ショートショート

九十九ひろひろ

文字の大きさ
20 / 36

二十夜目、掛け軸

しおりを挟む
俺は和室で震えていた。

 目の前の床の間には、掛け軸が掛かっていた。
全く絵心が無い俺にもわかるぐらいすごい絵、
水墨画を初めて見たが、こんなにもすごいものなのか、
まるで生きているようだ。

 男が入ってきた。和服を着た初老の男だ。
「待たせたね」壁に染み入るように静かな声で男は言う。
俺は、緊張でしゃべれなかった。

「この幽霊の掛け軸は応挙の作でね、とても価値があるものなんだよ。
加納正信も好きなんだが、応挙も良いだろう」

 全く分からなかった、何を言っているんだろう。
「た、た、高そうですね」頑張って言葉を発してみた。

 男はニヤリと笑い。
「そうだね、この掛け軸が欲しくて人が3人ぐらい死んだかな」と言った。

体の震えて止まらない。怖い。怖い。怖い。

「冗談だよ」男は怖い笑みを浮かべて言った。

「水墨画というものは奥が深くてね、墨の濃淡だけで全てを表現しているんだ」
「幽玄を知っているかい、おぼろげであるからこそ美しさが出るんだよ」
「うーん、少し難しかったかな、わびさびって言った方がわかりやすいかな」

俺は男が言っていることが全く分からなかった。

「今回君がしたことは、美しくない」
「ものごとは、うすぼんやりで、はっきりさせない方が良い時もあるんだよ」
「誰が正しい、誰が間違っているのでは無い。誰もが正しくも有り、間違いをもっているのさ」
「頭の良い君にはわかるだろ」
「今回は、さすがにやりすぎだ。孫娘が泣く姿をはじめて見た」
初老の男の眉がピクリとした。怖い雰囲気が周囲にただよった。

「まぁ、今回は我慢する。うん、その方が美しい。でも、次は無い。私にも限界があるからね」

俺は体が震えてしゃべれなかった、動けなかった。

『パン』男が手を叩いたら、スーツを着たゴツイ男が現れた。
「お客様を送ってあげなさい」と男が言った。

立てない俺を片手で持ち上げる、ゴツイ男。
そのまま、タクシーに放り投げられた。

家に帰っても震えが止まらなかった。
踏み入れては行けない世界に入ってしまった。
殺されてもおかしくなかった。
俺は怖くて半年間、家から出れなかった。そのまま大学を中退した。

・・・・・・あれから10年、今でも思い出すたびに体が震える。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

別れ話

はるきりょう
恋愛
別れ話をする男女の話

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

初体験の話

東雲
恋愛
筋金入りの年上好きな私の 誰にも言えない17歳の初体験の話。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...