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6. 出逢い
〈 玲視点 〉
「晴香さん、今日は社長は…」
俺は社長が在社かを訊ねた。佑真先輩は社長でありながら、自分も社員に混じって働く。社長室にいるよりも、オフィスにいたり営業に出たりしている事が多いと、以前、晴香さんが言っていた。社長しか出来ない仕事もきっちり熟すし、凄い人だなあ…と改めて尊敬するよ。
「今日はいるけれど、今、来客中なの。取引先の社長さんよ。1時間くらい経つから、そろそろお帰りになられる頃だと思うけれど」
「じゃあ、待たせてもらいますね。もし今日会えなければまた明日来ればいいですし。
待ってる間に何か仕事…」
言い終わる前に、晴香さんが俺の前に数枚の紙の束を差し出した。
「言うと思ったから、はい、これ」
良く見れば『資料』だった。話をしながら手だけは動かしていた彼女は、これを用意していたらしい。
「明日の朝イチの会議で使う資料なの。それぞれ10枚ずつ、コピー頼める?」
「了解です。ついでに1枚ずつ束ねて10部資料作りますね」
「助かるわ」
紙の束を受け取り、階段近くのパーティション脇のコピー機に向かう。こういう地味な作業でも大切な仕事だから、1枚1枚確認しながらコピーしていく。それが終わったらすぐ横の作業台に移動して、資料を作成していく。
「玲、来てたのか」
ちょうど資料作成が終わった頃、聴き慣れた声が耳に届いた。応接室のドアが開いていて、声の主である社長と、多分お客様?の男性2人が部屋から出て来ていた。
「っ…!」
お客様の内の1人…背が高い方の男性と一瞬だけれど目が合った瞬間、心臓が跳ねた。
「玲?」
再び呼ばれて我に返り、社長に視線を戻す。
「あ、社長。お疲れ様です」
「おう、お疲れ。お前が来てるって事は、納品か。
悪い。まだ確認してないわ」
社長の言葉に俺は首を横に振る。
「時間がある時で大丈夫です」
「了解。それにしても、相変わらず仕事が早いな。納期は5日ばかり先だったと記憶しているが」
「まあ…そうですね。ちょっといつもの悪い癖が出ちゃって…」
「それでか。ま、遅れるのは良くないが、早い分には問題ないか。玲は、早くても仕事は丁寧だしな。
じゃあ、少し待ってな。お客様を下まで送ってから…」
「瀬尾社長、彼は?」
さっき一瞬目が合った方の男性が社長に訊いた。
「見たところ、こちらで働いているようだが、バイトの子だろうか?」
「…え……」
軽くショックを受けた俺。…ええ、解ってますよ。自分が童顔だって事くらい…。しかも、身長170センチも
ないし…。未成年に間違えられる事は特に珍しい事でもない。………。自分で言ってて悲しいな、これ…。この人に悪気がない事は解るんだけどさぁ…。
「彼は…玲はうちの社員です。在宅プログラマーとして働いています。これでも成人済みです。26歳…だったか?」
年齢を確認する社長に頷きながら、内心で呟く。
(…これでも…は余計です、先輩…)
「在宅プログラマー…。だからか。貴社と契約して1年になるが、彼とは会った記憶がない」
そう言いながらこちらを向いた男性と再び目が合い、ドキリとした。
どうしたんだ!? 俺の心臓!?
「知らなかったとはいえ、失礼した」
誠実さを滲ませながら俺に謝り、名刺を差し出す彼。「頂戴します」と言って受け取る俺。
「鹿嶋グループ代表取締役社長、鹿嶋 暁登…さん…」
名刺を読み上げてしまった…。
俺でも知っている大手IT企業の社長という事に驚いてしまった俺だけれど、よく考えれば、おかしくはない…のか? 先輩は社長だし、その社長に会いに来たのなら相手が別会社の社長でも…。そういえば、晴香さんが言ってたな。客は取引先の社長だって。
「君、もし迷惑でなければ、名前を教えてもらえないだろうか」
「あ、はい。こちらこそ失礼しました。葉月玲です。先ほど社長が言われた通り、在宅プログラマーをしています。宜しくお願いします」
自己紹介をして頭を下げようとしたら手で制されたから、軽く会釈するに止めた。
「ああ、こちらこそ」
「社長、そろそろお時間です」
鹿嶋社長が言葉を返してくれたところで、口調からして恐らく社長に同行した『秘書』(多分)の男性が言った。鹿嶋社長は短く「ああ」と応える。
「瀬尾社長、我々はここで失礼する。見送りは結構だ。勝手知ってる…だからな。
では葉月くんも、もしまた会えたら、もう少し君と話がしてみたい。その機会があればまた…」
「………。…え…?…」
最後に言われた言葉にどこか含みを感じて返事が出来なかった俺が我に返った時には、鹿嶋社長は既に階段を下りきるところだったー。
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