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25. 終わりにしましょう
〈 玲視点 〉
「………。そうですか…」
そう応えるしかなかった。
そうでなければいい…と思った。
俺の自惚れや勘違いだと笑い飛ばす事が出来れば、これまで通りでいられると…少しだけ戻って、名前は呼び捨てのままでも、知人…もしくは友人としての関係を再構築出来ると思ったのに…。
暁登さんの答えは、俺が最も望まないものだった。
戸惑いながらも、それでも少しずつ築き上げてきたものが、一瞬にして崩れ去る。
そう。壊れる時は一瞬だ。
再会する前に戻れたら…と叶う筈もない事を思う。
もし戻れたのなら、関わる事を皆無には出来なくても、ここまで深く付き合ったりはしなかったのに…。
「玲…?」
暁登さんが、俺を見ている。
俺の応えが彼の予想していたものとは違ったからか、その顔には戸惑いが窺えた。
でも、俺は貴方の望む『応え』はあげない。
絶対に。
「もう、俺達と貴方の交流は終わりにしましょう」
自分でも驚く程に冷静に言葉が出た。
「え……。終わり…? ど…どういう……」
珍しく暁登さんが冷静さを失っているのが判る。
俺からの告白の返事どころか、まさかの絶縁宣言に。
「俺達は…いえ、俺はもう、貴方と一緒に過ごす事は出来ない。貴方と同じ気持ちを返す事は出来ませんから…」
「っ! そんなことっ…!
返さなくていい。 君と恋人になれなくても構わない。今のままでいいんだ。君と…君達と一緒に過ごせるだけで俺はっ…」
「俺が駄目なんです! 俺が…。
想いを返せないのに、自分の事を好きな相手と一緒に過ごすなんて…。
貴方が奏音の事を可愛がってくれる気持ちに嘘はない事は解ってるんです。でも、そこにほんの一欠片でも俺に近付く為の口実があるのなら…」
「…それ…は…」
言い淀む彼の様子から、あながち間違った指摘ではないんだろう。実際、彼がどこまでを望んで俺達の傍にいたかは判らないけれど…。
「近過ぎたんです。最初から距離感がおかしかった。家族とだって、友達とだって、日帰りとはいえ毎週末に遠出なんてしません。しかも、貴方は先に奏音と約束する事で俺が断れないようにした。俺が気付いていないと思っていましたか? そうやって貴方は少しずつ俺達の懐に入り込んだ。俺がインフルエンザに罹った時、俺は貴方がいてくれて良かったと本当に感謝しました。けれど、貴方は何を勘違いしたのか、その後からぐいぐい踏み込んでくるようになった。身内でも友人でもないのに、アポ無しで夜に訪ねて来ますか? 正月を一緒に過ごしますか? いえ、身内や友人だって常識人なら事前に連絡はします。今日の事だって、俺は貴方が来る事を了承した覚えはありません。俺が「はい?」と曖昧に言ったのがいけないのだとしても、その後は何も言っていないのに、貴方が了承と受け取っただけです」
言葉を紡ぎながら、胸はちりちりと痛んだ。
本当はこんな酷い事、たとえ事実だとしても言いたくはなかった。けれど、突き放す為に言った。遠回しに貴方は非常識だと…。
「……………」
「こうなる前にちゃんと話をして、正しい距離感で互いに無理のない範囲で交流するべきでした。気付いていながら貴方に言わなかった俺も悪いので、貴方ばかりを責められません。でも、今更です。貴方の気持ちを知った今、無かったことにして常識的な範囲での付き合いを…なんて無理です。友人にはなれません…」
「あと1回…」
「…え…?」
「あと1回だけ、次の日曜日に一緒に過ごしてくれないだろうか…。奏音が楽しみにしてくれているなら…。
奏音と帰り際の約束はしない」
それは懇願だった。大の大人だ。泣いてはいないけれど、俺の目を見る彼の瞳は揺れていた。
ああ…。きっと俺は彼を傷付けた…。
「分かりました。奏音は楽しみにしてますから。
でも、本当に最後です。その日が終わったら、プライベートの連絡先は消します。また会社で会う事もあるでしょうけれど、その時はただの知り合いです」
「……………。解った……」
逡巡してから頷く暁登さんを見つめながら、俺は傷付けた彼の『心』から目を背けたー。
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