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籠の外7
しおりを挟む「くっ、またか・・・大丈夫だシュガー」
また記憶・・・ここに来てから立て続けだ。だが相変わらず見当違いなものばかり・・・ケーキ屋だと?
チョコレートの店を見て何故思い出すんだ!?
それにどうして子供の時ばかりなんだ!俺が知りたいのはもっと最近の記憶だ・・・まて・・・チョコレート?
慌てて看板を見返すとやはりよく分からない文字だ。しかし不意にチョコレートと頭に浮かんだのだ。
まさかと思い隣の店の看板を見るとやはり解読不能・・・しかし、
「帽子屋」
読める!?いやこの感覚は読んだのではない。忘れた事を思い出した時の感覚によく似ている。
「ぼう、や?そんな事よりあれは何なんだよ!気になって背中がムズムズするんだ!」
シュガーは足をばたつかせたり、仕舞いにはその場で飛び跳ね始めるので、説明してやる事にした。
「あれはチョコレートといって、食べると口の中で甘く溶けるお菓子だ。だが・・・って、シュガー!?」
説明している間少し目を離した隙に、隣で手を繋いでいた筈のシュガーがすっかり消えており、驚いて周りを見ると先程店の中にいた母娘がオシャレな紙袋を手に通りを歩いていた。
そして、何を思ったのかシュガーはその2人へ向かって一直線に駆け出している。
母娘は大通りから少し狭い横の路地へ曲がり、シュガーもその後をついて姿を消した。
俺は慌ててシュガーを引き止めようとするが、相手はホーンラビットだ追いつける筈もなく、横路へ入りやっと追いついた時には既にシュガーは母娘と向き合っていた。
「いいわ!1つ分けて差し上げますわ」
「わぁぁぁ、ありがとー!オイラ、プレイヤーから物貰ったの初めてだ!この恩は一生忘れねぇ」
「まぁ、ふふっ」
小さな少女から親指程の包みを貰って喜ぶシュガーの姿に少し胸をなで下ろして俺は母娘に丁寧に頭を下げた。
「すみません!うちのが迷惑をお掛けした様です。お嬢様から贈り物を頂いた様ですが、なにぶん先程この街に来たばかりでしてお返し出来そうな持ち合わせが何もございません。ですのでこちらは頂けま」
「なりません!!」
日傘の下で高そうな黒いドレスを身にまとった夫人へ向かい話をしていると、突然下の方から勢いよく声が飛んできた。
「一度口にした事を違えるなどスペンサーにあるまじき事、どうかこのキャロラインの名に免じて受け取って頂けませんか?」
愛らしく微笑む美しい少女の後ろでオロオロとする女性。中身が入れ替わっているのかと疑うくらいに不自然な光景に目と耳を疑うばかりだ。
「すみません、ではお言葉に甘えて」
小さな少女に向かい改めてお礼を言うと、後ろでシュガーが悲鳴を上げた。
「ななな何だコレ!!!口の中で消えたぞ!それにすっげー甘い!!オイラこんなご馳走初めてだ」
どうやら受け取ったチョコレートを早速食べてしまったようで、口元の毛を茶色く汚して嬉しそうに飛び跳ねている。先程ウサギがチョコレートを食せない事を説明しようとしたのだが・・・
時すでに遅し。
まぁ、調子を崩す所か寧ろ絶好調のようだし黙っておくとしよう。
「ふふっ、そんなに喜んで頂けるなんて思いませんでした。よろしければもう一ついかが?其方の方も、この街のスイーツは絶品揃い、折角旅の風で結ばれたのですから試して行かれるとよいでしょう」
少女から手渡された包みを開くと中には小さく光る黒い粒が一つ。雫型のそれは表面に金の飾り模様が器用に施されていて、口の中をあっという間にカカオの芳ばしい香りと優しい甘さで満たし、その後からオレンジの爽やかな香りが涼やかな風となって吹き、鼻まで楽しませてくれる素晴らしいショコラであった。
「オイラ、シュガー!こっちはコウジだ、よろしくな!」
ショコラの出来に感動している間にシュガーは再び少女の前に立っていた。それも俺と会った時と同様に右手を出して握手を求めている。俺は背筋が凍った。母娘は身なりや振る舞いからも高貴さが伝わってくる上、このショコラも高価物の筈だ。気安く握手を求めていい身分差では無い!しかし、何を思ってももう時すでに遅しでしかない!
俺と同様に少女の後ろに立つ夫人が分かりやすく不機嫌な表情を浮かべ、少女とシュガーの間に割り込もうとすると、それを止めるように少女が小さな手のひらを上げて夫人に向けた。
「貴方はとても心が美しい方なのですね。申し遅れました、私キャロライン・スペンサーと申します。後ろにおりますのは母のステイシー。私の事はキャロルとお呼びください」
キャロルと握手を交わしたシュガーは再び目をキラキラと輝かせた。
「人参みたいでいい名前だな!オイラ大好物なんだ、よろしくなキャロル!」
それを聞いた瞬間に空気が凍りついた。
「なっ!?此方におわしますお方はスペンサー家次期」
「ふふふっ、ははははっ!ありがとう。私が考えたあだ名を呼んでくれたのも褒めてくれたのもシュガー、貴方が初めてよ。嬉しいわ、こちらこそよろしくねシュガー」
俺達の凍りついた空気とは反してキャロルとシュガーはまるで前々からの親友のように仲睦まじく笑い合っていた。
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