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【第2章 死天使が崩れる】疑惑と約束
揺るがない
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主への信仰心と、大司祭への信頼。
教会内部での立場だとか、自身が置かれている今の状況がおもしろくないものだということは自覚しているが、この二つは揺るがないマナーワンの根底であった。
それ以外に好きなものの順番を付けるならば一番が金、二番目がオリンピアである──或いは逆か?
金と女ですか。生臭と言われるのも無理からぬことかもしれませんね。僧は苦笑する。
だからと言って己は僧たる身。無論、肉欲は完全に断ち切っている。そういう執着心ではないのだ。純粋に美しく、強く、澄んだものに憧れる気持ち。これを恋と呼ぶかのかどうかはマナーワンは知らない。大切に思い、幸せを願うだけだ。
「損な性格だね、お坊さん」
甲高い声でそう言われ、マナーワンは片目を開いた。気を失ったふりをしていたとばれてしまったか?
「起きなよ。わざと逃がしてくれたんでしょ」
頭の悪そうな田舎の小娘に見透かされて、マナーワンは焦った。むくりと起き上がると、弱みを見せまいとの思いからつい強気な態度に出る。
「あ、あなたもこんなことをして、リガさんに怒られますよ。あの人は女子供とて容赦しませんからね。自分も子供のくせに、怖いったらない」
しかしキルスィインは平然としている。
「大丈夫。バレないってば! 明日の朝までに戻るってオリンピアちゃんも言ってるんだし」
「はぁ……、そこですよ」
マナーワンは呟く。表情は不安に沈んでいた。
「あの方は一体どこへ向かわれたのでしょう」
「さぁ? 教会と思うけど。うちの弟が一緒だから大丈夫だって。意外と頼りになるんだから。お姫様はちゃんとお守りするよ」
あくまで呑気な彼女に、マナーワンは大袈裟に溜め息をつく。
「あなた、まるで分かっていません。彼女の立場を整理してごらんなさい。まず第一に大司祭殺しの容疑者です。無論、彼女が実の叔父さんを殺す筈ないのですが、状況は極めて不利です。第二に武器の横流しを疑われている。モリガンさんはああ言ってますが、リガさんなど完全に彼女を犯人扱いしてますからね」
マナーワンは憤った様子だ。仲間オリンピアを犯人扱いすること、それから大司祭の死に対して彼等が無反応なこと。つまり「猊下の敵を討とうともしない」と。それは不忠だ。
いや、冷たいわけじゃないと分かっている。彼等の方が冷静で賢いのだ。
「……拙僧はどうしたら良いのでしょう」
顔を上げると、もうキルスティンの姿はなかった。部屋に入って寝てしまったろうか。マイペースな方ですね、溜め息をついて彼は立ち上がる。分かっている。無力な自分に何か出来るわけじゃない。出来れば全て忘れて眠ってしまいたかったが、それも無理だろう。
長い夜は、まだまだ明けそうになかった。
※ ※ ※
教会内部での立場だとか、自身が置かれている今の状況がおもしろくないものだということは自覚しているが、この二つは揺るがないマナーワンの根底であった。
それ以外に好きなものの順番を付けるならば一番が金、二番目がオリンピアである──或いは逆か?
金と女ですか。生臭と言われるのも無理からぬことかもしれませんね。僧は苦笑する。
だからと言って己は僧たる身。無論、肉欲は完全に断ち切っている。そういう執着心ではないのだ。純粋に美しく、強く、澄んだものに憧れる気持ち。これを恋と呼ぶかのかどうかはマナーワンは知らない。大切に思い、幸せを願うだけだ。
「損な性格だね、お坊さん」
甲高い声でそう言われ、マナーワンは片目を開いた。気を失ったふりをしていたとばれてしまったか?
「起きなよ。わざと逃がしてくれたんでしょ」
頭の悪そうな田舎の小娘に見透かされて、マナーワンは焦った。むくりと起き上がると、弱みを見せまいとの思いからつい強気な態度に出る。
「あ、あなたもこんなことをして、リガさんに怒られますよ。あの人は女子供とて容赦しませんからね。自分も子供のくせに、怖いったらない」
しかしキルスィインは平然としている。
「大丈夫。バレないってば! 明日の朝までに戻るってオリンピアちゃんも言ってるんだし」
「はぁ……、そこですよ」
マナーワンは呟く。表情は不安に沈んでいた。
「あの方は一体どこへ向かわれたのでしょう」
「さぁ? 教会と思うけど。うちの弟が一緒だから大丈夫だって。意外と頼りになるんだから。お姫様はちゃんとお守りするよ」
あくまで呑気な彼女に、マナーワンは大袈裟に溜め息をつく。
「あなた、まるで分かっていません。彼女の立場を整理してごらんなさい。まず第一に大司祭殺しの容疑者です。無論、彼女が実の叔父さんを殺す筈ないのですが、状況は極めて不利です。第二に武器の横流しを疑われている。モリガンさんはああ言ってますが、リガさんなど完全に彼女を犯人扱いしてますからね」
マナーワンは憤った様子だ。仲間オリンピアを犯人扱いすること、それから大司祭の死に対して彼等が無反応なこと。つまり「猊下の敵を討とうともしない」と。それは不忠だ。
いや、冷たいわけじゃないと分かっている。彼等の方が冷静で賢いのだ。
「……拙僧はどうしたら良いのでしょう」
顔を上げると、もうキルスティンの姿はなかった。部屋に入って寝てしまったろうか。マイペースな方ですね、溜め息をついて彼は立ち上がる。分かっている。無力な自分に何か出来るわけじゃない。出来れば全て忘れて眠ってしまいたかったが、それも無理だろう。
長い夜は、まだまだ明けそうになかった。
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