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007 酒と音楽と暴力
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新居は街の中心の大通りから歩いて約10分。
家具の購入などもレミーが店舗の開設とともにテキパキと3日で済ませてしまった。
仕事が早い。
俺はその間、宮廷魔術師としての働き口を探すこと、市中の商店で人集めのニーズがないか探すことの2つを行った。
まず宮廷魔術師としての働き口。
結論としてはダメだった。
魔術師ギルドに宮廷魔術師の新規募集の公示が出ていないかを確認したが、通信魔術師の採用情報は出ておらず、ギルド職員に聞いたところ、この国の通信魔術師はある一族の世襲で枠が埋まっており外部からの新規採用は行っていないとのことだった。
その時の職員の「大体アンタ、平民のくせに通信魔術なんかで食っていこうとしたのが間違いだよ」という言葉が今も心に響いている。
そしてもうひとつ。人集めのニーズ探しのため、街を歩き様々な商店をあたった。
こちらも結論としては芳しくない。
芳しくないといっても、例えば肉屋のおじさんは「いい肉が入った時なんかに精神感応で伝えてもらえたりするといいよな!」と言ってくれたし、骨董品屋の爺さんは「100年前の陶芸家ジョール・リードの最後の作品が見つからなくての。誰か持っていないか精神感応で聞けるものなら聞いて欲しいところだの」と言ってくれた。
それでも多くの人が共通して言ったことは「そもそも精神感応で無理やり来させられたら客も嫌がるでしょ」ということだった。
そりゃそうだ。
無意識下にメッセージを刷り込めば最初は誰も気付かなくても、何度も繰り返していけば「最近なんだか変だな、おかしいな」ということになる。そして俺が精神感応を使ってこういう商売をしていることを知り「あれもこれもお前の仕業か」ということになる。
ダメじゃん。
俺の事業は始める前から頓挫してしまった。
一緒に住むことになったレミーはたったの3日で自分の店を立ち上げ前に進んでいるというのに、俺ときたら「この国に俺の仕事はない」ということを確認しただけだった。
へこむ。
深くため息をついて麦酒のジョッキをテーブルに置いた俺に、レミーは「まあまあ、これでも食べて元気出してくださいよ」と自分の分の腸詰めを一本分けてくれた。
やめてくれ。今そんなに優しくされると泣いちゃう。
「ありがと」と呟き、ナイフで切った腸詰めを口に運ぶ。
酒場にはアップテンポで楽しげな音楽が鳴り響いているし他のお客さんたちもワイワイ賑やかにやっている中、俺だけが落ち込んでいる。
なんだか世界で俺だけがダメなんじゃないかという気持ちになってきて、そんなことではいかんぞと心を奮い立たせるためジョッキの麦酒をグイッと飲み干す。
「お、いい飲みっぷり!元気出てきたじゃないですか!あ、お姉さん、麦酒もう一杯!」
「ま、こういう時はパーッと飲みましょ」と、レミーが次の麦酒を頼んでくれた。
うん。飲む。
…………………………………………
麦酒をジョッキで7杯、葡萄酒のボトルを俺とレミーで2本、そして今は火酒と呼ばれる蒸留酒をストレートで頂いている。
「俺ぁね、もう、自分で自分が情けないよ」
「そんなことないですよ、ティモシーさん」
「いやぁ…そんなことあるよ、俺はね、ダメだよ俺はもう」
「まあまあ」
「だってそうでしょうよぉ、普通考えたらわかるんだよぉ、精神感応で無理やりお客さん来させるなんてダメだって。そりゃ一度や二度なら良くても、商売としては続くわけないじゃないの」
「それに関しては私も責任感じちゃうなぁ。言い出しっぺですし」
「いやいや、俺だよ、俺が自分で気付かなきゃいけなかったわけ。自分の人生なんだから」
「でもきっと上手くいきますよ」
「なんでよ」
「だって私、ティモシーさんみたいにすごい通信魔術師、見たことないですもん」
俺の頬を涙が伝う。「そんなに優しくしないでよ」と言ってグラスの火酒を飲み干す。
次の酒を頼むため、涙をぬぐって店内を見渡すと店員が見当たらず、さっきまで鳴り響いていた店内の音楽も止まっている。
見れば音楽団と客が口論のようになっており、何人かの店員たちもその仲裁だろう、音楽団と客の間に入ったり騒動の輪の外から様子をうかがったりしている。
「揉め事ですかね」とレミーが席を立つ。
「ん?どこ行くの」
「ちょっと私、止めてきますね」
「いやいや、こういうのに首突っ込まないほうがいいって」
俺の制止も聞かずにレミーは騒動の輪にスタスタと歩いていく。
いやいやいや、ダメだってば、と俺はヨロヨロとその後をついていく。
「どうかしたんですか」とレミーは騒動の輪の外で様子をうかがう店員に話しかける。
「ああ、なんでもあのお客さんたちが『俺の嫌いな音楽をやった』とかでね」
「何それ酷い!そんなの叩き出せばいいじゃないですか!」
「いやそれがまた、『俺たちはこのあたりの地主の知り合いだ』とか言って店長も困ってて」
「なんですかそれ!最悪ですね!」
レミーが腕まくりをして騒動の輪に入ろうとする。
「ちょ、ちょっと待って待って」と俺がレミーの前に割り込む。
「なんで止めるんですか、あんな奴らはぶっ飛ばしてやりゃいいんですよ!」
「暴力はよくない。暴力はよくないよ」
「だって!」と憤慨するレミーに「まあここは俺に任せて」となだめる。
揉めている客は3人。うすらハゲで筋肉質な中年男性と、痩せて背の高い男と、腹だけ出ている小柄な男。
その3人に狙いを定め、魔力を集中させる。
3人それぞれの記憶の海の底に沈む一番「優しい」記憶を引きずり出す。
3人ともそれぞれ幼少期の母の映像と音声だった。マザコンどもめ。
「あったかいスープ作っておくから早く帰っておいで」
「またアンタはママに心配ばかりかけて!」
「あなたが本当は優しい子なの、お母さんはちゃんと知ってるからね」
そんな記憶の映像と音声を3人の迷惑客の脳内にエンドレスでループさせる。エコー付きで。
1分も経たないうちに3人が3人ともその場に膝をつき、「ごめんよお母ちゃん!ごめんよ!」などとわめきながら子供のように大声を上げて泣き始めた。
泣き上戸ってやつか。まったく、飲み過ぎだよ。
家具の購入などもレミーが店舗の開設とともにテキパキと3日で済ませてしまった。
仕事が早い。
俺はその間、宮廷魔術師としての働き口を探すこと、市中の商店で人集めのニーズがないか探すことの2つを行った。
まず宮廷魔術師としての働き口。
結論としてはダメだった。
魔術師ギルドに宮廷魔術師の新規募集の公示が出ていないかを確認したが、通信魔術師の採用情報は出ておらず、ギルド職員に聞いたところ、この国の通信魔術師はある一族の世襲で枠が埋まっており外部からの新規採用は行っていないとのことだった。
その時の職員の「大体アンタ、平民のくせに通信魔術なんかで食っていこうとしたのが間違いだよ」という言葉が今も心に響いている。
そしてもうひとつ。人集めのニーズ探しのため、街を歩き様々な商店をあたった。
こちらも結論としては芳しくない。
芳しくないといっても、例えば肉屋のおじさんは「いい肉が入った時なんかに精神感応で伝えてもらえたりするといいよな!」と言ってくれたし、骨董品屋の爺さんは「100年前の陶芸家ジョール・リードの最後の作品が見つからなくての。誰か持っていないか精神感応で聞けるものなら聞いて欲しいところだの」と言ってくれた。
それでも多くの人が共通して言ったことは「そもそも精神感応で無理やり来させられたら客も嫌がるでしょ」ということだった。
そりゃそうだ。
無意識下にメッセージを刷り込めば最初は誰も気付かなくても、何度も繰り返していけば「最近なんだか変だな、おかしいな」ということになる。そして俺が精神感応を使ってこういう商売をしていることを知り「あれもこれもお前の仕業か」ということになる。
ダメじゃん。
俺の事業は始める前から頓挫してしまった。
一緒に住むことになったレミーはたったの3日で自分の店を立ち上げ前に進んでいるというのに、俺ときたら「この国に俺の仕事はない」ということを確認しただけだった。
へこむ。
深くため息をついて麦酒のジョッキをテーブルに置いた俺に、レミーは「まあまあ、これでも食べて元気出してくださいよ」と自分の分の腸詰めを一本分けてくれた。
やめてくれ。今そんなに優しくされると泣いちゃう。
「ありがと」と呟き、ナイフで切った腸詰めを口に運ぶ。
酒場にはアップテンポで楽しげな音楽が鳴り響いているし他のお客さんたちもワイワイ賑やかにやっている中、俺だけが落ち込んでいる。
なんだか世界で俺だけがダメなんじゃないかという気持ちになってきて、そんなことではいかんぞと心を奮い立たせるためジョッキの麦酒をグイッと飲み干す。
「お、いい飲みっぷり!元気出てきたじゃないですか!あ、お姉さん、麦酒もう一杯!」
「ま、こういう時はパーッと飲みましょ」と、レミーが次の麦酒を頼んでくれた。
うん。飲む。
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麦酒をジョッキで7杯、葡萄酒のボトルを俺とレミーで2本、そして今は火酒と呼ばれる蒸留酒をストレートで頂いている。
「俺ぁね、もう、自分で自分が情けないよ」
「そんなことないですよ、ティモシーさん」
「いやぁ…そんなことあるよ、俺はね、ダメだよ俺はもう」
「まあまあ」
「だってそうでしょうよぉ、普通考えたらわかるんだよぉ、精神感応で無理やりお客さん来させるなんてダメだって。そりゃ一度や二度なら良くても、商売としては続くわけないじゃないの」
「それに関しては私も責任感じちゃうなぁ。言い出しっぺですし」
「いやいや、俺だよ、俺が自分で気付かなきゃいけなかったわけ。自分の人生なんだから」
「でもきっと上手くいきますよ」
「なんでよ」
「だって私、ティモシーさんみたいにすごい通信魔術師、見たことないですもん」
俺の頬を涙が伝う。「そんなに優しくしないでよ」と言ってグラスの火酒を飲み干す。
次の酒を頼むため、涙をぬぐって店内を見渡すと店員が見当たらず、さっきまで鳴り響いていた店内の音楽も止まっている。
見れば音楽団と客が口論のようになっており、何人かの店員たちもその仲裁だろう、音楽団と客の間に入ったり騒動の輪の外から様子をうかがったりしている。
「揉め事ですかね」とレミーが席を立つ。
「ん?どこ行くの」
「ちょっと私、止めてきますね」
「いやいや、こういうのに首突っ込まないほうがいいって」
俺の制止も聞かずにレミーは騒動の輪にスタスタと歩いていく。
いやいやいや、ダメだってば、と俺はヨロヨロとその後をついていく。
「どうかしたんですか」とレミーは騒動の輪の外で様子をうかがう店員に話しかける。
「ああ、なんでもあのお客さんたちが『俺の嫌いな音楽をやった』とかでね」
「何それ酷い!そんなの叩き出せばいいじゃないですか!」
「いやそれがまた、『俺たちはこのあたりの地主の知り合いだ』とか言って店長も困ってて」
「なんですかそれ!最悪ですね!」
レミーが腕まくりをして騒動の輪に入ろうとする。
「ちょ、ちょっと待って待って」と俺がレミーの前に割り込む。
「なんで止めるんですか、あんな奴らはぶっ飛ばしてやりゃいいんですよ!」
「暴力はよくない。暴力はよくないよ」
「だって!」と憤慨するレミーに「まあここは俺に任せて」となだめる。
揉めている客は3人。うすらハゲで筋肉質な中年男性と、痩せて背の高い男と、腹だけ出ている小柄な男。
その3人に狙いを定め、魔力を集中させる。
3人それぞれの記憶の海の底に沈む一番「優しい」記憶を引きずり出す。
3人ともそれぞれ幼少期の母の映像と音声だった。マザコンどもめ。
「あったかいスープ作っておくから早く帰っておいで」
「またアンタはママに心配ばかりかけて!」
「あなたが本当は優しい子なの、お母さんはちゃんと知ってるからね」
そんな記憶の映像と音声を3人の迷惑客の脳内にエンドレスでループさせる。エコー付きで。
1分も経たないうちに3人が3人ともその場に膝をつき、「ごめんよお母ちゃん!ごめんよ!」などとわめきながら子供のように大声を上げて泣き始めた。
泣き上戸ってやつか。まったく、飲み過ぎだよ。
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