七夕を君に

くらげ

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三部目

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哀と共に過ごした不思議な3ヶ月。
何も言わずに居なくなった、高校2年の七夕。
私は今、社会人の一員として仕事をしている。
あの不思議な3ヶ月は、見事なまでに日常の記憶に溶け込んだ。
あの時のことを思い出せば、少し辛いけれど、人それぞれに人生がある。
歳をとった今だからこそ分かることもある。
今の私は学生の頃と比べたらそれなりに変わった。
後輩ができて、先輩や同期とも上手くやっている。
仕事、仕事、仕事....
上手くやれているはずなのに、学生の頃より成長しているはずなのに、心が浮くことも、沈むことも無い。
学生の通学路と全く違う道を歩き、あの頃聞こえていた足音の種類は増えている。

学生とすれ違って、私もあの頃はあんな感じだったのだろうかと考える。
あそこまではっちゃけては居なかっただろうと思うけれど、少なくともあの3ヶ月は....

あの時、哀が言っていた、あの場所に集まろうという、今となっては意味の無いように感じる約束。
私は、あの3ヶ月はいつものように、なんてこと無い日常の記憶に溶け込んでいくと思っていた。
だけど溶け込むことは無かった、いつまでも心の中で激しく暴れている。
だからあの約束も今でも鮮明に思い出す。

こんな風に考え込むのはいつぶりだろうか....
今日は7月7日....
七夕.....

何故かは分からない、だけど体は勝手に動いた。
あの場所に行ってみよう。
行って何をする?
何もやらない。
ただ....行ってみよう、だけどもしかしたら....

急に動いたからか、体力が無いからか、それとも緊張しているからか。
私はいつも以上に息が上がった。
そこには.....

哀「......雫?」

哀が居た。
やっぱり?
居ると思わなかった?
なんて声をかけたらいいのか....分からない。
哀も困った顔をしている、あの時と容姿は変わっているけれど、あの時と変わらない綺麗な顔だった。

哀「....どうして」

どうして?
それは私のセリフだ、今言葉を出せば無限と言葉が出てきそうだ。
なぜあの時...私に何も言わずに....

哀「混乱してる.....みたいね....でも、やっぱり待っててよかった」

待っていた....?
私を?
なぜ?

哀「言ったでしょ?またこの場所で一緒に星を見ようって」

覚えていた....
意味の無い約束だと思っていたのに....その約束は果たされた。
ここに集まれた....

哀「あの時は....何も言わずに居なくなってごめんなさい。本当は話そうと思ってたんだけど、過ごした時間が楽しくて....中々言い出せなかったの」

そう....だったのか。
いや、そうだよな。

哀「と、とりあえず!話しましょ!雫の話も聞きたいわ」

それから色んなことを話した。
あれからどう過ごして、今何をやっているのか。

哀「そっか...今雫はOLをやってるのね....私は今星の勉強をして、これからも星に関わっていくつもりよ」

....何年も経ったけど、哀は何も変わっていない。
それが今はとても嬉しかった....
私はあれから、私の中の色んなものが変わった。
....私達は何も似ていない。
そう、何も....
自分で自覚してしまえば、なんてことはない。
少しだけ嫌だけど、でも、それでもいいんだと思えた。
あの時の哀も、今の私と同じ気持ちだったんだろうか。
.....似ていなくても、私達は....

哀「.....流石は私の友達ね」

同じ気持ちだった。
私達は何も似ていない、違うものはいくつもある。
だけど、私達は友達だ。
大切な....友達。
似ている必要なんて、最初から無かった。

哀「....ん?それは.....花火?」

私は、ここに来る途中で手持ち花火を買ったのだ。
もうこの場所で花火が打ち上げられることは無い。
だから、ここから見える夜空が、綺麗な花火で隠されることは無い。

哀「そうね....それじゃ、一緒に星を見よう、雫」

この花火なら、一緒に星を眺められる。

哀「雫、やっぱり私の言う通り、あなたとなら七夕が好きになれそうよ」

花火を手に持ち、一緒に星を眺めながら、また私は哀と同じ気持ちなった。

かつて見慣れていた風景が広がる、静かな七夕の夜。
足音は無い、ただ花火の音だけが聞こえる。
眺める星はあの頃と変わらず、綺麗なまま。
この綺麗な星空は、背が伸びた私達が手を伸ばしても届くことは無い。
それでも手を伸ばして掴めたものがあった、それは星空と同じくらい輝くものだった。

私も七夕が好きだ。
だから大切な友達である君に、今度こそ贈りたい。

七夕を君に....

fin
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