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11. パパのおともだち
〈 玲視点 〉
「かな!」
俺が呼ぶと、奏音は遊んでいた玩具を片付け、一緒に遊んでいた子に「バイバイ」と手を振ってから駆けてくる。室内遊園地は土足厳禁だから、下足置き場で一度立ち止まり、自分の靴を履いてから再び走って、俺の所に帰って来た。
「パパ~!」
俺は腰を落として奏音を抱き止める。俺にぎゅ~っと抱き着いた奏音は、そこで初めて鹿嶋さんの存在に気が付いて、そして固まった。
鹿嶋さんは席を立つと、奏音と目線を合わせるように膝を着く。俺は驚いたけれど、見守ることにした。俺に抱き着いたまま固まっている奏音を抱きしめたままで。
「初めまして。鹿嶋暁登といいます。君のパパのお友達です。お名前、教えてくれる?」
「……………」
俺と自分の関係を『お友達』と言った鹿嶋さんに驚き恐縮した俺だけれど、それ以上に、幼児にでさえ丁寧に挨拶してくれる彼に感嘆する。本当は友達だなんて言ってもらえるような関係ではないけれど、訂正はしない。きっと幼児に…奏音に説明するなら『お友達』が正しいから。
「パパ…」
奏音が「ほんと?」と確認するように見上げてくる。安心させるように俺は笑顔を見せて頷いた。
「うん。パパのお友達だよ。
奏音、ご挨拶しようか」
そう言って体を離してやると、奏音は鹿嶋さんの前に立つ。そして、ぺこりと可愛らしくお辞儀を一つ。
「はづきかなとです」
「奏音くんか。かっこいい名前だ。何歳かな?」
訊かれ、指を4本立てた右手を差し出す奏音。
「よんさい」
しっかり答えられてえらいなぁ…と我が子ながら感心していたのだけれど、奏音はくるりと回れ右をすると、再び俺に抱き着いた。恥ずかしいらしい。
「よく出来ました」
褒めて背中をぽんぽんと軽く叩き、よっこらしょっと奏音を抱いたまま立ち上がる俺。鹿嶋さんも俺に倣って立ち上がる。改めて立ち並ぶと、鹿嶋さんは俺よりも頭1つ分以上高い。190センチはあるんじゃないだろうか。
「お兄さんの下のお子さんの性別は?」
「男の子だ。生まれて1ヶ月になる」
男の子か。出産祝いだと服が一般的だろうか。
じつは、俺自身は出産祝いの品を誰かに贈った事はない。ただ、奏音が生まれた時に貰ったから。佑真先輩と晴香さんに。2人からのいただいたのは、ベビー服一式セット。赤ちゃんはすぐ大きくなるから、1歳くらいになった時に着れる服。玩具でももちろん嬉しいけれど、親が貰って一番嬉しいのは実用的なものなんだよな、実は。
まあ、俺はただの付き添いだし(1人だと入り難いって言うから)、何にするか決めるのは鹿嶋さんだけれど。もしアドバイスを求められたら、提案してみても良いかも知れないな。
「じゃあ、行きましょうか」
奏音もすっかり大きくなり、最近では足を運ぶ事は無くなったけれど、ほんの1年ほど前までは気が付けば自然と足が向いていた場所だ。久し振りの場所に少しワクワクするような気持ちを隠しながら、鹿嶋さんを誘導するように奏音を抱っこしたまま歩き出した俺の隣を、鹿嶋さんがゆったりとした足取りで歩く。脚の長さが違うから、俺の歩調に合わせてくれてるんだろうなぁ…。
ちらりと横目で鹿嶋さんを見ると、タイミングが良いのか悪いのか、同じタイミングでこっちを見た彼が微笑んだ。その笑顔にドキリとして、慌てて視線を正面に戻した俺。
ワクワクしているのはきっと久し振りにベビーコーナーに行くからだけじゃない事を、俺は自覚していた。
今、運命の歯車が回り出すー。
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