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37. もしも許されるなら…
〈 暁登視点 〉
「俺は上手く隠せていると思っていた。知らずそう匂わせるような態度を取ってしまっていたのだろうか…」
俺の言葉に玲は首を横に振った。
「いいえ。貴方からそういう視線や言動を感じた事はないです。ただ、不自然さを感じたんです」
「不自然さ?」
「はい。貴方が本心から奏音を可愛がってくれているのは疑っていません。俺達を大切に思ってくれているのも本当でしょう。でも、『あの日』も言ったけれど、知人や友人の距離感じゃないんです。貴方は独身です。家族ぐるみの付き合いとは言えません。奏音だけが目当てだとは考え難く、俺との友人関係を望んでいるにしても距離が近過ぎる。もしかしたら…と思ったのが切っ掛けです。初めは自惚れ過ぎだな…と思いましたけれど、もし俺に特別な感情を抱いて俺達の家庭に入ろうとしているのなら…と、考え出したら落ち着かなくなりました…」
「……………」
玲の慧眼に脱帽する。皮肉ではなく、本当にそう思う。
距離感が近いー。
言い訳させてもらえれば、この歳で恥ずかしい限りだが、指摘されるまで気が付かなかった。学生時代の数える程の交際経験がどれも相手からの告白によるもので、自分から近付きたいと思ったのは、玲が初めてだったのだ。
玲に決別宣言されて落ち込んでいる時、「仕事にならないから悩みがあるなら話せ」と秘書に言われて話した時、
『それは…引きますね…。やり過ぎ。学生の頃はぐいぐい行くのも有りかも知れませんが、その歳で、しかも相手には子供がいるんですよ? 子供を理由にして距離感を誤れば、余程鈍くなければ気付きますし、子供が大切だからこそ子供を口実にされれば、いい気はしないでしょう。怒って当たり前です。そんな状態で何故、受け入れてもらえると思ったのか…』
と、耳に痛い辛辣な言葉を俺にぶつけながら額を押さえていた。頭が痛い…とでもいうように。
内容はプライベートな事なのに、彼の話し方は幼馴染みのそれではなく、完全に秘書としてのものだったのが、何故か怖かった。
俺、社長だけどな……。
「本当にすまない。申し訳なかった。恥ずかしながら、言われて初めて気が付いた。自分が如何に独り善がりだったか…。奏音と約束をするにしても、まずは親である君にお伺いを立ててからすべきだったと思う。奏音と約束すれば余程でない限り君が断る事はないだろう、と思っていたのは確かだ。軽率だった」
俺は頭を下げた。謝って赦されるのなら何度だって頭を下げる。
「それは…そうですね。奏音に約束する前に俺に訊いてほしかったと思います」
玲の言葉に、ゆっくりと頭を上げた。此方を見ていた彼と視線がぶつかる。
「俺は貴方に誘われて3人で出掛ける事はイヤじゃなかった。ただ、どうして先に奏音と決めてしまうのか。俺の都合は訊かず、毎週のように…。ずっと釈然としなかったんです。俺がインフルに罹った時も、病院に連れて行ってくれたり、奏音の世話をしてくれた事には感謝していたけれど、泊まり込む…というのはどう考えてもおかしい。幾ら頻繁に会っているとはいえ、出逢って半年足らずの相手の家に…なんて普通は有り得ない。身内でも、ましてや恋人でもないのに。あの時の俺は正常な判断が出来なくて、結局、佑真先輩の判断と貴方の申し出に縋る形になってしまったけれど、後になって頭を抱えました」
「…本当に…申し訳なかった…」
その時々の事を指摘される度、自分がどれほど非常識だったかを思い知らされる。そんな俺の口から出てくるのは謝罪の言葉だけだ。
「でも…初めは俺目当てで近付いたのだとしても、貴方は奏音を邪魔にする事は一度も無かった。いつも3人一緒で、それがとても自然で、いつしか俺も受け入れていたんだと思います。本当はちゃんと線引きするべきだったのに…」
「玲は悪くない。俺が最初から入り込み過ぎたんだ。本当はもっとちゃんと段階を踏むべきだった。
ただ、これだけは信じてほしい。俺は本当に奏音を邪魔だと思った事はない。何度でも言うが、君達父子と過ごす時間が心地良くて失いたくないと思ったのも。一生この想いを告げる事は出来なくても、この幸せな時間を失うよりはずっといい、と思っていた事も。だから俺は、玲に想いを返せないと言われた時、返さなくていいと言った」
何度も…何度でも…俺は言葉にする。
君達と過ごす時間は『得難い時間』なのだ、と。
許されるのならこの先も、『家族』にはなれなくても、それに近い存在として君達の傍にいさせてほしい、と。
君と『恋情』を交わす事は叶わなくてもーー。
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