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二十夜目、掛け軸
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俺は和室で震えていた。
目の前の床の間には、掛け軸が掛かっていた。
全く絵心が無い俺にもわかるぐらいすごい絵、
水墨画を初めて見たが、こんなにもすごいものなのか、
まるで生きているようだ。
男が入ってきた。和服を着た初老の男だ。
「待たせたね」壁に染み入るように静かな声で男は言う。
俺は、緊張でしゃべれなかった。
「この幽霊の掛け軸は応挙の作でね、とても価値があるものなんだよ。
加納正信も好きなんだが、応挙も良いだろう」
全く分からなかった、何を言っているんだろう。
「た、た、高そうですね」頑張って言葉を発してみた。
男はニヤリと笑い。
「そうだね、この掛け軸が欲しくて人が3人ぐらい死んだかな」と言った。
体の震えて止まらない。怖い。怖い。怖い。
「冗談だよ」男は怖い笑みを浮かべて言った。
「水墨画というものは奥が深くてね、墨の濃淡だけで全てを表現しているんだ」
「幽玄を知っているかい、おぼろげであるからこそ美しさが出るんだよ」
「うーん、少し難しかったかな、わびさびって言った方がわかりやすいかな」
俺は男が言っていることが全く分からなかった。
「今回君がしたことは、美しくない」
「ものごとは、うすぼんやりで、はっきりさせない方が良い時もあるんだよ」
「誰が正しい、誰が間違っているのでは無い。誰もが正しくも有り、間違いをもっているのさ」
「頭の良い君にはわかるだろ」
「今回は、さすがにやりすぎだ。孫娘が泣く姿をはじめて見た」
初老の男の眉がピクリとした。怖い雰囲気が周囲にただよった。
「まぁ、今回は我慢する。うん、その方が美しい。でも、次は無い。私にも限界があるからね」
俺は体が震えてしゃべれなかった、動けなかった。
『パン』男が手を叩いたら、スーツを着たゴツイ男が現れた。
「お客様を送ってあげなさい」と男が言った。
立てない俺を片手で持ち上げる、ゴツイ男。
そのまま、タクシーに放り投げられた。
家に帰っても震えが止まらなかった。
踏み入れては行けない世界に入ってしまった。
殺されてもおかしくなかった。
俺は怖くて半年間、家から出れなかった。そのまま大学を中退した。
・・・・・・あれから10年、今でも思い出すたびに体が震える。
目の前の床の間には、掛け軸が掛かっていた。
全く絵心が無い俺にもわかるぐらいすごい絵、
水墨画を初めて見たが、こんなにもすごいものなのか、
まるで生きているようだ。
男が入ってきた。和服を着た初老の男だ。
「待たせたね」壁に染み入るように静かな声で男は言う。
俺は、緊張でしゃべれなかった。
「この幽霊の掛け軸は応挙の作でね、とても価値があるものなんだよ。
加納正信も好きなんだが、応挙も良いだろう」
全く分からなかった、何を言っているんだろう。
「た、た、高そうですね」頑張って言葉を発してみた。
男はニヤリと笑い。
「そうだね、この掛け軸が欲しくて人が3人ぐらい死んだかな」と言った。
体の震えて止まらない。怖い。怖い。怖い。
「冗談だよ」男は怖い笑みを浮かべて言った。
「水墨画というものは奥が深くてね、墨の濃淡だけで全てを表現しているんだ」
「幽玄を知っているかい、おぼろげであるからこそ美しさが出るんだよ」
「うーん、少し難しかったかな、わびさびって言った方がわかりやすいかな」
俺は男が言っていることが全く分からなかった。
「今回君がしたことは、美しくない」
「ものごとは、うすぼんやりで、はっきりさせない方が良い時もあるんだよ」
「誰が正しい、誰が間違っているのでは無い。誰もが正しくも有り、間違いをもっているのさ」
「頭の良い君にはわかるだろ」
「今回は、さすがにやりすぎだ。孫娘が泣く姿をはじめて見た」
初老の男の眉がピクリとした。怖い雰囲気が周囲にただよった。
「まぁ、今回は我慢する。うん、その方が美しい。でも、次は無い。私にも限界があるからね」
俺は体が震えてしゃべれなかった、動けなかった。
『パン』男が手を叩いたら、スーツを着たゴツイ男が現れた。
「お客様を送ってあげなさい」と男が言った。
立てない俺を片手で持ち上げる、ゴツイ男。
そのまま、タクシーに放り投げられた。
家に帰っても震えが止まらなかった。
踏み入れては行けない世界に入ってしまった。
殺されてもおかしくなかった。
俺は怖くて半年間、家から出れなかった。そのまま大学を中退した。
・・・・・・あれから10年、今でも思い出すたびに体が震える。
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