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雨の日の出来事
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無事かどうか知らねーが、木村部長のホテルから戻った俺達は、また普段の生活に戻った。
俺は、帰り道にバイクを引いて歩くのが面倒くさくなってきたので、彼女と1日で別れたと言って、毎日ではないが、田中に校門まで送らせる事にした。
田中は、よく俺のことを見抜いている様で、驚きも、たしなめもしなかった。
ただ、美樹と別れて以来、何故か新しく彼女を作ろうとは思わなかった。
火遊び自体に飽きたとは思えないのだがな…。
朝、俺は車の助手席から、鈴木らしき後ろ姿が学園に向かって歩いているのを見つけた。
「田中、アイツのところで車を止めろ」
「かしこまりました」
田中は、鈴木の横まで車を進めると、俺に言われた通り止めた。
鈴木は驚いた様だが、俺が助手席の窓を開けると合点がいったような表情になった。
「おはよう御座います。千夜くんは、極道の方だったんですね」
事実ではあるが、納得してる様子の鈴木を見てると複雑な心境になる。
だが、冷静な鈴木らしい反応でもあった。
「坊ちゃん、ご友人ですかい?」
田中が運転席から隣に座っている俺に言う。
「ああ。鈴木航っていうんだ。…鈴木、コッチは俺の右腕の田中」
「宜しくお願いします、田中さん」
鈴木は怖がる様子もなく、田中に向かって頭を下げた。
田中も、次いで頭を下げる。
「こちらこそ。鈴木の坊ちゃん」
「田中、あんたなあ。誰でもかれでも坊ちゃんって付けるのはよせ」
「す、済みません!坊ちゃん!」
…こりゃ、処置無しだな。
俺が呆れていると、鈴木が田中をフォローした。
「仕方ないですよ。田中さん位の方から見たら僕らはまだまだ子供です」
それは言えてるな。
俺は田中に車の後ろのドアを開けるように言った。
「鈴木。学園まで車に乗っていかないか?」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」
そう言うと、鈴木は車の中に入ってきた。
俺や田中に悪意は無いとは言え、単身、ヤクザの車に乗る鈴木は、ある意味、肝が座っていると言うか、度胸があると言うか。
はたから見たら、鈴木を拉致した様に見えない事もないだろうが、鈴木がシートベルトを締めたところで田中は車を発進させた。
放課後。
空模様が怪しい。
天気予報では、夕方から夜中に掛けて雨だと言っていた。
俺は折り畳み傘を持ってきていたから、何てことはない。
いつものように部室に行くと、何故だか知らねーが、いつも以上にざわついている。
「山村が?」
「ああ、病院に運ばれて行ったらしい」
部員たちの話が耳に入ってきたが、どういう事だよ?
話が見えない俺は木村部長から声を掛けられた。
「千夜くーん、山村くんが階段から転げ落ちた事は、知ってるかーい?」
「そんなの知るかよ」
山村…よく落ちる奴だ。
「俺の目の前で、階段を踏み外したんだ」
佐藤先輩が俺たちの方へやって来て言った。
じゃあ、本当の事だな。
「皆も階段の上り下りには、気を付けてー!今日のメニューを発表するよ!」
木村部長の声が部室に響き渡った。
どこか盛り上がらない活動のまま、今日の部活は終わった。
元気印の山村は、いじられこそすれ、部のムードメーカーだ。
その山村が居ないから、仕方ねーかもしれねー。
後片付けを終えた俺と佐藤先輩は、揃って帰路に着く。
昇降口まで行くと、雨が本降りになっていた。
「保、傘は持ってるか?」
「ああ、折り畳みがある」
「じゃあ、悪いが入れてくれないか?傘を忘れてしまってな」
佐藤先輩が傘を忘れるなんて、明日はヤリでも降ってきそうだ。
「あたぼうよ。何だったら、アパートまで送るさ」
「ありがとう、保。礼は部屋に戻ってから、させてくれ」
佐藤先輩の部屋か。
礼云々はともかく、どんな部屋か興味はある。
それに早く帰っても、今日は親父が居るから料理は出来ない。
はっきり言って暇だ。
「じゃあ、行くか」
「そうだな」
お互いに靴に履き替えて、俺はカバンから折り畳み傘を取り出した。
「俺が入れてやるんだ、先輩。一滴も濡れるなよ」
「はは、保は面白いな」
俺は昇降口の出入り口で傘をさすと、約束通り佐藤先輩を傘に入れて一緒に歩き出した。
背丈が俺と佐藤先輩はほとんど同じだから、俺の傘という事もあって、俺が傘を持っている。
ただ、折り畳みだから、サイズが少し小さい。
だから自然と佐藤先輩との物理的な距離が近くなる。
歩くたびに腕やカバンが当たるがお互い様だ。
「そう言や先輩。髪切ったんだな」
「…邪魔だったからな」
佐藤先輩は、どこか遠くを見ながら声のトーンを下げて言った。
何か微妙に含みがあるような。
「そんなに伸びてたか?」
「これから暑くなるしな。それより、ここだ」
昔ながらのアパートといった感じがする建物だ。
1階の1室の前で、佐藤先輩はカバンからカギを取り出した。
ん?
一瞬だし、よく見えなかったが、先輩のカバンの中に折り畳み傘が入ってたような。
まあ、先輩が傘を忘れたと言っているのだから、見間違いだろう。
見間違いをするなんて、俺も疲れているのかもしれないな。
「入れ、保」
「ああ」
玄関を開けた佐藤先輩に促され、我に返った俺は、先輩の部屋にお邪魔した。
先輩の部屋は、ワンルームで狭かったが、中は小綺麗に片付いていた。
ローテーブルの脇にある座椅子に座らせてもらった俺は、英語の本が小さな本棚に並べられてるのを見つけた。
そう言や、先輩は卒業したら、アメリカに留学するつもりだと言ってたな。
「先輩は何でアメリカに留学したいんだ?」
「アメリカで俺の店を開くのが夢なんだ」
湯を沸かしながら先輩が言う。
「店って料理のか?」
「ああ。アメリカに日本料理の良さを伝えたくてな。…コーヒーでいいか?」
「コーヒーでも紅茶でも、先輩の好きなのを淹れろよ」
「わかった。保の将来の夢はなんだ?」
「ばーちゃんが生きてた頃はパティシエになりたかったけどよ。今はねーな」
「そうか」
佐藤先輩は、それ以上突っ込んではこなかった。
そんな先輩に俺は安心した。
あまり、あーだこーだと言われたくない。
「いくつだ?」
「15に決まってるだろ」
「違う。砂糖の数だ」
「ああ、2つで」
「了解」
佐藤先輩は淹れたてのコーヒーを台所から持ってきて、俺と先輩自身の座る前に置いた。
「良い香りがするな」
「ただのインスタントだがな」
ドリップだろうが、インスタントだろうが、美味きゃ良いと思ってる俺はコーヒーに口をつけた。
先輩は、そんな俺を暖かい目線で見ている。
「先輩、飲みにくいって」
「ああ、すまん」
少し慌てたように先輩は俺から目を離すと、自分もコーヒーを飲んだ。
窓の外から雨音が室内にまで聞こえてくる。
「もうあんな無茶はしないでくれ」
「あんな無茶?」
俺は先輩が何の事を言ったのか、最初意味が解らなかった。
先輩は俺を真っ直ぐ見て言った。
「プールで止めたのに飛び込んだだろう。俺は保まで溺れてしまうかと心配したぞ」
「先輩は俺が信じられないのかよ?」
「そんな事はない。ただ、保を見守っている俺と言う存在が居る事は忘れないでくれ」
「忘れねーよ。先輩のことは、多分、一生な」
「保…」
佐藤先輩は俺を見つめていたが、俺がさっき言ったことを思い出したのか、目を窓の方へ逸らした。
「雨、凄いな…」
先輩に続いて俺も窓へ目線を向ける。
しばらく雨音だけが聞こえる静かな時が流れた。
何か…急に眠くなってきたな。
俺は睡魔に逆らおうと目を開けようとするが、強烈な眠気に目蓋は重くなる一方だ。
微睡んでいると、先輩の声が聞こえたような気がした。
「保は俺だけの者だ」
唇に何かが触れる感触。
だが、それが何か確かめる前に俺の世界は暗転した。
「…もつ、保」
どれくらいの時間が経ったのだろうか。
佐藤先輩の声に起こされた俺は、目を覚ました。
疲れているとは思ったが、まさか先輩の部屋でグースカ眠っちまうとは思わなかった。
「眠っていたところ済まんな。泊まらせてやりたいところだが、生憎、スペースが無くってな」
「ああ、構わない。そろそろ俺、帰るわ」
雨音はまだ聞こえるが、傘も在るし、大丈夫だろう。
先輩は名残り惜しそうに節目がちになっている。
「また来いよ」
「言われなくてもそうするさ」
俺は玄関で靴を履くと、カバンと傘を持って外に出た。
角を曲がるまで、後ろに佐藤先輩の視線を感じながら俺は眠る直前のことを思い返していた。
何か先輩に言われて、唇を塞がれた様な気がしたんだけどな。
でも、良くしてくれる先輩を疑いたくはなかった。
俺は夢でも見てたんだろう。
そう自分を納得させて俺は暗くなった、屋敷までの道を歩いた。
俺は、帰り道にバイクを引いて歩くのが面倒くさくなってきたので、彼女と1日で別れたと言って、毎日ではないが、田中に校門まで送らせる事にした。
田中は、よく俺のことを見抜いている様で、驚きも、たしなめもしなかった。
ただ、美樹と別れて以来、何故か新しく彼女を作ろうとは思わなかった。
火遊び自体に飽きたとは思えないのだがな…。
朝、俺は車の助手席から、鈴木らしき後ろ姿が学園に向かって歩いているのを見つけた。
「田中、アイツのところで車を止めろ」
「かしこまりました」
田中は、鈴木の横まで車を進めると、俺に言われた通り止めた。
鈴木は驚いた様だが、俺が助手席の窓を開けると合点がいったような表情になった。
「おはよう御座います。千夜くんは、極道の方だったんですね」
事実ではあるが、納得してる様子の鈴木を見てると複雑な心境になる。
だが、冷静な鈴木らしい反応でもあった。
「坊ちゃん、ご友人ですかい?」
田中が運転席から隣に座っている俺に言う。
「ああ。鈴木航っていうんだ。…鈴木、コッチは俺の右腕の田中」
「宜しくお願いします、田中さん」
鈴木は怖がる様子もなく、田中に向かって頭を下げた。
田中も、次いで頭を下げる。
「こちらこそ。鈴木の坊ちゃん」
「田中、あんたなあ。誰でもかれでも坊ちゃんって付けるのはよせ」
「す、済みません!坊ちゃん!」
…こりゃ、処置無しだな。
俺が呆れていると、鈴木が田中をフォローした。
「仕方ないですよ。田中さん位の方から見たら僕らはまだまだ子供です」
それは言えてるな。
俺は田中に車の後ろのドアを開けるように言った。
「鈴木。学園まで車に乗っていかないか?」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」
そう言うと、鈴木は車の中に入ってきた。
俺や田中に悪意は無いとは言え、単身、ヤクザの車に乗る鈴木は、ある意味、肝が座っていると言うか、度胸があると言うか。
はたから見たら、鈴木を拉致した様に見えない事もないだろうが、鈴木がシートベルトを締めたところで田中は車を発進させた。
放課後。
空模様が怪しい。
天気予報では、夕方から夜中に掛けて雨だと言っていた。
俺は折り畳み傘を持ってきていたから、何てことはない。
いつものように部室に行くと、何故だか知らねーが、いつも以上にざわついている。
「山村が?」
「ああ、病院に運ばれて行ったらしい」
部員たちの話が耳に入ってきたが、どういう事だよ?
話が見えない俺は木村部長から声を掛けられた。
「千夜くーん、山村くんが階段から転げ落ちた事は、知ってるかーい?」
「そんなの知るかよ」
山村…よく落ちる奴だ。
「俺の目の前で、階段を踏み外したんだ」
佐藤先輩が俺たちの方へやって来て言った。
じゃあ、本当の事だな。
「皆も階段の上り下りには、気を付けてー!今日のメニューを発表するよ!」
木村部長の声が部室に響き渡った。
どこか盛り上がらない活動のまま、今日の部活は終わった。
元気印の山村は、いじられこそすれ、部のムードメーカーだ。
その山村が居ないから、仕方ねーかもしれねー。
後片付けを終えた俺と佐藤先輩は、揃って帰路に着く。
昇降口まで行くと、雨が本降りになっていた。
「保、傘は持ってるか?」
「ああ、折り畳みがある」
「じゃあ、悪いが入れてくれないか?傘を忘れてしまってな」
佐藤先輩が傘を忘れるなんて、明日はヤリでも降ってきそうだ。
「あたぼうよ。何だったら、アパートまで送るさ」
「ありがとう、保。礼は部屋に戻ってから、させてくれ」
佐藤先輩の部屋か。
礼云々はともかく、どんな部屋か興味はある。
それに早く帰っても、今日は親父が居るから料理は出来ない。
はっきり言って暇だ。
「じゃあ、行くか」
「そうだな」
お互いに靴に履き替えて、俺はカバンから折り畳み傘を取り出した。
「俺が入れてやるんだ、先輩。一滴も濡れるなよ」
「はは、保は面白いな」
俺は昇降口の出入り口で傘をさすと、約束通り佐藤先輩を傘に入れて一緒に歩き出した。
背丈が俺と佐藤先輩はほとんど同じだから、俺の傘という事もあって、俺が傘を持っている。
ただ、折り畳みだから、サイズが少し小さい。
だから自然と佐藤先輩との物理的な距離が近くなる。
歩くたびに腕やカバンが当たるがお互い様だ。
「そう言や先輩。髪切ったんだな」
「…邪魔だったからな」
佐藤先輩は、どこか遠くを見ながら声のトーンを下げて言った。
何か微妙に含みがあるような。
「そんなに伸びてたか?」
「これから暑くなるしな。それより、ここだ」
昔ながらのアパートといった感じがする建物だ。
1階の1室の前で、佐藤先輩はカバンからカギを取り出した。
ん?
一瞬だし、よく見えなかったが、先輩のカバンの中に折り畳み傘が入ってたような。
まあ、先輩が傘を忘れたと言っているのだから、見間違いだろう。
見間違いをするなんて、俺も疲れているのかもしれないな。
「入れ、保」
「ああ」
玄関を開けた佐藤先輩に促され、我に返った俺は、先輩の部屋にお邪魔した。
先輩の部屋は、ワンルームで狭かったが、中は小綺麗に片付いていた。
ローテーブルの脇にある座椅子に座らせてもらった俺は、英語の本が小さな本棚に並べられてるのを見つけた。
そう言や、先輩は卒業したら、アメリカに留学するつもりだと言ってたな。
「先輩は何でアメリカに留学したいんだ?」
「アメリカで俺の店を開くのが夢なんだ」
湯を沸かしながら先輩が言う。
「店って料理のか?」
「ああ。アメリカに日本料理の良さを伝えたくてな。…コーヒーでいいか?」
「コーヒーでも紅茶でも、先輩の好きなのを淹れろよ」
「わかった。保の将来の夢はなんだ?」
「ばーちゃんが生きてた頃はパティシエになりたかったけどよ。今はねーな」
「そうか」
佐藤先輩は、それ以上突っ込んではこなかった。
そんな先輩に俺は安心した。
あまり、あーだこーだと言われたくない。
「いくつだ?」
「15に決まってるだろ」
「違う。砂糖の数だ」
「ああ、2つで」
「了解」
佐藤先輩は淹れたてのコーヒーを台所から持ってきて、俺と先輩自身の座る前に置いた。
「良い香りがするな」
「ただのインスタントだがな」
ドリップだろうが、インスタントだろうが、美味きゃ良いと思ってる俺はコーヒーに口をつけた。
先輩は、そんな俺を暖かい目線で見ている。
「先輩、飲みにくいって」
「ああ、すまん」
少し慌てたように先輩は俺から目を離すと、自分もコーヒーを飲んだ。
窓の外から雨音が室内にまで聞こえてくる。
「もうあんな無茶はしないでくれ」
「あんな無茶?」
俺は先輩が何の事を言ったのか、最初意味が解らなかった。
先輩は俺を真っ直ぐ見て言った。
「プールで止めたのに飛び込んだだろう。俺は保まで溺れてしまうかと心配したぞ」
「先輩は俺が信じられないのかよ?」
「そんな事はない。ただ、保を見守っている俺と言う存在が居る事は忘れないでくれ」
「忘れねーよ。先輩のことは、多分、一生な」
「保…」
佐藤先輩は俺を見つめていたが、俺がさっき言ったことを思い出したのか、目を窓の方へ逸らした。
「雨、凄いな…」
先輩に続いて俺も窓へ目線を向ける。
しばらく雨音だけが聞こえる静かな時が流れた。
何か…急に眠くなってきたな。
俺は睡魔に逆らおうと目を開けようとするが、強烈な眠気に目蓋は重くなる一方だ。
微睡んでいると、先輩の声が聞こえたような気がした。
「保は俺だけの者だ」
唇に何かが触れる感触。
だが、それが何か確かめる前に俺の世界は暗転した。
「…もつ、保」
どれくらいの時間が経ったのだろうか。
佐藤先輩の声に起こされた俺は、目を覚ました。
疲れているとは思ったが、まさか先輩の部屋でグースカ眠っちまうとは思わなかった。
「眠っていたところ済まんな。泊まらせてやりたいところだが、生憎、スペースが無くってな」
「ああ、構わない。そろそろ俺、帰るわ」
雨音はまだ聞こえるが、傘も在るし、大丈夫だろう。
先輩は名残り惜しそうに節目がちになっている。
「また来いよ」
「言われなくてもそうするさ」
俺は玄関で靴を履くと、カバンと傘を持って外に出た。
角を曲がるまで、後ろに佐藤先輩の視線を感じながら俺は眠る直前のことを思い返していた。
何か先輩に言われて、唇を塞がれた様な気がしたんだけどな。
でも、良くしてくれる先輩を疑いたくはなかった。
俺は夢でも見てたんだろう。
そう自分を納得させて俺は暗くなった、屋敷までの道を歩いた。
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