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54. 恋人、父子、そして…
〈 玲視点 〉
「おばあちゃまはあしがいたいからね。かながてをつないでてあげるね。パパ、ゆっくりあるいてね」
俺の少し後ろを少し脚が悪いお義母様(ご本人の希望によりそうよばせてもらってる)と手を繋いで歩く奏音を、奏音に言われた通りにゆっくり歩きながら振り向いた俺。2人の姿は違和感なく祖母と孫で、見ていて心が和む。暁登さんと出逢わず俺と2人きりだったら、絶対に見られなかった光景がそこには在った。
「おばあちゃま」「かなちゃん」と呼び合い、奏音とお義母様はとても仲良しだ。お義母様が言うところ、「おじいちゃま」は拗ねているとか、いないとか…。
それはさておき…。
今日、俺と奏音とお義母様はデパートに来ていた。
目的地は『ランドセル売り場』。
ご両親のご厚意を有り難く受け取る事にした俺は、既にランドセル商戦は始まっている…という8月、お互いに都合の良い日時を擦り合わせて、今日、まずは下見に来たんだ。
土曜日だけれど、暁登さんは少しだけ会社に顔を出さなければならなくて、デパートで合流する事になっている。待ち合わせはランドセル売り場だけれど、もう着いてるかも知れないな。お義父様も来たかったみたいだけれど、どうしても外せない用事があるらしい。お義母様曰く、奏音と初お出掛け出来るお義母様が羨ましくて拗ねていた様だけれど、今夜はご実家に泊まらせてもらう予定だから、奏音を愛でるのはそれまで我慢してもらおう。
売り場に着く前に暁登さんと合流した俺達。そのまま4人でランドセル特設売り場に向かい…。ランドセルのカラーの多さに圧倒されてしまった…。
今時のランドセルって、こんなにカラフルなの? 俺達が子供の頃は黒と赤が主流じゃなかった? 一体、何色あんの、これ…。
これでは選ぶ子供も迷うんじゃないだろうか…。と思ったけれど、パパとあきちゃん置き去りにおばあちゃまとランドセルを見に行った奏音は、迷わず『青』をチョイス。まあ、カラフルといっても殆どが女の子が選びそうな色だもんな。ちらりと見れば金色なんかもあるけれど、流石に金色は…。青を選んでくれた奏音にほっとした俺だった。ただ、この時は購入せず、奏音の希望で後日、おじいちゃまも一緒に来て購入する事にした。
奏音なりにおじいちゃまに気を遣ったのか…。
……………。
まさか…なぁ…。まだ6歳の奏音が気を遣うなんてこと…あるかも知れない…。
3月ー。
引っ越しと同時に転園した奏音は、新しい保育園で8ヶ月を過ごし、新しく出来たお友達と一緒に無事、保育園を卒園した。卒園式には俺はもちろんだが、暁登さんとお義父様、お義母様も来て下さった。
卒園式の後は予約していた写真館に行き、初めての『家族写真』を撮った。夜一緒にお祝いのお食事会をする約束をして着替える為に一度自宅に帰った時、着替える前に奏音の部屋からさくらの写真を持って来て、リビングで自動シャッター機能を使って4人で撮影。さくらと一緒に写真を撮ることは暁登さんが提案してくれた。さくらの存在を大切にしてくれる暁登さんの心遣い…優しさが嬉しかった。
暁登さんと出逢った日からおよそ3年。
恋人になって2年。
一緒に暮らし始めて8ヶ月。
俺達父子を取り巻く環境は、3年前には想像すらしていなかった方向へ変わった。
楽しい事ばかりじゃなかった。辛い事、悲しい事もあった。愛する男性の手を取り、生涯共に生きる…と決意するまでには葛藤もあった。
未だ同性愛者は差別される世間。どんなに愛し合おうとも同性婚は認められていない日本では、恋人以上の関係にはなれない。その恋人関係すら公にするには相応の覚悟が必要で、俺にはその覚悟が途轍もなく重く、ひとたび外に出れば今はまだ偽りの関係を演じるしかなく…。
暁登さん自身は「公にするのは吝かではない」と言葉にしながらも、常に俺の気持ちを尊重してくれる。
だから現在はまだ…。
けれど…。
確かな絆はここに在る。
俺と暁登さんは『恋人』で…。
暁登さんと奏音は『父子』で……。
そして、俺と暁登さんと奏音は………。
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