the colors of Love

不知火美月

文字の大きさ
上 下
19 / 25

お昼の癒し(side,八城)

しおりを挟む
PM3:00

無事式を終え、食事、初七日等全ての工程が終わるとあれ程賑やかだった式場は、がらりと雰囲気を変え静まり返っていた。
まるで一仕事終えた疲れを癒そうとしているかのようである。
そしてまた、ここにも溜まった疲れを癒している人達が集まっていた。

「八城ー、それ後でいいから休憩」

事務所の扉から半身だけ出した綾瀬の掛け声で八城はタッチパネルの操作をやめて事務所に入る。中ではデスクの椅子に優美に長い足を組んで座る榊と、入口奥に置かれた業務用の大きなコピー機に寄りかかる綾瀬が先に休憩していた。

「八城も一杯どう?さっき足したからまだ温かいよ」

よく見ると二人とも片手に使い捨てのカップを持っており、デスクにはお客さんに出していた無料のコーヒーが入った保温型のサーバーが置かれている。

「道理で入った時に芳ばしい香りがしたわけです・・・」

「別にいいんだよ!どうせ流すんだから排水口も食道も大差ねーし。お前昼まだだろ、さっさと座ってクリーンな廃棄に協力しろ」

綾瀬がコピー機の横に1つ立て掛けられたパイプ椅子を引っ張り出して席を作ると、八城はそこへちょこんと座った。

「分かりました、頂きます」

榊がコーヒーを入れている間、背筋を伸ばし両手を膝に乗せて待っている八城は親鳥の餌を待つ雛鳥のようだ。

「はいどうぞ。ちゃんと甘くしてあるからね」

八城は砂糖がたっぷり入ったコーヒーをありがとうございますと受け取り一口飲むと、硬い表情がほよっと和らいだ。

「お前本当ガキな」

八城を片目にブラックコーヒーを片手にパンを頬張る綾瀬を見て、榊はカップに残った中身を飲みきると椅子から立ち上がった。

「僕は休憩済んだから颯月、ここ使っていいよ」

狭い事務所はコピー機とデスクでほぼ一杯で、そこに荷物と案内板や貸出用の傘等で、人が三人も座れる程の余裕が無い為椅子は二人分しか用意されていない。少ない休憩で少しでも部下に休んで貰おうとの榊の気遣いが分からない綾瀬ではない。しかし、サブと違い常に担当を担う榊の仕事量は桁違いである事を、担当を持った事のある綾瀬は身を持って知っている。休める時に休んで欲しい。それは尊敬する上司への敬いだけで無く・・・

「何言ってるんですか、奥さんの愛妻弁当残して帰ったら大変ですよ!俺はほら、朝サボらせて貰ったんで大丈夫です」

その時、タイミングが良いのか悪いのか綾瀬の仕事用携帯に着信が入り、綾瀬は事務所を出たので、榊は仕方なく椅子に戻りラップに包まれたおにぎりを取り出して口に放り込んだ。
それを見て八城も鞄から朝冷蔵庫から取って入れた栄養補助食品のゼリーを取り出して蓋を開ける。

「八城またそれなの?ちゃんと食べないと駄目だよ。ほら、鮭のあげるからお食べ」

「ありがとうございます。気が付くと時間が経っていて食に使う時間が余り取れなくて・・・お返しにチーズ味あげます。どうぞ」

若いのにお爺ちゃんみたいだなぁと思った榊と、鮭かぁ二年ぶりだなぁと思った八城が、おにぎりと固形栄養食品を交換した頃に綾瀬が事務所の戸を開けた。

しおりを挟む

処理中です...