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15. 幼児には通じません②
〈 玲視点 〉
だから、何がどうしてこうなった!?
……………。
ほんと、誰か教えてほしい……。
鹿嶋社長…改め鹿嶋さん…改め暁登さんと連絡先を交換してほぼ2ヶ月。
暑かった夏は過ぎ、季節はすっかり過ごしやすい秋。
この2ヶ月の間、ほとんど毎週末を、俺と奏音は暁登さんと一緒に過ごしている。
……………。
だから、なんで…!?
ーーーーーーーーーーーーーーー
連絡先を交換したけれど、俺から連絡するつもりはなかった。そもそも、暁登さんとはもう会わない…と、会う事はない…と思っていたのだから。
あの日、出先での再会は完全なる偶然。俺自身の余計な一言と、奏音が暁登さんに懐いたのと、その後の成り行きでほぼ半日を一緒に過ごす事になったし、あのタイミングで連絡先の交換を請われて断れなかっただけなんだ。
だから、このまま連絡はせずにさり気なくフェードアウトしよう、と、暁登さんは社長さんで忙しいから彼から連絡が来る事はない、俺から連絡しなければこのまま二度と会う事はない、と勝手に自己完結しようとしていた俺…だけど…。
あの日からちょうど10日目の夜、暁登さんからの電話。もう会わないと決意したくせに、貰った連絡先をスマホに律儀に登録していた俺。着信を知らせると同時に画面に表示された『鹿嶋暁登』の名前に何の心構えも出来ていなかった俺は、大いに慌てた。で、うっかりスピーカーをオンにするという大失態。
実は、暁登さんと初めて過ごした休日から僅か3日後から、奏音の「あきちゃんはいつくるの?」口撃が毎日俺を直撃。ほんと、たった半日でどうしてそんなに懐いてんの?と頭を抱えたくなるくらいだった。そんな時に掛かってきた待ち人からの電話に、奏音が飛び付かない訳もなく…。
余程嬉しかったらしく、興奮状態の奏音のマシンガントークにスピーカー越しに暁登さんが受け答えしている声を、ただ唖然と聴いていた俺。暫くして、満足したらしい奏音が、
「パパ、あきちゃんパパにかわってって」
そう言った事で我に返った。そして、2人の会話をちゃんと聞いていなかった事を後悔したよ。
後悔もするだろ。週末に動物園に行く約束をしてたんだから。暁登さんも、どうして俺に一言の断りもなく奏音と約束したんだよ!? だから、幼児には冗談は通じないし、ましてや、一度約束してしまったら取り消すのは難しいんだって! 正当な理由がなければ諦めさせるのは、幼児といえど簡単じゃない。中には、嘘の理由で反故にする親もいるだろうけれど、俺は、時と場合によるけれど、嘘は吐きたくないの。
「君に訊かずに約束してしまったが、予定があっただろうか? もし君の都合が悪いなら…君が俺を信用してくれるなら、奏音くんは俺が連れて…」
「大丈夫です。俺も行きます」
暁登さんの言葉に被せて、約束を肯定した。
奏音だけを預けるなんて有り得ない。しかも、まだ2回しか会ってない人だし、奏音にとっては、懐いたとはいえ1回しか会っていない人だ。信用以前の問題。親としては当たり前のこと。
俺が暁登さんに『一目惚れ』した事は関係ない。
でも…でもさ、自然にフェードアウトしていくつもりだった俺の計画が…。この時は本当に、連絡先を交換した事を後悔した。彼は俺達の自宅を知っているけれど、連絡無しで突然押しかけたりはしないだろうから。
この最初の『約束』が始まりだった。
だって、お出掛けの後の別れ際、暁登さんと奏音が次の約束をするんだよ。「あきちゃん、こんどのおやすみはどこにいくの?」って奏音が言い、俺が「お休みの度に…なんて迷惑だよ」と奏音を窘めるように言えば、「俺は構わないよ。急に仕事が入った時は連絡するし、玲くんが迷惑でなければ…」と暁登さん。迷惑ではない。迷惑ではないけれど貴方と距離を置きたいんです…と言える訳もなく、「迷惑じゃないです」とやっぱり俺が折れるという…。毎回、この繰り返し。暁登さんの急な仕事で駄目になったのは2回。
そして気が付けば2ヶ月…。
呼び方も葉月くんから、いつの間にか玲くんになってるし。暁登さんにお願いされて、俺の彼の呼び方も鹿嶋さんから暁登さんになった。
毎週末の外出が恒例になりつつある中で、俺は一つのルールを作った。
『自宅には招かないこと』ー。
再会した日はやむを得ず招き入れる形になったけれど、結局流されるままになっている現在でも、それだけは譲れない。
暁登さんは「当然の主張だ」と納得してくれた。幼い奏音は理解出来ていなかったけれど、『次の約束』があれば暁登さんとの別れ際にごねることはなかった。
そうして、俺が望むと望まないに関わらず、俺達と暁登さんの交流は続く。
会うのは外で、奏音の存在があるから、2人きりになる事がないのが、せめてもの救い。
でも、どうして彼は…暁登さんは、休日を俺達と過ごすんだろう? 貴重な休みなのに…。
どれだけ考えても俺には解らなかったー。
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