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28. 見守るしかない
しおりを挟む〈 秘書視点 〉
「鹿嶋社長、少し休憩されてはいかがですか?」
この1ヶ月、毎日何度同じ事を言ったか分からない。
僕は鹿嶋社長の専属秘書だ。
彼とは小学校入学当時からの幼馴染みでもある僕は、中学校、高校、大学と、腐れ縁のように同じ学校に通い、ほぼ同じことを学び、現在彼が社長を務めている会社(当時の社長は彼の父親で現会長)に経験を積む為に新卒の平社員として入社した時も一緒。まあ、大学に入ってからは自分の意思で彼と同じ道を選んだのだけれど。
その彼の社長就任時に、彼に指名される形で専属秘書になった。
プライベートではもっと砕けた話し方するけれど、今は職場で、仕事中だから、秘書のそれである。
で、その鹿嶋 暁登社長だけれど、この1ヶ月はずっと、こんな様子だった。
どんな様子かというと…。
一言で表すならばワーカーホリック。
この会社は設立当初からホワイトな会社である。
週休2日制、残業や休日出勤は推奨しない。残業するなら就業時間までに、休日出勤するするなら前日までの申請が必要。産休、育休推奨。休憩時間も昼1時間と午後に30分。大企業だけれど、社訓の一つに『社員は宝』というのがあるくらい、社員にとっては高待遇。当然、社長も社の一員…つまり社員なのだから、例外ではない。
それがこの1ヶ月、まるで何かに取り憑かれたように働き詰めなのだ。それまでは相手の都合上どうしても土日でなければならない時以外は平日に入れていた会合や会食も、週末に入れる…本来は休息日である週末も敢えて仕事をする…のである。
外回りも在社している時も、加えて残業や休日出勤に至るまで…。相手が部下なら上司が注意すればいいのだけれど、社長は社のトップ。それを出来る人はいない。だから、社長の体調管理も秘書の仕事!と僕が何度も休憩はしっかり取るように進言しているのに、返事もどこか上の空で、聞いてくれない。
とにかく、仕事仕事仕事……。
しっかりと設定されている休憩時間にも、食事もそこそこに資料を見ている有様。何かに取り憑かれている…というより、忘れる為…考えないようにする為に、仕事で気を紛らわせようとしている。
その理由を僕は知っている。知っているからこそ気持ちは解らなくもないけれど、このままでは遠からず体を壊してしまう。専属秘書として、それは看過出来ない。
「社長、休憩にしましょう」
今度は少しきつめに言ってみたけれど…。
「お前は休憩に行って来ていいぞ」
資料から顔を上げる事なく言われ……。
「……………」
内心で溜め息を吐いた僕………。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「また今日も駄目だったよ…」
今日は金曜日。
仕事を終えて、週末を恋人と過ごす為に訪れた恋人の家で恋人が用意してくれた夕食を食べながら、溜め息とともに呟いた僕…。
「お疲れ様だったなぁ」
恋人が労いの言葉を掛けてくれるけれど…。
「ねえ、これ、いつまで続くの?」
「いつまで…って言われてもなぁ…」
目の前の恋人も困り顔。
僕が自社の社長の事なのに恋人に話しているのには、ちゃんと理由がある。
恋人の名前は瀬尾 佑真。アキ(鹿嶋暁登をプライベートではそう呼ぶ)の現状は、佑真の高校の後輩であり現在は佑真の会社の社員だという子持ちの青年との関係が拗れた結果だからだ。ようするに、アキがフラれたという…。半年以上、幸せそうなアキの様子を見て、彼がどれだけ相手に本気だったか解る。だけど、相手はそうではなかったという事。恋愛ではそういう事は珍しくないけれど…。
「どちらが悪いという訳でも…。いや、どちらも悪い…のか?」
「う~ん、悪いとか悪くないとかの問題じゃなくない? 佑真の話を聞く限り、アキは告白した訳じゃないんだよね?」
「ああ。まだ口説くつもりはないって言ってたな。3人で過ごすのが楽しいってな」
「でもアキ、フラれたって言ってたけど…」
「多分、バレたんだろうな。どういう経緯でかは判らんけど」
「早急に距離を詰め過ぎたっても言ってた」
「そりゃあ、あんだけ毎週末誘ってればなぁ。智央から見てどうだった?」
「毎日が楽しそうだったかな。何か、次何処に行こうかって、休憩時間はいつも調べてたよ」
「「……………」」
そんな会話を交わし……。
「「…はぁ……」」
僕達は顔を見合わせて同時に溜め息を吐いた。
こんなのは当人同士の問題だとは解っているけれど、今のアキを見ていると放って置くわけにも…。
そう思っても、結局、自分達に出来る事は何もないのだな…と改めて思った僕と佑真だったー。
「「…はぁ~~~……」」
(同時の溜め息2回目、深いやつ)
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