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あっちはあっち・こっちはこっち その③
しおりを挟む「ほえ~。」
マリエが二人を連れてその場を離れると、ヨールはしりもちをついた。
「ヨール、さっきの突きは気合が入ったいい突きだったぞ。」
「ユフラテは、よく見てる余裕があるYO。」
「声をかけた手前、筋は見るさ。次の攻撃もあるからな。」
「YO~」
「マルソー、刃こぼれしたろう。」
「ああ、首の骨が意外と硬かった。」
マルソーは、自分の剣をなぜながら、眉尻を下げた。
「しゃあねえな、ウルフの皮で買えるかなあ?」
「まあ、安物だ。」
「次はもう少し短めで行こう。」
「そうだな。」
俺は、ウルフの足にロープを縛って、木の枝に吊るしている。
「手伝うよ。」
マルソーもヨールもウルフを吊り上げる。
「おまえ、すげえ力だなあ、けっこう大きいぞこいつ。」
「そうだな、まあこのくらいは。」
「ユフラテは力持ちなんだYO」
「ちげえねえ。」
六匹吊ると、かなりくたびれた。
喉を切って、血抜きをする。
何事も基本が大事だ。
「ウサギだけじゃなくて、よかったな。」
マルソーはウルフを見上げてニヤつく。
「ああ、大もうけだな。特にグレーウルフは森の奥に住んでるし。」
ヨールは、肩でぜいぜい息をしている。
「なんでこんなところに出てきたんだYO」
「わからんが、なにかこいつらの嫌いなやつが出たのかな?」
「ブラックより強いのに?トロールかオーガでも住み着いたかYO」
「そうかもしれんな、ギルドに言っておこう。」
俺たちは、その場で座り込んで、マリエたちの馬車を待った。
五〇〇メートルを急いで駆け抜け、マリエは城門にたどり着いた。
「どうした、マリエ。」
門兵は、息を切らすマリエに声をかけた。
「いま、グレーウルフが出たの。」
「そりゃあ大変だな。」
「いえ、ほぼ全滅させたから大丈夫。」
「へえ、お前たちでかい?」
「いいえ、ユフラテやほかの人と。」
「そうか。」
「馬車を取りに行くから、急ぐわ。」
「おおう、大もうけだな。」
「そうね、あとよろしく。」
マリエとレミーは足早に門をくぐった。
ジャックは一瞬振り向いてユフラテを探した。
「まあ、あいつなら大丈夫だな。」
ギルドの裏に回り、馬車を出す。
馬車受付も、マリエがいるから顔パスでいける。
「なにが獲れたんだ?」
馬車受付は、興味津々で聞いてくる。
「ウサギよ。」
「そりゃあいい。」
パカパカと馬車に揺られながらレミーはマリエに聞いた。
「ウルフのことは言わないの?」
「ギルドの中で言うことよ。」
レミーとジャックは、顔を見合わせた。
受付嬢は伊達じゃない。
マリエたちの馬車は城門をくぐり、門兵に手を振られて現場に向かう。
外は乾いていて、土煙を残しながら進んだ。
マゼランの周りは、あまり道路が整備されていないんだ。
雨が降るとぬかるんで、通行がしづらい。
王都の周りには石で舗装された、いい道があるんだってさ。
交通は発展のキモだ。
マゼランの殿さまは、もう少し流通に力を入れないと、発展しないよ。
閑話休題(それはさておき)
快調に走る馬車は、程なく現場に着いた。
ユフラテたちは、のんびりと水など飲みながら待っていた。
「お待たせ。」
マリエは御者台から俺に声をかけた。
「いや、それほども待ってねえよ。おっつー。」
俺も軽く手を上げて答える。
「馬車に載ってたから、疲れてもないわよ。」
そんな軽口をききながら、馬車から降りた。
「よっしゃ載せるか~。」
ユフラテは、のんきにそう言って、ウルフを枝から下ろしはじめる。
ヨールとマルソーも二人がかりでウルフを下ろした。
「本当にユフラテは力持ちね。」
マリエが言うと、ユフラテは笑っている。
どさりとウルフを乗せると、荷馬車がきしむ。
ウルフ六匹はけっこうな重量だったようだ。
そのうえウサギが二匹。
これは、駆け出し冒険者にとってはけっこうな稼ぎだろう。
馬車代を引いても、みんなの懐は潤う。
「みんなで馬車を押しながら帰るぞ。」
ユフラテは、朗らかにそう言って馬車の後ろに陣取った。
本当に馬車を押して、マゼランの町まで帰ってきたのだった。
ウルフは毛皮が銀貨二枚で、肉は銀貨一枚くらいになった。
都合銀貨十八枚。
ウサギは銀貨二枚半で、肉が銀貨二枚になった。
都合九枚。
三十六枚の銀貨を前にして、みんなは固まってしまった。
「すげえ、こんなに銀貨が…」
マルソーですら見たことがないらしい。
「六人だから、ひとりあたま銀貨六枚だ。」
そう言って、ユフラテは無造作に各々の前に銀貨を積んだ。
「あたしも?」
「マリエだって働いたじゃん。」
馬車ももってきたし。
「う・うん…」
一日の稼ぎにしては多すぎた。
「今日は、みんなよくがんばったじゃないか。」
俺はレミーに笑って見せた。
「ええまあ、そうね。」
「ウサギの獲り方もわかってきたし、稼ぎはいいし、言うことないわ。」
レミーは、金髪を揺らして喜んだ。
この辺からマリエ視点
「これで五日は飲めるYO」
ヨールは相変わらずね。
「俺も、宿代に困らない、すげえな。」
ジャック、志が低い。
「…」
マルソーは黙って懐に入れた。
「ユフラテは、こええでいいのか?」
いまさらでしょう、マルソー。
「こう言うのは、平等がいいんだよ、ほらみんな懐に入れろ。」
そう言ってユフラテは、六枚の銀貨をポケットに入れた。
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