距離が埋まることはなかったのに、リセは怖がりもせずに私に身を任せてくれるんだね。
身体に干渉されるって、怖くないの?
傷が治る時みんな化け物を見るような目で私を見るのに、
どうしてリセはそんなキラキラした目で私を見てくれるの?
上部のお偉い方たちから″聖女″と肩書きを付けられたとき、魔獣もまともに討伐できないくせに調子に乗るなと先輩に責められた。
″調子になんてのってないのに、なんでそんなこと言われないといけないんだろう。″と思ったけど、
わたしが憤りを感じるとまた誰かを傷つけるかもしれないから、いつもどおり我慢したの。
———それがわたしの日常だったのに。
リセは、″セーニャが何か悪いことをしましたか?″と私の代わりに先輩に言い返した。
別に仲良くもない子のことなんて放っておいたらいいのに、
わざわざ間に入って私の手を引いて連れ出してくれたあの子の手はあったかくて、力強くて、初めて人前で泣きそうになったの。
わたしね、
人の好意が分かるの。
好感度というの?
バロメーターが人の横に浮かんで見える。
気持ち悪いよね。
それは悪意があれば黒く、
好意があれば白くなるみたい。
真っ黒が表札のように並ぶ中で、
リセの名前だけはいつも真っ白に輝いていて
初対面の時は″変な子″だなって思ったの。
リセだって、両親がいなくて、
奴隷みたいに働かされる屋敷から逃げてきた子だって噂されてるのに、彼女はいつだって明るく笑ってる。
リセは、わたしの初めての友達になった。
「セーニャ、ごはんはもう食べた?
まだなら一緒に食べようよ。」
「今日は疲れてるね、お風呂まで連れて行こうか?」
「セーニャが好きだと思って、今日はケーキ買ってきたよ。」
彼女が与えてくれる言葉はいつもあったかくて、
世話好きな彼女の過干渉は柔らかくて、
心の尖ったところを優しく宥めてくれてる気がした。
いつからか周りの人たちから話しかけられるようにもなって、″笑顔が増えたね″と知らない子に言われた。
真っ黒だった表札の群れはいつの間に明るい色に変わっていて、私を見る周りの評価が変わったことを知った。
話しかけやすくなったと言われても、
それはきっとわたしが、あなたの好意を知っているからだよ。
前はわたしのこと怖がってたくせにさ、
みんな手のひら返しが上手だね。
″治癒の力を頼りにしてる″なんて、嘘ばっかり。
″前から仲良くしたかった″なんて、よく言えるよね。
リセ以外の子たちは嘘つきばかりでむかつくから、
顔と名前はいつまで経っても覚えられなかった。
……だって、覚えたくなかったの。
今は候補生として教育係の人に魔術を教えてもらってるけどさ、魔術師になったらいつかは私もリセももっと傷付いたりするんだろうね。
できればその時は、私も横にいたいな。
だって近くにいないとすぐに治してあげられないから。
どうしてリセがそんなに私を好きでいてくれてるのかは分からないけど、
でも彼女からの好意に嘘がないことはハッキリと分かる。
あなたが隣にいると
私、感情が怖くないよ。
まだ泣くのは上手くできないけど、
沢山笑っても、もう魔力暴走することもないから。
だから、
………お願い。
これから先辛い任務があっても、
季節が沢山巡って、私たちが大人になっても、
リセにいつか好きな人ができて結婚したとしても、
私を隣に居させてね。
友達でいいからさ。
あなたにおすすめの小説
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
田舎の幼馴染に囲い込まれた
兎角
恋愛
25.10/21 殴り書きの続き更新
都会に飛び出した田舎娘が渋々帰郷した田舎のムチムチ幼馴染に囲い込まれてズブズブになる予定 ※殴り書きなので改行などない状態です…そのうち直します。
幼馴染の勇者に「魔王を倒して帰ってきたら何でもしてあげる」と言った結果
景華
恋愛
平和な村で毎日を過ごす村娘ステラ。
ある日ステラの長年の想い人である幼馴染であるリードが勇者として選ばれ、聖女、女剣士、女魔術師と共に魔王討伐に向かうことになる。
「俺……ステラと離れたくない」
そんなリードに、ステラは思わずこう告げる。
「そうだ‼ リードが帰ってきたら、私がリードのお願い、一つだけなんでも叶えてあげる‼」
そんなとっさにステラから飛び出た約束を胸に、リードは村を旅立つ。
それから半年、毎日リードの無事を祈り続けるステラのもとに、リードの史上最速での魔王城攻略の知らせが届く。
勇者一行はこれからたくさんの祝勝パーティに参加した後、故郷に凱旋するというが、それと同時に、パーティメンバーである聖女と女剣士、そして女魔術師の話も耳にすることになる。
戦いの昂りを鎮める役割も担うという三人は、戦いの後全員が重婚の認められた勇者の嫁になるということを知ったステラは思いを諦めようとするが、突然現れたリードは彼女に『ステラの身体《約束のお願い》』を迫って来て──?
誰がどう見ても両片思いな二人がお願いをきっかけに結ばれるまで──。
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?