26 / 56
26. 俺は見限られた…
〈 暁登視点 〉
「もう、俺達と貴方の交流は終わりにしましょう」
何を言われたのか、解らなかった。いや、理解するのを脳が拒否したのか…。
そして、玲の口から出たその言葉の意味を理解した時、頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
ただ、確認だと言って訊かれたから「好きだよ」と答えたつもりだった。訊かれるという事は少なからず玲にも俺を想う気持ちがあるのかと思ったし、嘘は吐きたくはなかった。
それなのに……。
突然の『絶縁宣言』に頭の中が真っ白になった。
玲は「同じ気持ちを返せないから」と言った。
そんな事は望んでない。奏音の存在を知る前は「恋人になりたい」と思っていたけれど、君達と過ごす日々に満たされる現在は、このままで良いんだ。君達の傍にいられたら…。
そんな俺の思いも、
「俺が駄目なんです!」
と、玲が叫ぶように言った言葉に掻き消された。
俺の気持ちを知ったからには、何も無かったかのように一緒にはいられない、と。
玲の言葉が俺を糾弾する。
距離感がおかしいー。
奏音を口実にしたー。
身内でも友人でもないー。
『非常識』ーー。
俺は返す言葉を失っていた。
そうか…。
そんな風に見えたのか……。
きっと俺はいきなり距離を詰め過ぎたのだろう。2ヶ月もの間、もう一度会いたいと思い続けた相手に再会し、何故か奏音が懐いてくれたのを好機と捉え、連絡先を交換し、奏音を経由して頻繁に会う口実を作った。奏音が可愛くて、奏音が楽しんでくれるなら…という気持ちは嘘じゃなくても、そこに下心が全く無かったとは言えない。奏音を口実に…というのも確かにその通りだった。
身内でも友人でもない…は確かにそうだ。どうやら俺は、友人に格上げにはなっていなかったらしい。親しい知人止まりだったのだろう。病気になった玲を看病し、奏音の世話をする為に泊まり込んだ5日間。同じ屋根の下で生活した事で、ぐっと距離が近付いたと思ったのは俺だけ。よくよく思い出してみれば、玲は初めは俺が泊まり込む事を渋っていた。瀬尾くんを巻き込んで、高熱で判断力が鈍っている玲に拒否権を与えず了承させたのだ。
その後は…。
遠回しに「貴方は非常識人だ」と言われ、自分が如何に礼儀知らずな事をしたか、自覚させられた。常識のある大人なら緊急時でもない限り、人を訪ねる時は連絡をして相手の都合を訊くものだ。たとえ友人宅であっても。連絡無しで突撃して許されるのは実家くらいだろう。正月早々の訪問にしてもそうだ。家族以外で共に過ごすのは恋人か、特に親しくしている友人くらいだろう。俺は友人くらいには思われていると思っていたが、彼にとっての俺は、親しくしていても『知人』。しかも俺は早合点し、玲の都合を確認せずに…。
いつ、玲が俺の気持ちに気付いたのかは判らないが、知人だと思っている相手の近過ぎる距離に違和感を覚えたとて不思議ではない。それでも確信が持てないままここまできたが、今回の俺の無遠慮な行動が彼の違和感を膨らませ、俺の答えで確信に変わり、我慢の限界を超えたのだろう。
俺は彼に見限られたのだ。
もう穏やかに笑顔で楽しく過ごしたあの日々には戻れないのだろう。
戻れないのなら…。
「あと1回…」
あと1回、既に奏音と交わしている約束だけは果たさせてほしい…とお願いした。次の約束はしないから…と。
玲は了承してくれた。楽しみにしている奏音をがっかりさせたくないから…というのが彼の理由。
その日が終わったら「連絡先は消す」と言われた。もう連絡は取らないという意味だ。「会社で会ってもただの知り合い」とも言われ、もうプライベートでは欠片も関わる気はないのだと…。
それでも、頷く以外の選択肢は、俺にはないー。
ーーーーーーーーーーーーーーー
そして『最後の日』ー。
いつもは夕食を外食で済ませた後は店の前で別れるのだが、珍しく奏音が寝てしまった為、自宅まで送らせてもらう事にした。最後だからか、いつもは固辞する玲も「お願いします」と言ってくれた。
自宅近くまで送り、抱っこしていた寝ている奏音を玲の腕に返す。荷物があるから家の前まで送る、と申し出たが、それは却下された。
「今までありがとうございました」と頭を下げてから、落とさないようにしっかりと奏音を抱いたまま去って行く玲の背中が見えなくなるまで…いや、見えなくなってからも、俺はその場に佇んでいたー。
~~~~~~~~~~~~~~~
☆補足
玲も暁登も車を運転出来ますが、お出掛けは常に電車、もしくはバスでした。理由は、奏音が電車とバスが好きだから。玲の自宅の最寄り駅で待ち合わせして出掛けていました。
あなたにおすすめの小説
君の恋人
risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。
伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。
もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。
不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。
下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。
文章がおかしな所があったので修正しました。
大国の第一王子・αのジスランは、小国の王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。
ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄をするから受け入れてほしいと言われる。
理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、
「必ず僕の国を滅ぼして」
それだけ言い、去っていった。
社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。
あなたの愛したご令嬢は俺なんです
久野字
BL
「愛しい令息と結ばれたい。お前の家を金銭援助するからなんとかしろ」
没落寸前の家を救うため、強制的な契約を結ばれたアディル。一年限りで自分の体が令嬢に変わる秘薬を飲まされた彼は、無事に令息と思いを通じ合わせることに成功するが……