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21. どうして此処に…
〈 玲視点 〉
目を覚ました時、至近距離で俺の顔を覗き込む人物を見て、俺は声も出せずに固まったー。
けれど、それも一瞬のこと。未だにぼんやりする頭、寝起きのやや掠れた声で、
「ど…して…」
「どうして?」と問う。俺の目の前に端正な顔を晒す暁登さんに。
何故此処にいるんだろう? 奏音には、誰が来ても玄関は開けないように言った筈…。とはいえ4歳児。玄関先まで出てドアの外から知り合いの声がすれば、開ける事は十分有り得る。ただでさえ奏音は暁登さんに異常なくらい懐いているから…。
でも、最初の疑問に戻れば、何故彼は訪ねてきたんだろう? 確か寝る前に明日のお出掛けのお断りのラインを送って…。それから……。
……………。
「…電話…」
そうだ。折り返すように電話が鳴ったんだ。暁登さんの名前が表示されてて、通話ボタンを押したのを憶えている。
……………
あれ…? それからどうはしたんだろう?
「気分はどう?」
「…だいじょうぶ…です…」
訊かれ、思考を中断して答えた。
彼がどうして此処に…家の中にいるのかは解らないけれど、心配してくれているのだけは解る。
「俺が電話したの、憶えてる? ああ、話すのが辛いなら、軽く首を振って教えて」
優しく言われて、「憶えている」と首を縦に少しだけ振った。
「じゃあ、電話が繫がった後、俺が呼び掛けたのは?」
「……………」
今度は「憶えてない」と首を横に少しだけ振る。
俺が憶えているのはスピーカーボタンを押すまでだ。
その後に力尽きて寝落ちたんだと思う。
「俺が君からのメッセージを見て折り返し電話したのは、胸騒ぎを覚えたからだ。明日の予定のキャンセルを今日連絡するのは問題ないが、朝…というのが気になった。早朝ではないが、休日の7時というのがね。ラインとはいえ、そんな時間に連絡してくるのは君らしくないと思った。君の性格なら、休日だからまだ俺が休んでいる可能性を考えて、もっと遅い時間に連絡すると思うからね」
「……………」
時間の事までは頭に無かった。ただ「連絡しないと…」と思ったから…。確かにいつもの俺なら、急用でなければ平日だってそんなに早い時間に連絡はしないから…。
けれど、そんな些細な事で違和感を…?
横になったまま暁登さんを見つめていると、
「君からは見えないと思うが、奏音くんは遊んでいた場所にクッションを並べて寝かせてるから安心して」
寝てる…。
「…今…何時ですか…?」
「午後1時だ。勝手して申し訳なかったが、奏音くんには冷蔵庫の中の物でご飯を作って食べさせた。すまない」
暁登さんに頭を下げられ、俺は首を横に振る。
「ありがとう…ございます…」
現在午後1時という事は、俺は5時間は寝ていた事になる。そんなに寝たというのに、頭痛も倦怠感も良くなったとは言い難い。
俺が力尽きた後の事を、暁登さんが教えてくれた。
スピーカー越しの声が暁登さんだと気付いた奏音が暁登さんの呼び掛けに応じたこと。暁登さんが幾つか質問すると、奏音は、パパはお熱があってお薬を飲んでねんねしていること、パパが寂しいって言うからねんねのお部屋のパパの傍で遊んでいる事を説明したという。その話を聞いた暁登さんは、熱を出して寝ている俺と1人で遊んでいる奏音が心配になって文字通り飛んできた…と。
「奏音くんは凄いな。君の言いつけを守って、俺だと解っていてもすぐにはドアを開けなかった。ドアを挟んで少しだけ話をした。だが、彼も寂しかったんだろう。鍵を開けてくれて、俺の顔を見るなり抱き着いてきた。君の許可なく家に入った事は申し訳なく思う。改めて、すまない。奏音くんは怒らないでやってほしい」
「……………」
怒る訳ない。奏音も、暁登さんのことも。
「熱はいつから?」
「今朝、起きた時から…」
「熱は測った?」
「朝測った時は37.8℃でした」
「もう一度、測ってみてくれる?」
暁登さんがチェストの上に置いていた体温計を取って、横になったままの俺に手渡してくれた。腋に挟み30秒。
表示された体温は38.5℃。
嘘…。寝る前より上がってる? 薬飲んだのに…。
「病院に行こう。俺が連れて行く」
「土曜日の午後は休診です」
「それは掛かりつけの開業医だろう? 病院の救急外来に行く」
「えっ…。だっ…大丈夫ですっ…。寝てれば…」
肘を付いて体を起こしながら言う俺の背中を、暁登さんが支える。
「薬を飲んで寝ていたのに熱は上がってるだろう? これ以上、熱が高くなったらどうする? 君だけじゃない。奏音くんもだ。君が倒れて一番困るのは奏音くんだ。今回頑張ってくれた小さな彼の為にも、病院で適切な診察治療をしてもらって、君は早く元気にならなければいけない」
「………。…はい…」
正論を説かれたら頷くしかない。
今は、暁登さんに甘えてもいいだろうか…。
発熱に加え、頭痛と倦怠感でふらつきまともに歩けない俺は、暁登さんに支えられながら歩き、彼の車に乗せられて病院に向かう。
昼寝から無理やり起こすかたちになった奏音だけれど、ぐずったりはせず、彼の柔らかく小さな手は、歩いて移動している時も、車の中でも、ずっと俺の手を握っていたー。
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