the colors of Love

不知火美月

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マニア4

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正面に位置する大きなモニターに繋がったカメラをゆっくりと寄せると画面には満ちゆく快楽に浮かされ蕩けた瞳の男性の顔だけが映される。一見線の細そうな男性だが、近づくと男性らしい骨格と程よく鍛えられた筋肉が見てとれる。八城は小さく動くカーソルでゆっくり舐めるように男の頬骨から顎にかけて、下顎のラインや首筋、下唇の縁など輪郭に沿って丁寧に撫でていく。
すぐ側に激しく揺れる豊満な乳房や丸くポテッとした柔らかそうなお尻、淫らに愛液を垂らしながら男性器を咥え拡げられた陰部など、八城くらいの男性が興味をそそられそうなモノが沢山動いているにも関わらず、八城は瞬きの間さえも惜しいと言わんばかりに男性が映る画面に食い入っていた。

数分後、ふと我に帰ったのか画面と一体化せんとしていた八城が椅子に座り直した。そして薄いキーボードを触ると途端にモニターに内蔵されたスピーカーからなんとも淫らな喘ぎ声が響き出した。

「翔だめっ、はげし、す・・・ぎ」

「麗子さんっ、もっと、ちょうだい」

隠しカメラに盗聴器、犯罪級の異常さであるがこの手の異常者は強い独占欲を有し、自身の好意対象者が他者に奪われる事を何よりも許さない者が多い――。
しかし、八城は至って平然であった。
いや、溢れ出すヒロへの想いは恐ろしい程伺えるがそこに憎悪は一切感じられない。
現に今、想い人のこの様な羞恥を見聞きしても引き出しから手帳を取り出し、買い物リストの如く並んだ人の名前の最下行に『麗子さん』と書き足して右隣に本日の日付を書き記して、再び彼へ愛おしそうな眼差しを惜しげも無く向けている。

「麗子さんか・・・ヒロさんの好みは中々分からないなぁ。ヒロさんちゃんと寝てくれるかな・・・あ、今日はお休みか!ちゃんと帰ってくれるといいけど・・・」

八城はデスクに置かれた卓上カレンダーを一見して立ち上がると、端のモニターの頭をくるりと回して何やら支度を始めた。顔を洗ってスーツを着たところを見ると、どうやら出社の支度を始めたらしいが、相変わらず視線は回したモニターに釘付けである。鞄に充電済みのタブレットとスマホを突っ込むと、小型冷蔵庫から綺麗に並んだ『手軽にエネルギーチャージ』を唄う栄養補助食品のゼリーを1つ取り、咥えてパソコンの前へ戻ると、名残惜しそうに一時彼を見つめ電源を落した。
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