【R18】″推し″に幸せになってほしいだけなのに。(最強の推し×死に戻りモブ)

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【3周目】

【閑話】フレックス 後




君を魔術師になんてしたくなかった。




「あの、フレックス」
「ん?なあに、リセ」
「…私に、魔術は教えてくれないんですか」

「……魔術師に、なりたいのかい?」
「はい。私は魔術を扱えるようになるため、ここに来ました。」


一月が経つ頃、リセが私に言ってきた。
私は首を横に振り″保護者″として彼女を諭した。


「……止めておきなよ。魔術師なんて、碌な仕事じゃない」

「なんで、そんなこと言うんですか…っ」



…今回のリセは、以前のリセより温厚で落ち着いた子どもだった。



「フレックスが、人々のため戦ってくれてることを知ってますっ、わ、わたしみたいな、魔力持ちの子どものために、魔術を教えてあげてることも…っ、そんな、わたしは、そんなフレックスに憧れたんですっ!優しくて、頼り甲斐があって…っ、わたしも助けになりたいって思ったんです!」



だから、こんなふうに声を荒げて話すのは初めてのことで、
喉をひしゃげて泣いているのを見た私は、動揺した。

同時に自分のことなんてあまり見ていないと思っていた少女が、あまりに自分を知っていたことに驚く。
私はそんな″良い奴″じゃないのに、この子の目には随分美化して見えているらしい。
それが嬉しくも歯痒くもあり、
手を伸ばそうとした瞬間、
彼女はすっと冷えた目をして口を開いた。



「…わたしは、家を出て″討伐魔術隊″に行きます。
 あそこなら、寮もあるし、
 わたしと境遇が似てる人たちも沢山いますから、
 きっと今より魔術師として成長できると思います」

「…………は?」


「沢山、
 お世話をかけて、すみませんでした。
 このご恩は必ずお返ししに来ます。」

ぺこりと少女は頭を下げて、荷物もなしに出て行こうとする。
月の上った夜の街、街灯が星のように街を照らしていても、星あかりしか届かない路地裏にはひ弱な子供や女性を金に替えようと企む陰湿なやつらが闇夜から腕を伸ばしている。


「……ま、……待て、待て待て待て待てっ!  女の子が一人で何処に行くつもりだ!!世間知らずで少し魔術を扱えるだけの君がっ、こんな時間に外を出歩くなんて…!!」


街の治安なんて知らないくせに。
意思の強い目をしてこちらを見上げる彼女を見て、
喉が詰まって、呼吸が出来なくなった。

今回のリセが私の手から離れ討伐魔術隊に入れば、この歳で魔術を扱える天才児だ。すぐに持て囃されるだろう。
魔術師として訓練兵に上がるのに日は掛からないだろうし、いずれは命懸けの任務にも顔を出すようになる。
毎日のように人が消費され、死んでいく。
あの環境に、
君が行く?


……無理だ。



「…………分かった。私が、魔術を教えるから…っ、魔術隊にもいれるし、君をちゃんと魔術師にするから、
 だから……っ、
 ……何処にも、いかないでくれ」



君が私の元から離れること。
君が消耗品として軍の作戦に組み込まれること。
私はどれひとつ、受け入れられなかった。

情けなく震えた声で縋り付く大男に、小さな彼女は困った顔をして、諦めたように扉から手を離し私を抱きしめた。
腕の中に戻った愛しい人を大切に抱き抱える。








リセの魔力は人並み程度だったが、
まるで何年も魔術を扱って来た魔術師のように操作能力は完璧で、すぐに実戦に組み込めるレベルの能力を上は高く評価した。
俺が今後率いる予定の『特務部隊』への配属が決まり、
せめて手元で彼女を監視できることに安堵する。

リセは案外人見知りだったのか、人付き合いが苦手らしく評価されたのが早かったのもあり周りから浮いていた。
以前の彼女は同期達と打ち解けていたし、環境が変われば彼女の居場所も出来るだろうと思っていた。


けれど、
彼女は誰とも打ち解けることなく
いつも同期の中心で笑っていた前回のリセと違い、
一人遠くで同期たちを見て澄ました顔をしていた。









——————







———過去に戻り、
人生をやり直したフレックス。

彼が″こわれた″のは、
リセが任務で危険を冒すようになったころだった。





彼女が死に戻りで過去へ戻るのと同じくして、
フレックスもまた、日常生活が急に過去へ戻る。
何度も何度もそれを経験して、
その度、リセただ一人だけが毎回、
前回と違う行動を取ることに気がついた。

この過去に戻る現象は彼女の″死″がトリガーになっている。
世界が死を拒むように、
彼女が死んだ瞬間世界の時間が巻き戻り、それを彼女だけが理解して時間をやり直している。

リセが死なないと分かったことは、
フレックスにとって喜ばしいことのはずだった。


なのに、

彼女は″死に戻り″を理解して、
それをあまつさえ魔術のように戦術として組み込んで、
自分の命を消耗している。

危険な真似をするなと自分が言っても、
同期の子たちが言っても、彼女の行動は変わらない。
魔獣の攻略を知り死んで、やり直した先で魔獣を殺して成果を得る。
結果を残すリセを上部は任務に使いたがり、地獄のような日々が形成された。




ああ、

彼女は、

もしかしたら″前回″だって、

自分が知らないだけで、こうして、何度も、
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
死んで、いたのだろうか…。

それなのに平気な顔をして、私の前で、同期の子たちの中で、笑っていたのだろうか。

書類整理を朝に済ませ上部と議論をしていた夕刻、突然朝に時間が戻る。
世界は″リセット″されたように議論の内容も人が訪問する時間さえ全く同じ。
まるでレコードを何度も再生しているような時間を繰り返して、その度自分の手が届かないところで彼女が死んでるのだと思うあたまがおかしくなりそうだった。


———おかしく、なっていたのだろう。




私も、

リセも、


もう、とっくの前に。








豚魔獣の遠征から君を外したその日、
納得してくれたと私は安堵していた。
任務と議会を終わらせ家に帰った。
そこに、君の姿はもうなかった。

君がどこに行ったかなんて、すぐに予想がついたよ。
だって君がどれほど無謀で愚かな子か、
私は誰より知っているから。

私は彼女を追いかけた。特務部隊の子達へ連絡だとか、そんなことをしている余裕さえなかった。
森を越えたのは日が昇ったころ、
真夜中に遠征予定近くの町へ到着したとき、
私は間に合わず、世界は″リセット″した。


二回目、
私はその日の任務を終わらせてすぐ家に戻った。
丁度支度をしていた彼女がそこにいて、
『何処にいくつもりだ』と詰め寄った。
『勝手な真似をするな』『何故俺の言うことがきけない』『君を除名したのは私の判断だ』『家から出るな』
安全な場所でただ君にいて欲しいだけなのに、
君は私の手を振り解いて、荷物も持たずに家から飛び出した。
なぜ、
君だって、分かってるはずだ。
君一人で敵う相手じゃないと。

リセは戻らず、彼女の後を追いかけ探したその夜のうちに、世界はまた″リセット″された。



三回目、
彼女は任務にさえ来なかった。
″まずい″と思ったが彼女が何処に行くかは分かっている。
私は先に出立する旨を伝えて、彼女を追い豚魔獣が確認された遠征先の平原へと急いだ。


見つけたんだ。
今度は追いついたよ。
ようやく、君を守れると思ったよ。


これまで、何度も君を失った。
いつになればこの地獄は終わるんだ

それならいっそ君を守って

何度でも自分が死んだほうが、

やっぽど気が楽だ。







四回目、

私は成功した。

彼女を家に閉じ込めた。

私は出立して、

そして、死んだ。









世界はまた6年前まで遡り、
私の前に前回ともその前とも違う行動をするリセが現れる。

死に戻りとは違い全ての記憶を無くし、
″リセット″された彼女を前に、私はまた家族になろうと手を伸ばす。

何度だって家族になろう。
私はずっと、君を好きなままなんだ。
とっくに壊れた愛情を、
注いで、
注いで、溢れるまで、注いで、



………………けれど、私の手を取らないという少女を前に、
私は、もう彼女と家族になれないという喪失感以上に、
もう君が魔術師にならないということに、安心したんだ。

だから、


もう、君と会うことも、
家で帰りを待っていてくれることも、
一緒に食事をして笑い合うことも、
全部私との接点がなくなったとしても。

私は、
受け入れるよ。


だから、どうか、
私の見えないところで、幸せになってくれ。

君が目の前にいると、
私はまた、君を閉じ込めてしまいそうだから。



さようなら。



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