執着男が異世界までついてきたので、一緒にお笑い芸人やります

秋宮千砂

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第21話 美少女から強引に迫られる俺。一方、相方は…!?

 翌日から、俺らは毎日劇場前に立つようになった。
 午前9時からと11時からの二回公演。5人全員の芸を合わせて所要時間は二、三十分。
 最初は手探りやったけど、回数を重ねるごとに流れが整っていく。ネタも少しずつ変えて、飽きられんように工夫する。
 それに加えて——―

「アンタたち、大道芸人の一座なんだってな。よかったらうちの中庭で芸をやってくれないか? その分、宿代を安くするからさ」

 宿の主人がそう言うてくれた。

「人集めてくれたら、客が増えてこっちも助かるしな」

 なるほど。芸を観たけりゃ、併設の食堂で酒や食べ物を買えって商売する気やな。願ったり叶ったりや。
 それからは、午前は劇場前、夕方からは宿の中庭。
 一日3回の公演に加え、空き時間には宣伝口上で街を練り歩いた。
 シルヴァンがリュートを弾き、マティアとグレナはりんごをジャグリングしたり皿回しをしながら歩く。俺とノエルが大声で時間と場所を知らせる。
 昔の日本で言うチンドン屋みたいなもんやけど、この世界の人らはあんまり文字を読めへんから、チラシはあらへん。もちろんホームページもSNSも無いから、こうやって宣伝して歩くしかないんや。あとは口コミ頼りやな。
 このスケジュール、最初はしんどかったけど、体が慣れてくると、逆に調子が上がってくる。
 ノエルのケンカ芸も復活した。
 パンチの風圧で、俺が手に持ってる蝋燭の火を消す。
 回し蹴りで、俺が掲げた瓶の蓋だけを弾き飛ばす。

「おい危ないやろ!」
「当たってないから大丈夫です」
「当たってたら蓋やなくて俺の頭が吹き飛んでるわ!」

 そんなやり取り込みでウケる。
 客も増えていった。
 一回見たやつが、また次の日も来る。
 いわゆるリピーターや。
 気付いたら、メンバーそれぞれのファンみたいなもんもできてた。
 シルヴァンとノエルの周りには、若い女が集まる。

「今日も素敵でした!」
「歌、すごく良かったです」

 まあ、あいつらは見た目もええしな。
 一方で、マティアとグレナのところには男が集まる。

「すごい技だったよ!」
「怪我しないようにな!」

 ……わかりやすい構図や。
 で、俺はというと。

「お兄ちゃん面白かった!」

 小さい男の子に……

「兄ちゃんのツッコミ最高だったよ!」

 酔っ払いのおっさん。
 ……まあ、ええか。


 そんなある日のことや。
 劇場前での公演が終わったあと、ノエルがいつものように女性客に囲まれていた。

「結婚してるんですか?」
「恋人はいるんですか?」

 ようある質問やな。
 ノエルは爽やかな笑顔で即答する。

「結婚はしてませんし、恋人もいません」

 そこまでは想定内。

「でも、好きな人はいます」

 ——は?
 思わずそっちを見る。
 ノエルは普通の顔で答えとる。
 女たちは「えー!」とか言うて騒いでる。
 好きな人。
 ……誰やねん。
 いや、ちょっと待て。
 こっち見い。
 ……見いひん。
 そのまま話を続けとる。
 なんやねん、それ。
 胸の奥が、ざわっとする。
 けど、その場では何も聞けんかった。



 その数日後の休演日。
 俺らは市場に出ていた。
 食材やら小道具、日用品なんかの買い出しや。

「……あれ?」

 ふと気付くと、一緒におったはずのマティアが見当たらない。

「マティアは?」

 グレナが答える。

「さっき、ちょっと気分悪いって言って、先に宿に戻ったんですけど」
「そっか。大丈夫なんか?」
「うん、多分。でも……」

 少し間を置いてから、こっちを見る。

「心配だから、シュンスケさん、様子見てきてくれませんか? 私は代わりに買い物頼まれてるので……」
「わかった」

 俺はノエルとシルヴァンに先に戻ると伝えて、一人で宿に向かった。
 気分悪いって。風邪やろか? 食中毒とか変な病気やないとええけど……。
 2階に上がり、部屋の前に立つ。
 扉には、内側から鍵がかかっとる。
 コンコン、とノックする。

「マティア? 俺や」

 少しして、鍵が外される音がした。
 扉が開く。

「……シュンスケさん」

 顔色は悪くない。でも、毛布を肩から羽織って首元でぎゅっと握りしめとる。寒いんやろか?

「大丈夫なんか?」
「はい……少し休んだら、もう平気です」
「そうか」

 中に入る。
 扉が閉まる。
 その瞬間やった。
 マティアが、一歩近づいてくる。

「……シュンスケさん」

 距離が近い。
 視線が真っ直ぐこっちを見てる。

「なんや」

 そのまま、マティアは掴んでいた毛布をパッと離す。
 はらり、と、毛布が床に落ちる。
 ―――え。
 えええええええええっ!?
 ……おっぱいや。
 ナマの、おっぱい。
 丸くて、白くて、柔らかそうで、中心が淡いピンクで……下は履いてるけど、何故か上半身は裸。
 うわ。うわうわうわ!
 俺は慌てて視線を逸らす。
 だが。

「シュンスケさん、私……」

 言いながら、俺の手首を掴む。
 女の子とは思えんぐらいの握力で、俺の手を引き寄せて、自分の胸に当てる。
 うわ。
 やわらかっ!
 体の中心が、一気に熱を帯びる。
 いや……あかん。これはアカンて!

「待て待て待て!」

 力ずくで振り払う。

「何しとんねん」
「……私、本気です」

 目ぇ逸らさへん。
 真っ直ぐや。

「本気で、シュンスケさんのことが好きです」

 はっきりとした口調で言う。

「だから、女として見てほしいんです……」

 今度は抱きついてくる。
 肩を掴んでそれを引き剥がす。

「マティア」

 床の上から毛布を拾って、肩にかけてやる。

「それは、あかん」

 きっぱり言うと、マティアの表情が揺れる。

「なんでですか……」
「お前のこと、そういう目では見れへん」

 ゆっくりと伝える。

「お前のことは大事や。めっちゃええ子やと思ってるし、好きやで。でも、そういう意味ちゃうねん」

 視線を外さずに言う。

「お前は、妹みたいなもんや。せやからお前がいつか嫁に行くまでは、俺が面倒見てやるし、守ってやりたいって思ってる」

 マティアの目が潤む。
 でも、泣かへん。強い子や。

「……そう、ですか」
「ごめんな」
「……謝らないでください。私が勝手に好きになっただけですから」

 頭に手を乗せて、軽く撫でてやる。

「いや。俺がハッキリ言うとかなあかん話やった」

 数秒の沈黙の後。

「……もう大丈夫です。少し頭を冷やしたいんで、もうしばらくここにいていいですか?」

 そう言って、マティアが一歩下がる。

「ああ、もちろん。せやったら俺は買い物に戻るわ」

 俺は部屋を出て、後ろ手に扉を閉めた。
 心臓が、まだバクバク言うとる。顔が熱い。ちんこ痛い。
 たとえ恋愛感情がなくても、異性のナマの裸を見て興奮せえへん男はおらん。しゃあない、これは生理現象や。生物としての本能や。
 わかっとる。わかっとるんやけど……

「……クッソ」

 本能を理性で抑えられるのが人間の男や。それが出来へん奴は野生動物以下や。
 俺の元相方みたいに。
 そう思ってた、のに。
 未成年の女子の裸に反応してしまった自分の下半身に、物凄い嫌悪感が湧き上がる。
 気持ち悪い。……吐き気が、する。
 マティアに対してや、ない。自分自身が気持ち悪くてしゃあない。
 体は興奮して熱くなってるのに、心はどんどん冷えていく。まるで自分の体が別の生き物になってしまったみたいで、拒絶反応が起きてる。
 俺はふらつきながら階段を降り、宿の裏手に出ていって……胃の中のもんを、吐き出した。



 その後、俺は市場に戻ってみたが、ノエルたちを見つけることはできへんかった。
 入れ違いになったんかと思い、もう一度宿に戻ってみる。
 すると、中庭の方から聞き覚えのある話し声。
 ノエルとシルヴァンが、中庭のベンチに並んで腰掛けている。
 ……やけに距離が近い。
 楽しそうに笑いながら、何か話してる。
 俺が近づいていくと、ノエルが顔を上げた。

「俊輔さん」

 いつもの声。
 でも、どこか違う。

「……なんや」
「報告があります」

 淡々と言う。
 その横で、シルヴァンが少しだけ苦笑してる。
 嫌な予感しかしない。
 ふいに視線を下に向けると、シルヴァンの手がノエルの手の上に重なっていることに気付いた。
 ノエルが、はっきりと言う。

「僕とシルヴァンさん、付き合うことになりました」

 ——は?
 一瞬、何言われたか分からへんかった。
 さっきまでのこととか、全部吹き飛んで、頭の中が真っ白になる。

「……は?」

 やっと声が出た。
 ノエルは、俺の目を見てる。まっすぐに。
 ……なんやねん、それ。
 胸の奥が、一気に冷える。
 さっきまで熱かったはずの場所が、急に空っぽになる。
 言葉が、出てこん。
 ただ一つだけ、はっきりしてるのは——―
 これ、全然笑えへんやつや。
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