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32. もしも真実なら…
〈 暁登視点 〉
休日である今日、休息日…ではあるが、自宅で、持ち帰った仕事をしていた俺。
玲に決別を告げられてから、俺は後悔を引き摺りながら、仕事に没頭する事で胸と日常にぽっかりと開いた穴を埋めていた。俺の体を心配する秘書に「せめて休息日くらいは体を休めてください」と再三言われたが、耳を塞いだ。しかしよくよく考えれば、社長である俺が休まなければ、専属秘書である彼も休めないじゃないか。という理由から、今日は自宅にいる。そして、在宅ワークをしている。仕事を持ち帰る事については、秘書は何も言わなかった。本当は物申したかったのだろうが、取り敢えず出社せずに家にいてくれさえすればいいと、無理やり自分を納得させてくれたのだろうと思う。
秘書には申し訳ないが、仕事に集中すればするほど、余計な事を考えなくてすむ。仕事に逃げているだけなのは解っているが、それしか方法が見つからない。彼らを忘れる為の…。
ああ、本当に思春期の少年のようだと自嘲する。
30歳を過ぎて初めて知る本気の恋は、フラれた今、本当に厄介だ…。
溜め息を吐きながら、コーヒーでも淹れようと立ち上がった時、不意にテーブルの上に置かれたスマホが鳴った。相手の名前を確認して出る。
瀬尾くんからだった。
『お休みのところ、すみません。
奏音がいなくなりました』
スマホを落としそうになり、慌てて持ち直す。
奏音がいなくなった?
久し振りに名前を聞いたと同時に告げられた言葉に、衝撃を受けるも、放心している場合ではない、と詳しく事情を訊く。
奏音がいなくなったと思われる時間、いない事に気付いた時の状況、思い付く限りの場所を捜したが見つからずに途方にくれた玲から、瀬尾くんにヘルプの電話が掛かってきたこと。
『俺も今から捜しに出ますけど、鹿嶋さんももし奏音が行きそうな場所に心当たりがあれば、一緒に捜してもらえませんか?』
もちろん俺に否やはない。心当たりと言われても思い付かないが、即刻捜しに出る事を伝えて電話を切り、玄関で車の鍵を手にしたところで、再びスマホが着信を報せる。瀬尾くんだと思い相手を確認せずに出たが、瀬尾くんではなかった。
相手は、○○駅の駅長だと名乗った。その駅は、玲達父子の自宅アパートの最寄り駅で、出掛ける時の待ち合わせ場所だった。
そこの駅長が何故?と思ったが、俺が理由を訊くより早く『はづきかなとという4歳の男の子を保護しているのですが…』と言われた。もし本当に奏音なら、どうして父親の玲ではなく俺に電話が?と訊くと、保護した子供はパパの名前は言えるものの携帯の電話番号は知らず、下げていたポシェットの中にお菓子と一緒に入っていたのが俺の『おめいし』だったという。そういえば、ずっと前、玲にプライベートの番号を書いて渡していた名刺を奏音が見つけ、「かなもおめいしほしいの」って言われて四角く切った紙に俺の名前を平仮名で書き、スマホの番号を書いて渡していた事を思い出す。「かなのたからもの!」と大事そうにポシェットに入れている姿に感動した。
それをずっと大事に持っててくれたのか…。
「知人の子供です」と告げれば、俺の身分証明が出来るものを持って来るよう言われたため、運転免許証の他に何が必要か考え、一度室内に戻り名刺入れを持って、奏音が保護されているという駅に向かった。
途中で瀬尾くんに電話して簡潔に説明だけしておく。
「奏音!」
「あっ! あきちゃん!」
子供は間違いなく奏音だった。俺を見つけて駆け寄って来た奏音を抱き上げる。
「奏音、どうして此処に…」
「あのねっ、パパがねっ、パパがっ…パパ……」
奏音の目元に涙が浮かぶ。
「…パパ……。ふぇ…えっ…パパぁ……」
泣き出した奏音をあやすように小さな背中を撫でる。
何故奏音が1人で此処まで来たのかは判らないが、急にパパがいなくて心細くなったのかも知れない。
駅長だという人に免許証と名刺を見せ、自分の身元を証明する。自分で言うのもなんだが、大手IT企業の社長である事であっさり身分は証明出来、奏音の懐いている様子から確かに親しい間柄である事も信じてもらえて、無事、奏音を引き取る事が出来た。
瀬尾くんに奏音をこれから玲の所に送ると連絡し、近くの有料駐車場に停めている車はそのままに、奏音を抱っこしたまま玲の待つアパートに帰る。
その道すがら、どうして1人で家を出たのか理由を訊いてみる。すると、意外な理由が…。
「パパがね、ねんねしながらゆってたの。あきちゃんにあいたい、って。パパ、ないてたの。だから、かなね、あきちゃんをつれてきたら、パパ、げんきになるかなっておもったの」
もし…もしも奏音の言葉が真実なら……。
幾ら賢いとはいえ、まだ4歳。全てを鵜呑みにしてはいけないと思いながら、それでも、もし玲が本当にそう思ってくれるのなら……。
10分程でアパートに到着した。
アパートの前に座り込むパパを見つけた途端、
「パパっ!!」
奏音が叫ぶように呼ぶ。
奏音の声で此方を向いた玲が立ち上がる。奏音を見て安堵の表情を浮かべた玲。俺が見つけた事は瀬尾くんから聞いていたのか、奏音を見つめた後に俺を見る目からは、驚いた様子は窺えないー。
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