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042 マリアたちの影
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「もおヤダ!もおムリ!俺はこの事件から手を引くからね!」
空になったジョッキをテーブルに叩きつけて俺はそう言った。
俺はシェリル、ジョシュア、ベアとともに、カーライルの街の酒場に来ていた。
マリアたち3姉妹と出会った酒場だ。
今日はマリアたちは来ていないが、その代わりレミーから早くも進呈された録音再生装置が先日の音楽会の音源を流しており、まだ物珍しい最新機器が気になるのだろう、店内は大勢の酔客でごった返している。
「そんなあ!そんなこと言わないでくださいよ!ちゃんと前金の15万ディルだって払ったじゃないですか!」
「返す!ほら、全額返すから!俺はもうやらないよ!」
「ちょっ!だ、ダメですよ!お願いしますよ!」
「俺、エレン、会いたい、頼む」
ジョシュアは前金の返金を必死に拒んでいる。
「だってマリアたち、全然どこにも見つからないじゃん!」
「ま、まだ1日目じゃないですか!」
1日。
ジョシュアの依頼によってマリアたちを探し始めて確かにまだ1日が終わったところだが、丸1日ぶっ通しで街中を探し回って手がかりさえも見つからないのだ。
今回はシシリーとバーグルーラはお留守番、レミーは「私は録音再生装置を大量生産しなきゃいけないのでパスで!」とのことで、俺とシェリルでジョシュアの依頼に応えることになった。街を歩いているといつの間にか、「エレン探す、俺、手伝う」とベアが後ろについてきていた。
この1日、街のあらゆる場所を歩き回ったが、記憶探知でも残留思念感応でも、何ひとつ手がかりを掴めなかった。
街のいたるところで流れてくる思念は男性を中心とした人々の「あの音楽会またやらないかな」「バーバラちゃんの歌が聴きたい」「サイン欲しい」「1日中エレンさんに甘えて過ごしたい」「あの新メンバーの娘はワシが育てる」「マリア様に叱られたい」などといった煩悩の数々ばかりで、肝心の彼女たちの行方はさっぱりわからないままだった。
「この1日だけで俺はもう充分に疲れ果てたよ!みんなバカみたいなことばっか考えてて頭は痛くなるし歩き回って脚もパンパンだし!」
「た、たった1日だけじゃないですかぁ!せめてもう1日!もう1日だけ!ね!」
「イヤだよ!もう騙されないぞ俺は!そう言えばこの間の迷宮だって『ちょっと入るだけ』っつって1週間も入らされたんじゃないか!」
「そ、それはそれ、これはこれ、じゃないですかぁ…!」
「一緒だよ!大体もう俺、明日は筋肉痛で一歩も動けないからね!」
「ちょ、ちょっと歩いただけでしょ!」
「どこがちょっとだよ!丸1日だよ!体力おばけの君たちと一緒にしないでよ!」
「俺、おばけ、違う」
「違わないよ!」
俺たちがギャーギャー言い争う姿に呆れたのか、「それにしても」とシェリルがクールに割って入った。
「本当にどこにも見当たらないわね」
そう。本当にマリアたちはどこにも見当たらなかった。その影さえも。
最初、マリアたちが誘拐されてしまっているとしたら急を要すると考え、俺はまず裏町の倉庫街に向かったのだった。
バルガルドが龍醒香薬という麻薬の取引をしていた人通りの少ない倉庫街。
そこで以前、俺を襲ったチンピラたちから一戦覚悟で話を聞くべく訪れたのだが、俺を見るなりチンピラたちは「お、お久しぶりです!アニキ!」などとペコペコし、すっかり無抵抗を決めていたものだったから話は早かった。誰がアニキじゃい。
蛇の道は蛇。
チンピラたちによると「もし誘拐なら俺たち麻薬グループじゃなくて、人身売買の組織の奴らですね」とのことで、俺たちはすぐにカーライルの東の外れにある大きな木材加工工場へと向かった。
その中には多数の闇組織メンバーとともに違法に取引されるはずの奴隷たちがいたが、魔導兵装を着込んだ俺によって闇組織メンバーは片っ端から蹴散らされ、すぐに奴らは「奴隷たちは全員解放するから許してください!」と命乞いをすることとなった。
それに対して俺が「まあそれはそうしてちょうだいよ。つうか人身売買なんてもうするなよな。でも今日の本題はそっちじゃなくてさ、ほらマリアたちって知ってる?」と聞くと、「当たり前じゃないっすか!俺らもあの音楽会、会場に行ってたんすよ!」「あ、そうなの?あれ俺たちが主催したんだよ」「えーマジすか!超最高でした!めっちゃアガりましたよ!」「ありがとありがと。で、そのマリアたちが最近見つからなくてさ、君ら居場所知らない?」「いや~わかんないすねえ…実は俺たちも探してんすけど…あ、もちろん変な目的じゃなくて、やホント、好きなんで!ちなみに俺、バーバラさん推しなんすよ!」などとわけのわからないことを言い、とにかくまあ、人身売買を生業とする裏社会の者たちでさえも、マリアたちの行方はわからないとのことだった。
そんなもん見つかるわけがない。
であるからこそ、先ほどから俺はジョシュアに依頼の取り下げを要求しているのだった。
「もうさ、やっぱりマリアたち、どこかに隠れちゃってんじゃないの?」
俺がそう言うと、突然「ティモシーさん」という声とともに背後から肩を叩かれた。
振り返ると後ろのテーブルで飲んでいた見知らぬ女性。
だが魔導具と思われる首輪を彼女がいじると、光に包まれその顔が変わる。
マリアだった。
「ちょっとほとぼりが冷めるまで、身を隠そうと思いまして」
やっぱりな。
俺の推理の通りだったじゃないか。
空になったジョッキをテーブルに叩きつけて俺はそう言った。
俺はシェリル、ジョシュア、ベアとともに、カーライルの街の酒場に来ていた。
マリアたち3姉妹と出会った酒場だ。
今日はマリアたちは来ていないが、その代わりレミーから早くも進呈された録音再生装置が先日の音楽会の音源を流しており、まだ物珍しい最新機器が気になるのだろう、店内は大勢の酔客でごった返している。
「そんなあ!そんなこと言わないでくださいよ!ちゃんと前金の15万ディルだって払ったじゃないですか!」
「返す!ほら、全額返すから!俺はもうやらないよ!」
「ちょっ!だ、ダメですよ!お願いしますよ!」
「俺、エレン、会いたい、頼む」
ジョシュアは前金の返金を必死に拒んでいる。
「だってマリアたち、全然どこにも見つからないじゃん!」
「ま、まだ1日目じゃないですか!」
1日。
ジョシュアの依頼によってマリアたちを探し始めて確かにまだ1日が終わったところだが、丸1日ぶっ通しで街中を探し回って手がかりさえも見つからないのだ。
今回はシシリーとバーグルーラはお留守番、レミーは「私は録音再生装置を大量生産しなきゃいけないのでパスで!」とのことで、俺とシェリルでジョシュアの依頼に応えることになった。街を歩いているといつの間にか、「エレン探す、俺、手伝う」とベアが後ろについてきていた。
この1日、街のあらゆる場所を歩き回ったが、記憶探知でも残留思念感応でも、何ひとつ手がかりを掴めなかった。
街のいたるところで流れてくる思念は男性を中心とした人々の「あの音楽会またやらないかな」「バーバラちゃんの歌が聴きたい」「サイン欲しい」「1日中エレンさんに甘えて過ごしたい」「あの新メンバーの娘はワシが育てる」「マリア様に叱られたい」などといった煩悩の数々ばかりで、肝心の彼女たちの行方はさっぱりわからないままだった。
「この1日だけで俺はもう充分に疲れ果てたよ!みんなバカみたいなことばっか考えてて頭は痛くなるし歩き回って脚もパンパンだし!」
「た、たった1日だけじゃないですかぁ!せめてもう1日!もう1日だけ!ね!」
「イヤだよ!もう騙されないぞ俺は!そう言えばこの間の迷宮だって『ちょっと入るだけ』っつって1週間も入らされたんじゃないか!」
「そ、それはそれ、これはこれ、じゃないですかぁ…!」
「一緒だよ!大体もう俺、明日は筋肉痛で一歩も動けないからね!」
「ちょ、ちょっと歩いただけでしょ!」
「どこがちょっとだよ!丸1日だよ!体力おばけの君たちと一緒にしないでよ!」
「俺、おばけ、違う」
「違わないよ!」
俺たちがギャーギャー言い争う姿に呆れたのか、「それにしても」とシェリルがクールに割って入った。
「本当にどこにも見当たらないわね」
そう。本当にマリアたちはどこにも見当たらなかった。その影さえも。
最初、マリアたちが誘拐されてしまっているとしたら急を要すると考え、俺はまず裏町の倉庫街に向かったのだった。
バルガルドが龍醒香薬という麻薬の取引をしていた人通りの少ない倉庫街。
そこで以前、俺を襲ったチンピラたちから一戦覚悟で話を聞くべく訪れたのだが、俺を見るなりチンピラたちは「お、お久しぶりです!アニキ!」などとペコペコし、すっかり無抵抗を決めていたものだったから話は早かった。誰がアニキじゃい。
蛇の道は蛇。
チンピラたちによると「もし誘拐なら俺たち麻薬グループじゃなくて、人身売買の組織の奴らですね」とのことで、俺たちはすぐにカーライルの東の外れにある大きな木材加工工場へと向かった。
その中には多数の闇組織メンバーとともに違法に取引されるはずの奴隷たちがいたが、魔導兵装を着込んだ俺によって闇組織メンバーは片っ端から蹴散らされ、すぐに奴らは「奴隷たちは全員解放するから許してください!」と命乞いをすることとなった。
それに対して俺が「まあそれはそうしてちょうだいよ。つうか人身売買なんてもうするなよな。でも今日の本題はそっちじゃなくてさ、ほらマリアたちって知ってる?」と聞くと、「当たり前じゃないっすか!俺らもあの音楽会、会場に行ってたんすよ!」「あ、そうなの?あれ俺たちが主催したんだよ」「えーマジすか!超最高でした!めっちゃアガりましたよ!」「ありがとありがと。で、そのマリアたちが最近見つからなくてさ、君ら居場所知らない?」「いや~わかんないすねえ…実は俺たちも探してんすけど…あ、もちろん変な目的じゃなくて、やホント、好きなんで!ちなみに俺、バーバラさん推しなんすよ!」などとわけのわからないことを言い、とにかくまあ、人身売買を生業とする裏社会の者たちでさえも、マリアたちの行方はわからないとのことだった。
そんなもん見つかるわけがない。
であるからこそ、先ほどから俺はジョシュアに依頼の取り下げを要求しているのだった。
「もうさ、やっぱりマリアたち、どこかに隠れちゃってんじゃないの?」
俺がそう言うと、突然「ティモシーさん」という声とともに背後から肩を叩かれた。
振り返ると後ろのテーブルで飲んでいた見知らぬ女性。
だが魔導具と思われる首輪を彼女がいじると、光に包まれその顔が変わる。
マリアだった。
「ちょっとほとぼりが冷めるまで、身を隠そうと思いまして」
やっぱりな。
俺の推理の通りだったじゃないか。
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