王宮を追放された俺のテレパシーが世界を変える?いや、そんなことより酒でも飲んでダラダラしたいんですけど。

タヌオー

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058 悪酔い

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魔大陸に向かうため、俺たちはカーライルの南に位置する港町、ペールポートにやって来た。
港の先に広がる海の向こうには魔大陸があり、事実ペールポートでは一部の魔族との商取引も、非公式にではあるが行っている。
ペールポートまではシシリーの空間魔術による光の輪を通れば一瞬。本当に便利だ。

俺たちが港にある一番大きな建物、漁師組合本部に訪れると、組合長が満面の笑みで出迎えてくれた。

「よく来てくれたな!よぉし飲もう!この街で一番いい店に連れて行ってやる!」

大股でズンズンと歩いていく組合長についていくと、そこは海に面したレストラン。
水平線に沈む夕日が見えるテラス席に案内され、俺たちが席に着くや否や、大量の料理と酒が次々と運び込まれてきた。
蒸し上げられた二枚貝が大盛りになった皿、大きなハサミを持つエビ、立派な魚が様々な香味野菜とともに煮込まれたスープなどなど、テーブルに所狭しと並べられた。

めちゃくちゃ美味しかった。
前回、二日酔いで食べられなかった悔しさを忘れるほど美味しかった。

料理を食べ終えると、はちきれそうになった腹をさすりながら、俺たちは葡萄酒を飲んだ。
これもさっぱりした辛口が料理の脂を洗い流してくれるようで本当に美味しく、1人あたり2~3本は飲んだんじゃないか。
満腹でもなぜか酒だけは入るのだから人体は不思議だ。

俺は葡萄酒から切り替えた火酒かしゅの水割りのグラスをテーブルに置いてみんなに言った。

「大体なんで君たちはさぁ、いつもいつも俺をこう、危ないところへ危ないところへ連れて行こうとするわけぇ?」
「何言ってんですかティモシーさん!それを言うなら楽しいところへ楽しいところへ連れて行ってるんですよ!」
「楽しかないでしょうよぉ!俺が連れてかれたのなんてほら、ジメジメした迷宮だとか7日間出られない暗い森だとかゾンビが出る墓地だとか、そういうとこばっかじゃないのよぉ、そんで今度は魔大陸でしょお?」
「アタシは大冒険って感じで楽しいよ!」
「そらシシリーはいいよぉ強いんだから、空だって飛べるしさぁ、でも俺なんか例えばちょっとヘビか何かに噛まれたりしただけであっという間に死んじゃうんだよぉ?」
「ヘビは美味しいんだよ?」
「え、そうなの?ていうかそういう問題じゃないでしょ!俺はかよわいんだよって話」
「私が守るわ」
「おお、ありがとう、シェリルには感謝してるよぉホントに、でもその前にさ、そもそも連れて行かなきゃ守るまでもなく俺は安全なわけじゃないのよ」
「だってそれじゃ面白くないじゃないですか!」
「いや俺は君たちのオモシロの道具じゃあないんだぞ?」
「まあまあ別に何でもいいじゃないですか、ほら、おかわりですよ!飲んで飲んで!」
「あ、おお、ありがと…ん、…ん、…かぁ~っ!やっぱ旨いね!結局やっぱ水割りに戻ってくるよね人類ってやつは」
「ですねですね」
「で、だ。そんで話は魔大陸だよ。ね?魔大陸。どうしてかよわい俺がね、そんな危ないところに行かなきゃいけないわけ?って話。俺なんか死んじゃうよ?すぐに」
「私が守るわ」
「おお、だから話が平行線だなこりゃ、危ない魔大陸に行かなきゃそもそも守る必要もないでしょって話よ」
<魔大陸はそれほど危険な場所ではないぞ>
「いや、そりゃバーグルーラにとっちゃそうだろうけどさぁ、怖い魔族だっていっぱいいるわけでしょぉ?」
<魔族は怖くなどないぞ>
「だからそりゃバーグルーラからすればの話でしょ?」

「いや、魔族は本当に気のいいヤツらばかりだぞ」

ちょっとトイレに行っていた組合長が席に戻るなりそう言った。

「俺たちが取り引きしてる魔族はもちろんだが、それ以外の魔族も実は時々この街に来るんだけどよ、暴れたり悪いことしたりするヤツなんて1人もいねえぞ?」

俺は組合長の目をじっと見る。

「…そうなの?」

組合長は大きく頷いて「間違いねえな」と言った。

「たぶん今の酔っ払ったお前に比べたら魔族なんてみんな聖人君子みたいなもんだ」

あれ?
俺ちょっと悪い酔い方してる?

いずれにしても、俺の魔族観は根底から覆された。
まあ確かに、実際会ったこともないのに怖がるのは失礼な話だよな。

「とりあえず明日、取り引きしてる魔族のヤツを紹介するからよ、魔大陸までそいつに連れてってもらえばいいんじゃねえかな」


…………………………………………


「やぁ初めまして!僕はエルムリルセレナ!気軽にエルムって呼んでよ!君がセイレーンの問題を解決したっていうティモシー?いやぁ会えて嬉しいよ!僕たちもセイレーンにはしょっちゅう眠らされちゃって困ってたんだ!おかげで航海しやすくなって助かってるよ!ありがとう!」

組合長からの紹介のあと、早口でそう言ってエルムは俺の手を力強く握った。

エルムは緑色の肌で小さな角が2本生えているが、少し長めでサラサラした髪が柔らかそうな頬にかかる可愛らしい少年だった。
ただ、見た目は少年だがこれですでに成人だという。そういう種族なのだそうだ。

「年齢?いや、いくつだったかなぁ。確か5000歳くらいだったと思うけど、途中から数えるのやめちゃったんだよね!」

めっちゃ年上。超先輩じゃん。
少しかしこまってしまった俺の肩をエルムはポンポンと叩いた。

「敬語なんてやめてよ!僕たち魔族はみんな長生きだから、年齢の上下関係なんてないんだよ!もちろん魔王様とか偉い人には敬語も使うけどね!気楽に行こう!さあ乗って乗って!僕たちが魔大陸まで案内するよ!」

エルムに促されて俺たちは彼の船に乗り込んだ。
乗り込むと船員たちも「よろしくな!」「魔大陸まで来てくれるんだって?嬉しいなあ!」「いい船の旅にしようね!」などと次々と挨拶をしてくれた。

魔族はみんな、本当にいい人たちだった。

船はゆったりした速度で、ペールポートの港を離れていった。
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