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【第3章 楽園の行方】燃える都市
騎士の作戦
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「よせ、マナーワン。嘘を言ってるんだ。僕達を混乱させようと……」
「違う!」
苛立ったように黒騎士が口を開く。
「掃除屋貴様等は知らんだろうが、教会付きの正規軍には極秘のマニュアルがあるのだ。街が危機的状況に陥った時に発動される……これは焦土作戦なのだ」
EDE.我々が知らないマニュアルですって? 僧形の男が怒りを露にした。正規軍でないと言われたことが彼の誇りを傷付けたのだ。
そもそも焦土作戦とは、敵軍がその土地を占拠しても補給も休憩も出来ないようにするため食料も水も含めた家屋、街全体を焼き尽くすことだ。
「焦土作戦なんてありえない。ここには四万の住人が居るんだ。この街を焼いて、彼等をどこへ逃がすって言うんだ。まさか見殺しにするつもりじゃないだろうな」
これ程大規模な街の焦土作戦を敢行するならば、数ヶ月単位の準備期間が必要だ。住民を無視して、一夜にして街を焼くなど歴史上の例をとっても考えられない。
「しかし陸路水路、どこをとっても戦略的に重要な地点をみすみす敵に渡す訳にはいかんだろう。渡すくらいなら潰した方がましだという考えだ……おい、やめろっ!」
リガに胸倉をつかまれ、ゴーチェが咳き込む。縛られている為、彼に反撃の余地はない。
「やめ、ろ……。身内同士で争ってどうす……る……」
「身内だ?」
リガのみならずマナーワンも顔を顰めた。EDE.と聖騎士団は天敵の筈だ。
「き、貴様等が猊下を殺害した犯人でないのは俺がよく知っている。教会の中の者同士で争っている場合ではないだろう。俺の部下達は今頃、火薬を街中にばら撒いている筈だ」
EDE.を敵視していた黒騎士が、随分成長したものだとヴェルツは呑気にも感心していた。全く同じ台詞を、マナーワンが皮肉気に呟く。
「解いてくれ。奴等を止めに行く」
必死な様子に、反射的にマナーワンがロープの結び目を解く。解雇された隊長の言うことなんて誰が聞くかよと毒づきながらも、リガも止めはしない。
「騎士として恩は返す」
ゴーチェがいきなりこちらを見たので、ヴェルツは縛られた椅子ごと身を引いた。
「あの塔で助けられなかったら、俺は今頃死んでいた。騎士団を止めたら、貴様等は無実だと訴えてやる」
意外と熱い男はそう言うと立ち上がった。きょとんとしているキルスティンに一礼すると、部屋を飛び出す。大聖堂に向かったのだろう。
「僕達も追おう。行こう、モリガン」
側に置いていた銃を抱えてリガも駆け出す。あの男に任せておくのが癪なのだろう。
「どうする?」
モリガンの問いに、マナーワンは首を振る。
「拙僧は《死天使》《シュテルヴェン・エンゲル》が心配です。彼女を探しに……」
そうかと頷いてモリガンも部屋を出た。
「いいですか。ここが正念場ですよ」
一人で気合を入れているマナーワンを尻目に、キルスティンが声を潜めた。
「ヴェルツ、さっきの人……誰なの?」
兜を脱いだゴーチェを見たことがなかった彼女は、展開に全く付いていけなかった様子だ。道理で大人しいと思った。話が分からない彼女は途中から完全に別のことを考えていたらしい。やはりゴーチェは望み薄だなと考えながら、ヴェルツは最後の望みを姉に託した。
「頼むよ、姉ちゃん。縄を解いてくれ……」
※ ※ ※
「違う!」
苛立ったように黒騎士が口を開く。
「掃除屋貴様等は知らんだろうが、教会付きの正規軍には極秘のマニュアルがあるのだ。街が危機的状況に陥った時に発動される……これは焦土作戦なのだ」
EDE.我々が知らないマニュアルですって? 僧形の男が怒りを露にした。正規軍でないと言われたことが彼の誇りを傷付けたのだ。
そもそも焦土作戦とは、敵軍がその土地を占拠しても補給も休憩も出来ないようにするため食料も水も含めた家屋、街全体を焼き尽くすことだ。
「焦土作戦なんてありえない。ここには四万の住人が居るんだ。この街を焼いて、彼等をどこへ逃がすって言うんだ。まさか見殺しにするつもりじゃないだろうな」
これ程大規模な街の焦土作戦を敢行するならば、数ヶ月単位の準備期間が必要だ。住民を無視して、一夜にして街を焼くなど歴史上の例をとっても考えられない。
「しかし陸路水路、どこをとっても戦略的に重要な地点をみすみす敵に渡す訳にはいかんだろう。渡すくらいなら潰した方がましだという考えだ……おい、やめろっ!」
リガに胸倉をつかまれ、ゴーチェが咳き込む。縛られている為、彼に反撃の余地はない。
「やめ、ろ……。身内同士で争ってどうす……る……」
「身内だ?」
リガのみならずマナーワンも顔を顰めた。EDE.と聖騎士団は天敵の筈だ。
「き、貴様等が猊下を殺害した犯人でないのは俺がよく知っている。教会の中の者同士で争っている場合ではないだろう。俺の部下達は今頃、火薬を街中にばら撒いている筈だ」
EDE.を敵視していた黒騎士が、随分成長したものだとヴェルツは呑気にも感心していた。全く同じ台詞を、マナーワンが皮肉気に呟く。
「解いてくれ。奴等を止めに行く」
必死な様子に、反射的にマナーワンがロープの結び目を解く。解雇された隊長の言うことなんて誰が聞くかよと毒づきながらも、リガも止めはしない。
「騎士として恩は返す」
ゴーチェがいきなりこちらを見たので、ヴェルツは縛られた椅子ごと身を引いた。
「あの塔で助けられなかったら、俺は今頃死んでいた。騎士団を止めたら、貴様等は無実だと訴えてやる」
意外と熱い男はそう言うと立ち上がった。きょとんとしているキルスティンに一礼すると、部屋を飛び出す。大聖堂に向かったのだろう。
「僕達も追おう。行こう、モリガン」
側に置いていた銃を抱えてリガも駆け出す。あの男に任せておくのが癪なのだろう。
「どうする?」
モリガンの問いに、マナーワンは首を振る。
「拙僧は《死天使》《シュテルヴェン・エンゲル》が心配です。彼女を探しに……」
そうかと頷いてモリガンも部屋を出た。
「いいですか。ここが正念場ですよ」
一人で気合を入れているマナーワンを尻目に、キルスティンが声を潜めた。
「ヴェルツ、さっきの人……誰なの?」
兜を脱いだゴーチェを見たことがなかった彼女は、展開に全く付いていけなかった様子だ。道理で大人しいと思った。話が分からない彼女は途中から完全に別のことを考えていたらしい。やはりゴーチェは望み薄だなと考えながら、ヴェルツは最後の望みを姉に託した。
「頼むよ、姉ちゃん。縄を解いてくれ……」
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