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53. 同居生活の始まり
〈 玲視点 〉
俺の間抜けな話、聞いてくれる?
親としてどうなんだ…という話……。
ご挨拶に暁登さんのご実家に伺った日、ご両親と連絡先を交換していた俺。で、早速3日後の夜、奏音を寝かし付けて一息ついていた時にお母様から電話があった…んだけれども…。
その内容が…ね…。
『奏音ちゃん、来年は小学校入学でしょう? お父さんと話していたのだけれど、私達にランドセル、買わせていただけないかしら』
その言葉に衝撃を受けた俺。「ランドセル…」と小さく呟いた声は、受話口の向こうにも聞こえたらしい。
『あら、もしかしてまだ考えていなかったかしら』
「………。すみません…」
ランドセルどころか、奏音が来年1年生だという事すら失念していたとは言えない…。奏音が先月6歳を迎えたのは当たり前だけれど解っている。けれどまだ6月だからか、考えてすらいなかったというか…。
ほんと、親としてどうなんだ……。
『まだ6月ですもの。考えていなくても仕方ないわ。特に父親は。うちのお父さんもそうだったもの。
でもね、気を悪くしないで聞いてちょうだいね。最近では夏頃からランドセル商戦が始まるらしいの。お孫さんが来年1年生になるお友達に聞いたのだけれど。
玲さん、駄目かしら。せっかく可愛い孫が出来たのですもの。私達から奏音ちゃんにランドセルをプレゼントさせてもらえないかしら』
何となく察したらしいお母様に悲しいフォローをされつつ今一度訊かれた俺は、無難に「暁登さんと相談してみます」と保留にしてもらった。
流石に即答は出来ないもんな。いくら、奏音を実孫のように可愛がってくれているとはいえ…。暁登さんのご両親だし…。
……………。
…もしも俺自身の親だったら、一も二もなく頷いたのだろうか…と、そんな詮無いことを思い、その思いを振り払うように首を横に振ってから、暁登さんに電話を掛け、お母様からの電話の事を話した。
そして…。
気配で判るよ。暁登さんも絶句してること。奏音が来年1年生だっていう事、彼も失念してたんだろうな。だって俺達の間で、そういう話はしたことないもん。
まあ、反省はこれくらいにして、これからちゃんと考えていけばいいよね!
そう俺が言えば、暁登さんも「そうだな」と電話の向こうで同意した。
そしてランドセルのことは…。
『もし玲がイヤじゃなければ、甘えてやってくれないか。一度しか会っていなくても、あの人達が受け入れると決めた瞬間から、奏音は2人にとっては孫なんだ』
暁登さんに言われて気付く。
ご両親は何も言わなかったし訊かなかった。俺に子供がいる事は暁登さんから聞いていて知ってはいても、息子が連れて来た同性の恋人に子供がいれば、それこそ気になる事はたくさんある筈なのに…。ご両親は何も言わず、何も訊かず、ただ温かく迎え、受け入れてくれた。それが彼らの答えなんだろう。
だったら俺は…。
甘えてもいいだろうか…。
暁登さんに言えば、返事は彼がしてくれると言うから、お任せすることにした。
お母様からの思い掛けない気付かせは、俺達の新居探しの一助にもなった。互いに希望する場所を出し合って絞っていく予定だったけれど、その方向性は変わらないけれど、そこに小中学校へのアクセスも加えることが出来たから。
ほんと、現在は便利な世の中だよね。
パソコンやスマホに希望する地域や条件を入力して検索すれば、条件に見合う物件を探してくれるんだからな。そうして、暁登さんと相談しながら候補を絞り、週末には奏音も連れて3人で見学に行き、俺と暁登さんの2人の意見が一致したマンションに決定した。奏音は3人一緒なら何処でも良いらしい。まあ、基本は俺達もそうだけれど、住むからには自分達のライフスタイルに合った所が良いからな。
部屋が決まってしまえば、後は引っ越すだけだ。
部屋探ししている間から少しずつ準備していたから、物件探しから引っ越しまでは2ヶ月も掛からなかった。
表札は『鹿嶋』と『葉月』の二つ。
今のご時世、ご近所付き合いは希薄とはいえ、せめて両隣くらいは…とご挨拶に伺った。挨拶の際に隣人に告げた俺達の関係は『親戚』だ。まだまだ同性愛者に対して差別と偏見が多い世の中。無難な関係性を選んだ。それでも邪推されたら、それはそれ…だけれども。
こうして、俺達の同居生活は幕を開けたー。
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