58 / 92
50. 2つの断罪
「反省はしています!!」
ずっと無言だったカイラスが突然叫んだ事に、当のカイラス以外の全員が眉をひそめる。
国王陛下が「これ以上の言葉は不要だ」と言ったにも拘わらず、許可なく口を開くなど有り得ない。
「私は言葉は不要だと言ったが?」
「しっ…知らなかったんです! シエルが王弟殿下だということは! 知っていたら大切にしました!」
ぴき…
空気がひび割れた音が聞こえた気がした。
「黙れ!!!」
「…ひっ…!」
いつもは静かで、それでいて場の空気が凍る程に冷めた口調で話すソレイユが、いつになく声を荒げ、カイラスが小さく悲鳴を上げた。
「シエル『様』だ。シエルはもう、お前なんぞが軽々しく名前を呼んでいい存在ではない」
「………。申し訳…ありません…」
「カイラス・ランスター、お前の思い違いを正してやろう。お前が罪に問われているのはシエルが王族だからではない。この国の法律を理解しているか? 我が国の法律では『虐待』は重罪だ。王族も貴族も平民も関係なく、だ。たとえお前が監禁、性的虐待したのが平民の子供であっても、許される事じゃないし、罪の重さは変わらない。貴族や平民はあくまで『身分』であり、平民だからと見下したり、蔑んでいい存在ではない。他国はどうだか知らないが、我がアールグレイス王国ではな」
ただ、やはり平民を見下し蔑む貴族は一定数はいる。平民のΩや子供を誘拐監禁して強制労働させたり、性的奉仕をさせる輩もいて、毎年何人もの逮捕者が出る。家族ぐるみで容認している事がほとんどで、その貴族家は当然取り潰し。取り潰しになった貴族家の噂は広がるのが早いが、それでも事件が無くならないのが不思議なくらいだ。
「やはりこれ以上の言葉は不要だな。
カイラス・ランスター、判決を言い渡す。
爵位を侯爵位から男爵位まで降格。資産の半分を没収し、シエル・フォン・アールグレイスへの慰謝料とする。本邸屋敷はそのまま住み続けても構わないが、別邸は取り壊すこと」
「……………」
カイラスの顔がみるみる青ざめていく。
侯爵位から一気に男爵位まで降格され、資産を半分没収される…。カイラスにとってはあまりにも重い処罰に気を失いそうになりながらも、なけなしの気力を振り絞りながら何とか立っていた。
反論したくとも、自分より高位のアルファ3人の圧が強く、萎縮して何も言えなかった。
そんなカイラスに、更に続くソレイユの言葉がトドメを刺す。
「王命により、カイラス・ランスターと現在の恋人の女性の婚姻を命じ、婚姻後は離縁を禁じる。なお、一切の反論は認めない」
「……………」
最後まで判決を聞いたカイラスは、立ったままでうなだれた。カイラス自身は、シエルと婚姻が出来なくとも、恋人とは別れるつもりだった。ちゃんと貴族の妻を娶り、王家に忠誠を誓い、どんなに時間が掛かっても信頼を取り戻す覚悟を決めていたのに…。
王命での平民の恋人との婚姻。そして愚かな男は気付く。自分が男爵位まで落とされたのは、平民と結婚させるつもりだからなのだ、と。
カイラスはもう何も言わなかった。反論は認めないと言われたのに拒否の意をわずかでも口にすれば、更に陛下の怒りを買い、平民に落とされるか、処罰が重くなる可能性があると思った。
ソレイユは廊下で控えていた騎士団長を呼び、カイラスを屋敷まで送るよう命じた。騎士団長と副団長に両脇を抱えられるようにしてカイラスが退室すると、今までカイラスが立っていた場所にトリトン伯爵を立たせた。
「言っておきたい事はあるか」
「いいえ。ありません」
背筋を伸ばしてはっきりとした伯爵の口調から、言い訳など一切しない。どんなに厳しい処罰が下っても全て受け入れる。という意思が窺える。
トリトン伯爵邸にわざわざ足を運んでまで話を聞いた時、伯爵の言い分は全くもって理解出来るものではなかったが、伯爵や使用人のシエルへの赦されない態度の根幹には、彼の妻…伯爵夫人の存在が大きく影響を与えていた事が分かった。伯爵自身がシエルを嫌悪していたわけではない事も。
だが、それが今更なんだというのだろうか。
ソレイユは一度深く息を吐いた。
そしてまずは、『シエルの言葉』として、シエルの義弟ジェイクへの思いを話す。
シエルにとって、血の繋がりがない事を知ってもなお、ジェイクは可愛い弟だということ。ジェイクだけがシエルの存在を認めてくれていたこと。ジェイクだけがシエルは兄だと…家族だと言ってくれたこと。触れることも話すことも出来なくなっても、遠目に目が合うたびに見せてくれる笑顔に救われていたこと。そして、ジェイクが両親の罪に連座する事がないよう…ジェイクの将来を守ってほしい、とソレイユに『お願い』したこと…。
「トリトン伯爵、及び、夫人の判決を言い渡す。
トリトン伯爵家当主と伯爵領領主の座を嫡男ジェイクに譲り、夫妻には領地にて蟄居を命じる。また、嫡男ジェイクは未成年である為、ジェイクが18歳になり学園を卒業するまでは伯爵邸、伯爵領は王家預かりとし、王家が派遣する文官らに管理させるものとする。なお、今後、夫妻の社交の場への参加は一切禁止とする。以上だ」
判決を聞いた伯爵は深く頭を下げたー。
あなたにおすすめの小説
公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
【完結】第三王子、ただいま輸送中。理由は多分、大臣です
ナポ
BL
ラクス王子、目覚めたら馬車の中。
理由は不明、手紙一通とパン一個。
どうやら「王宮の空気を乱したため、左遷」だそうです。
そんな理由でいいのか!?
でもなぜか辺境での暮らしが思いのほか快適!
自由だし、食事は美味しいし、うるさい兄たちもいない!
……と思いきや、襲撃事件に巻き込まれたり、何かの教祖にされたり、ドタバタと騒がしい!!
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます
水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。
家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。
絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。
「大丈夫だ。俺がいる」
彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。
これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。
無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!
【完結】Restartー僕は異世界で人生をやり直すー
エウラ
BL
───僕の人生、最悪だった。
生まれた家は名家で資産家。でも跡取りが僕だけだったから厳しく育てられ、教育係という名の監視がついて一日中気が休まることはない。
それでも唯々諾々と家のために従った。
そんなある日、母が病気で亡くなって直ぐに父が後妻と子供を連れて来た。僕より一つ下の少年だった。
父はその子を跡取りに決め、僕は捨てられた。
ヤケになって家を飛び出した先に知らない森が見えて・・・。
僕はこの世界で人生を再始動(リスタート)する事にした。
不定期更新です。
以前少し投稿したものを設定変更しました。
ジャンルを恋愛からBLに変更しました。
また後で変更とかあるかも。
完結しました。