溶けだす頃に

羅刹十鬼

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景加も、勘が鋭くて頭がキレるような奴だったら自分の気持ちにも気づいていてくれてたのかなー。
なんて。
そういうやつを自分が好きになるかは知らないけど。今の景加だから自分は......
考えても無駄だな。
「おい」
先生に声をかけられて、頭を上げると教室には自分しかいなかった。
「あれ、他のみんなは?」
「とっくに帰ったよ。木端もさっさと帰れ」
まぁ、他の人たちが帰ったのなんて知ってたけど。
「教科書の問題とかうつしていいから。そんな難しいことじゃないだろ?」
はいはいとペンを持って言われる通り、教科書の問題を丸写しで提出した。
「本当は自分で考えてほしかったがな」
悪態を吐かれる。
「えー、自分はまだ残ってもいいんすけどね?」
そう返せば、うざそうな顔をされる。
今日はなんだか帰る気になれなくて全然残ってもいい気分だった。
「冗談だ。早く帰れ」
追い返されたようでなんだか複雑だった。
適当に挨拶をして教室を出た。
階段を下って、自分のクラスがある階に着いた。
あ、数学の問題集持って帰らないと。
明日は小テストがあるし、毎日勉強しないと学力は下がっていくからな。
暗くなった長い廊下を歩いていく。
なんだか寂しい自分の気持ちをそのまま表した感じだな。
外も暗いし勉強する時間が減るのは嫌なので、急ぎ足で自分の教室に向かう。
自分の机までたどり着いて、中を漁って問題集を取り出す。
問題集の答えもセットで持って帰らねば。
この間、答えがなくて苦労したからな。
早く帰って勉強したいから急いでいたのもあるが、先生に見つかったらめんどくさいのが1番の理由だ。
問題集を手に持って、廊下に出る。
ふと、景加の教室の方を見る。
前まではあいつの教室までよく行ってたのにな。
自分も変わりどきなのかな。
景加もきっと変わっているんだ。だから今は一旦お互い距離を置く必要があるんだろう。
そもそも景加の幼馴染は自分しかいないんだし、恋人でもないんだしそんなこと考えなくてもいいよな。
自分が今まで考えすぎていたことが馬鹿馬鹿しく思えてきた。
よし、帰るか。
景加の教室の方に背中を向けると俺は階段の方に歩みを進めた。
ガタンッ
肩がびくりと跳ねたのがわかった。
え、机が動く音が聞こえてきたけど?
そっと振り返る。
もしかして景加の教室の方からか?
行くか?それともこのまま背を向けて帰るか?
いや、まず人間だよな?人がまだ残ってるのか?こんな時間まで?
携帯の電源をつけて時間を確認する。
19時過ぎだぞ......?
しかし、人間は好奇心には勝てない。

自分は意を決して音がした方へと歩みを進めた。



END
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