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【3周目】
【閑話】セグエス
———【閑話】蛇のような男、セグエス———
「あんたが″聖女″のセーニャさん?人の身体に干渉できる稀人なんやろ?どうぞよろしゅう」
「…初めまして、セグエスくん。こちらこそよろしくお願いします。」
(この女が稀人か。…聖女さまねぇ)
人間の身体に干渉できる治癒能力なんて、使いようによっては良いようにも悪いようにも使えるだろうに。
にこりと素直な顔で微笑む女はまさに″聖女″という肩書きが似合う顔をしていた。
稀人なんて碌なものじゃないのに。
それを分かっているのかいないのか。どこか達観した雰囲気がある女だ。
今回自分が引率するのは二人。初任務だという二人はお互い妙な空気感がある女たちだった。
片方は″稀人″で類い稀な才能があって、能力自体も悪くない。顔もええし愛想もいい。魔術師やなくても引く手数多な楽な人生を送れるやろうと一目で分かる良い女。
もう片方は平凡な才能で、魔力量も多ないし質も至って平凡。ついでに顔も特徴が薄い…なんというか記憶に残りづらい顔や。
女同士の友情関係にようある、かわい子ちゃんの方の引き立て役か?と思ったけど、どうやらそうでもないらしい。
薄顔女から離れようとせえへん聖女様は″良い目″を持ってるんやろなあ。うすーく微笑んどるけど俺を警戒した顔をしてはるなぁ。
「…えっと、私はリセ。よろしく」
それに比べて、こっちの女はちょっと頭が足りへんらしい。
迷いなく自分の手を握り返して、悪意を知らない顔で笑うリセにセグエスは狡猾な顔を隠すように微笑んだ。
「おお、あんたがリセさんか。候補生やのにええ腕しとるってえらい評判やん?こりゃ、今回は楽できそうでええわぁ」
「お互い、ええ仕事しようや。なあお二方」
今日は、大規模な合同任務。
近くの集落を魔獣の群れが襲ったからその残党狩りに俺らは駆り出された。
既に人間を襲ったことがある魔獣は手強い。
人間の味を知ってこちらを餌としてして認識しとるから、むこうも本気で俺らを食う気で″狩り″の手法を用いてくる。
気を引き締めて取り掛からんといかんのに、
引率任されるなんて、ツいてないわ。
(…こいつ、ほんまに初任務かいな………っ)
二人に対しての評価が変わったのは魔獣相手の戦闘に変わってからだった。
てっきり仲良しこよしの面倒な二人組のお守りを任されたのだと思っていたのに、予想は外れて二人はよく働いた。
特にリセというモブ顔の方は演唱も早く、使える魔術こそ凡なものの明らかに戦闘慣れをしていた。
動き回りながら正確に、魔獣の一点に集中していくつもの魔術を飛ばす。視野も広く魔獣の動きをよく読んでいて、背中を任せるに足る人間だと感じた。
後方でセーニャに演唱をサポートしてもらい自分とリセが前線に立つ戦い方は、これまで組んだどんな相手より立ち回りやすかった。
(鈍臭そうと思ったのに、人は見かけによらんなぁ)
俺のしたいことを汲み取っているような動きや。
以前からこうして組んできたかのように、俺がしてほしい動きを、命令する前にこいつが既にしとる。
変な感じやなぁ。言わんでも分かる、あいつが今俺にどう動いて欲しいか。こんなに噛み合う戦闘は、初めてや。
「えらい実戦慣れしとるんやなぁあんた」
「…含みがある言い方しないでよ、私は実戦なんて初めてだよ?今日が偶然上手くいっただけ」
「そうは見えへんなあ」
「褒めてくれてるのかな、ありがとう」
女が飛ばした氷弾が魔獣の核を貫いて、その先にいる魔獣を自分の放った魔術の風が切り裂く。魔術演唱しながら会話もこなしといて″初めて″なんて嘘いいなや。
こちらの内心を見透かしたような顔して、悪意を知らない顔で笑う女を見て、ピキリと額に血管が浮いた。
ああ、なんやお前。おぼこい顔しよってからに、
お前も腹ん中に人に言えんもん抱えとるタイプか?
(ええ性格しとるやん)
興味本位に腹の内を探ってやりたくなったが、今後親しくなる訳でもない奴にわざわざ喧嘩を売る必要もないやろうと言葉を飲み込んだ。誤魔化すように愛想笑いしてる顔に腹が立つけど、お前の抱えとるもんが俺の邪魔にならんなら別にかまん。
パタパタと小さな足音が向こうから近づいてきて、聖女が白いコートをはためかせこちらに来ているのが見えた。
「2人とも、おつかれさま。これで最後かな?」
「おつかれセーニャ!セグエスも、今日はありがとう。
また一緒になることがあったらよろしくね」
「……こっちこそ。またよろしゅう。お二人とも」
なんや聖女さま相手にはそんな顔して笑うんかいな。
俺に見せる顔とはえらい違うやん。
並んで帰っていく二人の背中を見て思い出す。
自分も昔、こうして並んで帰る兄がいたことを。
二人の後ろを歩きながらセグエスは空を仰いで息を吐いた。
俺が魔術師になったのは
他の者たちより早く歳は8つ程の頃やった。
魔力量の多い両親から産まれ母が討伐魔術隊出身だったのもあり、幼いときから魔力の扱い方を知ることを第一にまず仕込まれた。
そこに貴族伯の者としての知識と礼儀、社交性と魔術演習が加わり、多忙な日々は幼い少年に自由の時間を与えてはくれなかった。
しんどいなんて、思ったらあかん。
だって俺は、恵まれとるんやから。
人に求められるままに振る舞って、
器用に生きる処世術は身につけた。
つかれるばかりの日々も実家を出てからは幾らかマシになって、結果さえ出せば魔術師という職は好きに生きて許される。
結果が全て。
そしてその結果を出すには、才能が全て。
才能に恵まれた自分は、幸せだと思うべきなんやと思う。
その期待をどれほど不快に思っても、おくびにもそれは出したらあかん。
だって自分が可哀想なら、才能がないからと使い捨てにされてきた魔力持ちの子たちはどうなるんや。
…自分が、討伐魔術隊に入る前のこと。
俺と兄は、″似てない兄弟″とよう言われてた。
兄さんは母さん似で、金髪に赤い目した美男子やったし、
俺は真っ黒な髪に真っ黒な目で、女の子たちからは蛇みたいってよお怖がられたわ。
二人揃って″魔力持ち″で、将来はどこの家の子と番うのかと社交場で必ず声をかけられた。
いっつもにこにこ笑っとる兄さんが、二人でいるときに『僕らは種馬かなにかかな』と毒を吐いてたのが忘れられへんわ。
…貴族の子どもらが集められたティーパーティ。
屋内やし、魔獣の危険はないと言われてたんや。
大人たちは庭の方におって、会場には子どもらしかおらんかった。
誰かが言ったんよ、″かわいい子猫がいる″って。
会場に動物なんかおるわけないのに。
どっから紛れ込んだんやろなぁ、
子猫のふりをしてた魔獣は子どもらを前にした瞬間巨大な猛獣の姿に変わったわ。
魔力持ち言っても俺らが扱える魔術なんてたかがしれとる。
それやのに、
鼓膜破けるくらいの悲鳴と、混乱。それを鎮めたんは誰よりも勇敢に飛び出した兄さんやった。
『セグエスは父さんたちを呼びにいって!』と叫んだ兄は魔獣に火の玉を飛ばして注意を引いた。
子どもらから離すように、わざと自分に惹きつけて何処かに走って行ってしもた。
俺は必死に父さんと母さんを呼びにいって、
兄さんが無事なことを願って、ただ……。
会場に戻ったとき、そこに兄の姿はなかった。
少し離れた森の中で、
ぐちゃぐちゃに、
引き裂かれて、
ヒューヒューと、か細い息をしてる兄の姿があった。
命は助からん、
もう長くないと言われた。
『なんでこんなことしたん』という俺に、
兄は『僕は才能がないから』と言った。
才能って、なんや。それは命の秤に掛けられるくらい、偉いもんなんか。
俺は、『一緒に逝こうや』といつものように兄に言った。
一人じゃ寂しいやろって。
でも兄は、死にかけのくせに俺の頭を撫でて、
『僕の分も幸せに生きてね』って言ったんや。
なあ、兄さん。なんで、一人で行ったんや。
俺ら二人で父さんと母さんのとこに行ったらよかったやん。
なんでわざわざ囮になるような、
しんがりなんて、したんや……。
納得できない俺たちをおいて、兄さんは息を引き取った。
あれからずっと俺は胸に蟠りを残したまま、生きている。
討伐魔術隊に入って、兄の言っていた才能というのが魔術を扱う才能だということを知った。
任務に自分が呼ばれるたび、その先では既に魔獣が暴れとる。
魔獣が真っ先に狙うんは″魔力持ち″の子どもや。
才能のない子は魔術を使うことも出来んくて、
魔術師に保護される前に、一般社会の中で″消耗品″のように死んでいく。
俺は、
兄に助けられて、
親に魔術師にしてもらって、
魔術の才能もそこそこあって、
やから、感謝せなあかんのに。
かわいそうな子が目の前で死ぬたびに、
しんどくなるんよ。
なあ、俺も一緒に死んだろか?なんて、
なんの救いにもならへんのに、
兄が死んでから空いたままの手に、誰かの手を取って、
俺もあっちに行きたいって。
そう思ってしまうんよ。
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