童話を元ネタにしたお話

那田野狐

文字の大きさ
8 / 12
シン・デレラ

第2話ビビデ・バディデ・フウ(ブではありません)

しおりを挟む

デレラ侯爵家には年に一度、不定期的に『死の行軍』と呼ばれる行事が行われる。

いまシンはその行事の真っ最中にあった。


「なぜ今なのだろうと考えるだけ無駄か」

シンはきっと下唇を噛む。じんわりと血が滲む。

軽量化の魔法が掛かっているため体感的には五十キロほどにしか感じないが、背負子に積まれた穀物の重さは百キロ。

道中、魔物や盗賊に襲われることを考慮して着ているのは鎖鎧。腰にはロングソードを佩いている。

もうすぐ花月かげつ(3月)。春の季節だが、地面にはまだまだ雪の方が多い山地。

これはいまから百年ほど前に数年にわたりこの地域を襲った大飢饉の際。

当時のデレラ騎士伯領からマッサチン国に山越えで食料を運んだ逸話が元になっている。

先祖の苦労を偲ぶ行事だが、不定期なのは領軍の訓練を兼ねているからだ。


「シン様。そろそろ夜営のご下知を」

シンの後ろを歩いていた白毛の虎人が声を掛ける。

日没にはまだ時間があるだろうが雪のある場所での夜営の準備を考えると妥当である。

「判った。アル。陣地の構築と火起こし。イーサンは食事の準備。スーは私と共に斥候」

「はっ」

ローブ姿で軽装の猫人の娘のアル。白毛の虎人の爺のイーサン。灰色の毛並みの狼人の男スーが頭を下げる。

シン以外はもふもふ…寒さに特化したメンバーだった。


「すまないな」

差し出されたコップを受け取りながらシンは小さく頭を下げズズッとコップの中身を啜る。

干し肉から染み出た微かな旨味が胃袋を満たす。


「いえこの程度で」

イーサンも頭を下げる。

「いや、此度の行事に巻き込んだことだよ」

シンは今回の死の行軍が自分が武闘会のことを呟いたのを継母に聞かれたのが原因だと推測していた。

実際は継母がシンの呟いた武闘会と舞踏会を勘違いして実の娘の邪魔になると勘違い。

夫を唆してシンに死の行軍を行わせているという笑い話みたいな行き違いが起こっているのだが…


「舞踏会に参加したかったのですか?」

「場合によっては誰かが我が夫になるかもしれない近衛四聖騎士のお披露目武闘会だぞ。気にならな方が」

「は?」

「ん?」

場が固まる。

「次代様が参加を望んだのは戦う方の武闘会なのですか」

「うちは武門のデレラだぞ踊りで旦那を落としてどうする」

シンは豪快に笑った。


『シン、シンよ起きなさい』

頭に響く声でシンは目を覚ます。

「私の名はディ。お前の5代前のご先祖と呼ばれるものじゃ」

シンの目の前に現れた仙人みたいな老人はニコニコ笑いながら自己紹介する。

「そのご先祖がなんの用ですか?」

混乱したような様子を一切見せることなくシンは答える。

「お主にな『死の行軍』に挑むご褒美を授けようと思ってわざわざ来たのじゃ」

「はぁ?」

シンは自分の頬を抓る。痛い。夢ではないらしい。

「武闘会に参加したいのじゃろ?」

ディの言葉にシンはコクコクと頭を縦に振る。

「その願い叶えてやろう。ビビデ・バビデ・フウ」

老人は杖を取り出して謎の呪文を唱える。

ボンという音が響き、シンは軽装の鎧姿に変化する。

顔には目の部分以外を覆い隠すマスク。頭には吸いつくようにキッチリと嵌ったネコミミのついたカチューシャ。

「その姿は今日の午前0時。城の時計が十二時を指すまで解けない魔法じゃ」

「え、どういう…」

「鈍いのう。今日の武闘会に参加させてやろうと言っておるのじゃ」

シンの目が点になる。

物理的な距離的にもあり得ない話である。


「信じるも信じないもお前次第」

「信じますご先祖さま」

即答したシンの目の前が白く染まり、再び視界が戻ってきたとき…

「キャットレディさま。時間です闘技場においでください」

シンは自身の身に何が起こったのか理解した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

遊鷹太
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

処理中です...