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12. 幼児には通じません
〈 玲視点 〉
何がどうしてこうなった…!?
俺は今、猛烈にそう叫びたい気分だった。
ベビーコーナーで鹿嶋さんの買い物を済ませた後(結局、俺がオススメしたベビー服一式セットを購入した)、食料品売り場に行った時には、奏音はまだ俺が抱っこしていた。
ベビーコーナーを出た時点で別れるつもりだった俺だけれど、平日は外食が多いから休日は自炊するという鹿嶋さんも食材の買い出しをしていくと言うから、一緒に食料品売り場まで来たのだけれど…。
奏音を抱っこしたままでは買い物カゴが持てないしカートも押せないから奏音を下に下ろした時も、気になるのか鹿嶋さんをちらちらと見ながら、奏音は俺と手を繋いでいたのに…。買い物が終わった今、奏音の手は俺の手を離れ、鹿嶋さんと繋がれていた。
何故だろう?…と思い返してみる。
俺と手を繋いで歩きながら、鹿嶋さんが話を振る形で奏音と話をしていたのは知っている。その内、奏音から自主的に話し始めた事も。何か、自然の流れでこうなった気がするけれど…。まあ、2人が打ち解けたなら良しとするか。
……………。
良くない! 全くもって良くない! 打ち解けてどうする!? もう会わないと決めたのに!
しかも、別れ際ー。
奏音が鹿嶋さんから離れない。「バイバイだよ」と言って無理やり離そうとすれば泣く。こんな事は初めてだった。基本、人懐こい奏音だけれど、それでも初対面の人にこんなに懐くなんて事はないし、バイバイしたくなくて泣くなんて事もなかったのに…。もしかして俺の感情を敏感に感じ取ったのだろうか、と一瞬思ったけれど、本当のところは判らない。判らないけれど、往来で泣かせておくわけにはいかないので、鹿嶋さんが「君達の家まで一緒に行こう」と言ってくれたから、甘える事にした。それぞれに車で来ていたから、チャイルドシートを鹿嶋さんの車に移し、奏音は鹿嶋さんの車に乗り、俺は1人、俺が先導して自宅アパートに帰った。
家までのつもりだったのにー。
「パパ、あきちゃんのごはんもつくって!」
車から下ろしてもらった奏音が開口一番に言った。
え? どういうこと?
説明を求めて鹿嶋さんを見れば、こちらは困り顔。それでも説明はしてくれた。
短時間ですっかり懐いてくれた奏音が突然、『パパのごはん』を猛プッシュしだしたらしい。「かな、パパのごはんだいすき」「パパ、なんでもつくってくれるの」「いちばんすきなのはね~」ってな感じで。で、話を合わせる為に鹿嶋さんが「俺もパパのごはん、食べてみたいな」と言ったらしい。
鹿嶋さん、それ、ダメです。幼児に建前は通じません。社交辞令も通じません。もちろん冗談も通じません。何でも素直に受け取ってしまう。それが幼児というものです。
しかも、どうして愛称で呼ばせてるんですか…。
言葉を失くした俺は、内心で溜め息を吐いた。
言ってしまったものは仕方ない。このまま鹿嶋さんを返したら、奏音が泣く。間違いなく泣く。本当に駄目な事ならどれだけ泣こうが喚こうが俺も頑として譲らないが、まとめ買いしたから材料はある。2人分も3人分も手間はそんなに変わらない。
「もしお時間大丈夫でしたら、夕ご飯、食べていきませんか?」
折れたのは俺だったー。
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