【完結】僕の『アーシャ』〜小さな希望〜

Kanade

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53. ランスター男爵夫妻の末路


「は…? どういう事? 王命で結婚? 誰と誰が?」
  
  城で判決を言い渡され、騎士に連行されるように屋敷に帰宅したカイラスは、恋人レインに国王陛下の口から自分達に言い渡された判決の内容を説明した。が、理解出来なかったのか、はたまた脳が理解する事を拒否しているのか、レインは訊き返してきた。

が、だ」
「なっ…なんでっ…!?」
「だから、王命だからだよ」
「だっ…だから、どうして王様に結婚を決められなくちゃいけないのっ?」
「それが罰だからだよ!」

  イライラするカイラス。と同時に、自分が女はここまで物分かりが悪かっただろうか…とも思った。

「罰って何よ!? 私には関係ないじゃない! その王弟…だっけ?を偽装結婚の相手に選んだのも、別邸に閉じ込めたのも、発情期に犯したのも! 全部、貴方がやったんじゃない!」
「~~~!  ああ、そうだよ! けどな! お前はシエル…様の存在を知っていた! 知っていながら本邸から出て行かなかった! 本当なら婚約者や妻に使うはずの侯爵家の金を、当たり前のように使った! それだって罪になるんだ!」
「なっ…! 貴方が使っていい…って…!」
「言ったな。確かに言ったがな。俺の責任は重いが、シエル様の存在を知りながら本邸でわが物顔で暮らし、法的には侯爵家とは何のつながりも持たないのに侯爵家の資産を使った時点で、共犯者だ。使わない選択も出来たんだからな」
「……………」

  少しは事の重大さを理解したのか、黙るレイン。今更気づいても遅い。

「いいか。もう一度言うから、よく聞け。
  侯爵家の資産の半分は没収されてシエル様の慰謝料に取られる。この屋敷は取られなかったが、別邸は取り壊しを命じられた。そして、俺は男爵位まで降格。お前との結婚は王命だ。離縁する事は許されない。もし王命に背けば、更に重い罰を課せられるだろう。仕事までは取られなかったが、侯爵と男爵では収入は雲泥の差だ。つまり、お前がこれまで享受してきたような贅沢は出来ない。それでもお前は俺の妻でいるしかない。俺達はどんなに生活や互いに不満を抱いても、死ぬまで一緒にいるしかないんだよ。
  それが俺とお前に与えられた罰だ」
「…そんな…」

  レインはその場に崩折れた。

「……………」

  ドレスが皺になるのにも構わず床に座り込んだレインを、ただ無表情で見つめるカイラス。

  カイラスは気付いていた。シエルを迎え入れる前から、レインがカイラスよりも侯爵という肩書とその資産に惚れていたのだということを。贅沢さえさせてくれるのなら、相手は誰でもいい。その為ならば、愛はなくても簡単に体を差し出す女だということを。それでも彼女を手放せなかった…手放さなかったあの頃の自分を殴りたい。今にして思えば、自分が本当にレインを愛していたのかさえ疑わしい。きっと長く一緒にいすぎたのだろう。情が沸きすぎていたのだと思う。それを愛だと錯覚していたのかもしれない。
  あの頃、レインと別れてシエルを尊重していれば…。大切にしていれば…。それ以前に、貴族家のΩを子を産ませるだけの妻にしようなどと、愚かな考えを抱かなければ…。
  なぜ判決を言い渡されるまで、自分は悪い事などしていないと、大した罪ではないだろうと思っていられたのだろうか。
  後悔しかない。
  自分はこれから先をレインを妻として生きていくしかない。離縁出来ないから、新たな妻を迎える事も出来ない。子を持つ事は禁じられなかったが、レインは子を産むつもりはないと言っていたし、たとえ彼女が産む気になってくれたとしても、カイラス自身が彼女との子は欲しくないと思ってしまっている。平民だからではない。彼女レインだからだ。
  今はもう、目の前で茫然と座り込むレインを見ても、苛立ちしか感じない。いっそ、この女と出会わなければ…と思うほどに。
  けれど、カイラスとレインは夫婦になるしか道はないのだ。
    

 翌日早く、王の侍従のウォルトが、尋問と親子鑑定の場にも同席していた神官長を伴い、ランスター邸にやって来た。証人欄に国王陛下の署名と捺印済みの『婚姻届』を持って。
  震える手でペンを持ち、カイラスとレインはそれぞれの欄に署名した。罪人達の王命による結婚。祝福など受けられない。神官長はただ見届人、そして正しく受理する為に同行しただけだった。

  こうして夫婦になった2人。 
  男爵になってカイラスが初めにしたのは人員整理。残された資産と男爵位では、大勢いる使用人全員の給金は賄えない。年若い者、雇って日が浅い者から順に半分を解雇した。
  そうして新たな生活を始めたのだが…。
  取り上げられなかった屋敷は、維持費を捻出する事が難しくなり、結局、3ヶ月程で手放し、王都の端にふた周りほど小さな屋敷を購入し、そこに移った。その時に更に使用人を減らし、各分野の古参の使用人数名だけを残した。
  余談ではあるが、ソレイユはランスター邸に密かに監視を付けていた。だが、彼らが王都の端に移ったのと同時に監視を終了している。

  住む場所を移して始まった生活。 
  カイラスは仕事に没頭し、レインは以前の屋敷にいた時から引き続きの引き籠り生活。互いに他で発散させる事の出来ない欲を発散する為に、避妊を徹底して時々閨を共にするが、会話も少なく、冷え切った夫婦生活。互いに相手への関心を無くしていた。
  だから、カイラスが気付いた時には遅かった。
  結婚半年が過ぎた頃から少しずつ外に出るようになったレインが、闇金から借金をしている事に。外出する彼女に同行する使用人も護衛もいないのをいいことに、以前のような贅沢が忘れられなくて、カイラスに内緒で金を用意しようとしたのだ。だが、まともな所が当主の許可も担保もなく男爵夫人如きに貸してくれる訳がない。闇金以外は。
  カイラスが把握した時には、最初に借りてから既に数ヶ月が経っており、法外な利息で借金は膨れ上がり、男爵家の全てを失っても返しきれないほどになっていた。レイン個人の名義の借金。離縁すればカイラスに支払い義務はないが、王命で離縁は出来ない。
  毎日屋敷に押しかけてくる借金取り。カイラスの職場までくる為、カイラスは解雇されて職を失った。
  そして…。

  ある日を境に、男爵家から人が消えた。カイラスとレインだけではなく、使用人でさえも…。
  夜逃げした、とも、借金取りに捕まって売り飛ばされた、とも噂されるが、真相は分からない。
  
  以降、彼らの姿を見た者はいないー。


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