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48. 一緒に暮らさないか?②
〈 玲視点 〉
「突然こんな事を言い出して、君を困らせるだけだという事は解っている。恋人になったからとはいえ、次に君の意に沿わない言動をしたら、今度こそもう君達の傍にはいられなくなる、という思いはずっとあった。
君達には君達の生活があり、譲れない…他人には決して踏み込んで欲しくない場所や思いがある事は、重々承知している。俺の願いが容易に受け入れられるものではない事も…」
「……………」
他人……。
何故かその言葉に、胸が軋んだ。
「玲」
「…!!」
呼ばれてはっとした。暁登さんの方を向きながら、その実、意識は別のところに向いていたらしい。
「玲、俺達は男同士だ。この事実は変わらない。
でも…それでも俺は思ってしまったんだ。一つ屋根の下で君達の存在を感じながら暮らしたい。毎日帰る家に君達の存在があったらどんなに幸せか。もしも許されるなら、これから未来も君と一緒にいたい、と。大人になった奏音が巣立った後もずっと…。叶うなら、この生が終わるその瞬間まで…」
「………。…これから未来…」
男同士なのに…?
恋人にはなれても、結婚は出来ないのに…?
生産性のない不毛な関係。口約束だけの、何の保証もない曖昧で不確かな関係…。
そんな関係を貴方は望むの…?
「玲、君を愛してる。奏音を愛してる。君達を一生愛し、守ると誓わせてくれないか。口約束だけでは不安だと言うのなら、婚姻届の代わりに契約書を交わしてもいい」
「…! 契約書だなんて…っ!」
「俺にとっては契約書の一枚や二枚、君達の存在の大きさに比べれば大した事じゃない」
「………。どうして、そこまで…」
果たして自分達父子にそれだけの価値があるのだろうか。暁登さんに一生を捧げてもらえるだけの……。
そんな俺の心の揺れを、暁登さんの言葉が拭い去る。
「君達を愛しているからだ。何度だって言う。信じてもらえるまで何度でも…!」
俺は首を激しく横に振る。
「違うんです。貴方からの『愛』は信じています。疑ったりしません。でも、俺達に貴方が人生を懸ける程の価値はない…」
「それは俺が決める事だ」
「……………」
「価値…などという言葉は使わないでほしい。君達の存在そのものが俺にとっては『至宝』なんだ。
俺の愛は重いだろう? そんな事は自分でも解っている。だが、これは俺の偽りのない本心なんだ。
玲、愛している。君と奏音といつでも触れ合える距離で過ごしたい。一緒に暮らしてほしい」
「……っ……!…」
俺の涙腺が崩壊する。歪んだ視界の向こうに見える暁登さんは、突然泣き出した俺に戸惑い顔をしていた。
「…どうして…そんなこと言うの…? そんなの…嬉しいに決まってる。俺、暁登さんの愛は信じてるのに…未来は信じられなくて…。男同士で…結婚できなくて…俺達の関係の先には何があるんだろう?…って…。俺だって貴方を愛しているのに、貴方との未来の映像が見えなくて…不安で…。
それでも…恋人として触れたくて…。ずっと…傍にいたくて……。奏音が一番大切なのに…それは何があっても絶対なのに…貴方と恋人として過ごしたい…愛したい…愛してほしい…って……」
もう…ぐちゃぐちゃだ…。
こんなタイミングで暁登さんが「一緒に暮らしたい」なんて言うから……。
泣きながら、纏まらない自分の想いを思い付くままに吐き出し、止まらない涙にしゃくり上げる俺を、暁登さんがそっと引き寄せて優しく抱きしめてくれる。ゆっくりと背中を撫でられ、徐々に落ち着いていく…。
リビングで抱きしめられたのは初めてだった。
「俺を愛してるって言ってくれて嬉しい。ありがとう。俺も愛してるよ。
ねえ玲、君の一番は奏音だ。それは絶対で、そうじゃなくなるなんて事は絶対にない。そこは自分を信じて。俺もだよ。俺にとっては玲も奏音も同じくらい大切だが、俺だって少し…ほんの少し奏音を優先する。一番とか二番とかじゃない。奏音が守るべき存在だからだ。俺は玲の事も守ると誓いたいけれど、君は大人で、俺と対等で、ただ守られるだけに甘んじてはいないだろう? 」
「……………」
こくん…
小さく頷く俺。俺だって大人の男だ。ただ黙って守られるだけの存在に成り下がるなんて矜持が許さない。こんな頼りない俺でも、ほんの少しでもいいから大切な人を守れる存在でありたい。
俺は顔を暁登さんの胸に押し付けたまま、彼の諭すように話す柔らかい声に耳だけを傾けていたー。
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