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51. 国王ソレイユの考え①
「これで良かったのですか?」
会議室での判決の言い渡しを終え、最後まで悪あがきをしていたカイラスと違い、潔く判決を受け入れて自らの足でトリトン伯爵が帰って行った後、それぞれに会議室を後にするレスティア公爵とルシアンを見送り、ソレイユはウォルトとともに、自分の執務室に戻って来た。
そして、ソレイユが椅子に座るのを待ってからウォルトが言ったのが、先の言葉である。
「どちらの処罰についてだい?」
「どちらも…でしょうか」
「どちらも…か…」
ソレイユは机の上に両肘をつき、組んだ手の上に顎を乗せ、やや顔を伏せる。
(…これで良かったのか…か…)
内心で独り言ちながら顔を上げると、ウォルトがじっとソレイユを見ていた。
「その問いには、良かった、と答えるしかないなぁ。まだ未熟な若造ではあるが、私は一応国王なんでね。自分の決断や発言には責任を持たないとな」
「………。出過ぎた事を申しました」
「いいよ。ウォルトの言いたい事は分かるから。
でも…。ここだけの話だ。王ではない『私』としての本音を言えば…」
シエルに対して不当な扱いをしたトリトン伯爵夫妻とカイラスを…特に汚い体で幼いシエルの清らかな体を暴いたカイラスを、再起不能なまでに追い詰めてやりたい。私怨で裁いてもいいのなら、奴らを決して赦しはしない。死ぬまで苦しめてやりたい。
16年前に側妃セレス様と一緒に亡くなったとされていた異母弟。その異母弟が生きていた。その事実を知った時、ソレイユは歓喜した。今更異母兄だと名乗り出るつもりはなかったが、それでも一目でいいから顔が見たいと思い、調査を依頼した。トリトン伯爵家に引き取られた事は分かっていたが、それ以外は何も分からなかったから。元気に…幸せでいてくれるなら…。それだけでも知ることが出来たなら、遠目に一目顔を見られればいい…と…。
そう思っていたソレイユに届けられた調査報告書には…。
ソレイユは決めた。シエルを取り戻す事を。要らないのなら返してもらう。
だが、伯爵家には既にシエルはいなかったー。
「……………」
シエルが生きていた事を知ってからの2ヶ月は、理性と衝動の狭間で戦う日々だった。調査報告書からは知り得なかった事実が明らかになる度に、徐々に気持ちは衝動の方に傾いていった。
けれど…。
国王として自分が、理性を失わせてはくれかった。『兄』としての自分はシエルを傷付けた人間を八つ裂きにしてやりたいくらいだが、『王』として正しい裁きをしなければならない。
「ウォルト、君はどう思う?」
ソレイユが、変わらずこちらを見ている侍従にただそう訊けば、多くを説明せずとも意図を理解したウォルトが口を開く。
「陛下の決断に異を唱えるつもりはありません。ただ、何故だろう?と少々疑問には思いました。法を犯した彼らの家を取り潰しにしなかったのは何故か、と。これまではそうしていたのに、と」
「そうだね。確かにそれも考えたが…。
ウォルト、カイラスにとってはどちらがより辛いと思う?」
「どちら…でしょうか…」
いつもはソレイユの問いに淡々と答えるウォルトが、珍しく首を傾げる様を見つめながら、ソレイユが自身の考えを語った。
「カイラスの愛人は恐らく、カイラス自身ではなくカイラスの…侯爵家の資産に惚れているのだと思った。出会ったばかりの頃はカイラス自身に惹かれたのかもしれないが、侯爵家に住み始め贅沢を覚えた。今更、カイラスと出会う前の生活には戻れないだろう。
で、だが、カイラスを平民に落とせば女はさっさとカイラスを見限り新たな寄生先を見つけるだろう、と私は推察した。カイラスは平民の恋人の存在を隠してはいなかったが、社交の場へは同伴していなかったらしく、貴族の間で女の顔や名前を知る者は少ない。年はそこそこいってるが、見目だけは良いし、Ωだ。愛人としてなら囲いたいと思う貴族はすぐ見つかるだろうな」
「確かにそうかもしれません」
「そして、カイラスだ。奴も見目だけは良いからな。貴族としての生き方しか知らないゆえに、自身も平民になったとはいえ平民に混ざって汗水垂らして働くよりも、いずれは自身の恵まれた容姿を利用して、自ら金のある商家の女性か、貴族女性に囲われる生活に身を投じるだろうな。矜持も何もあったものではないが、ああいう男は最後には楽して生きる道を選ぶ。さっきは推察と言ったけれど、私は確信を持てるよ」
そこまで言ったソレイユの周りの…いや、執務室内の温度が下がったのを、ウォルトは本能で悟った。
「赦せると思うか…?」
ソレイユの声のトーンが低くなる。間違いなく、怒気を孕んでいた。
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✻いつも拙作を読んで下さり、ありがとうございます。お気に入り登録、いいね!、エールもありがとうございます。日々の励みにしております。
✻今後の物語の進行について。
あと4話ほど、断罪その後のお話が続きます。
その後はちゃんとシエルとアーシャ中心のお話に戻り、ハッピーエンドまで駆け抜ける所存ですので、完結までよろしくお願いします😊
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