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コタツ狂騒曲
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あるちいさな町のそばに、ちいさな森がありました。
そこにはなかよしの動物たちがくらしています。
森に住むリスのきょうだい、リーさんとスーさんは冬のさむさもなんのその。毎日元気にとびまわっているのでした。
ときには森をぬけ、町まであそびにゆくのです。
おにいさんリスのリーさんは電線のうえを先にゆきます。やわらかなお日さまの光が電線から落ちたしずくをキラキラとかがやかせていました。それをうっとりと見おろしていたおとうとリスのスーさんに、リーさんは首をかしげます。
「スー、おちないように気をつけるんだよ」
「ぼく、おちたりしないよ」
スーさんはもうりっぱなおとなリスのつもりです。そんなことをいわれてムッとしました。
リーさんはやさしくわらって空を見あげました。
「もうすぐ雪がふるよ。さむいのはいやだね。森のみんなもさむいのはきらいだ」
スーさんもうなずきました。
「うん。さむいとそのまま起きられなくなって、死んでしまうこともあるもの。どうやったらみんなであたたかく冬をすごせるんだろうね」
電線のうえで、二匹はうぅんと考え込みました。
そんなとき、電線のしたを歩くニンゲンの親子が楽しそうに手をつなぎながら話す声がきこえたのです。
「おかあさん、今日こそ『オコタ』出してね」
「あらあら、ユキちゃんは本当に『オコタ』がだいすきね」
ニンゲンの女の子は大きくうなずきました。
「うん、だいすき。だって、すごくあったかくて幸せな気もちになれるから」
「そうねえ。『オコタ』に勝てるヒトはきっといないわね」
女の子のお母さんもそういって笑いました。そうして、ニンゲンの親子は去っていったのです。
リスのきょうだいは電線のうえで顔を見合わせました。
「今の、きいたかい?」
「うん、きいた」
「『オコタ』があればあったかで幸せになれるんだって」
「でも、『オコタ』ってなんだろう?」
「なんだろうね?」
二匹はそろってうでを組んでうぅんとなやみました。でも、知らないのですから答えは出ません。
リーさんはぽん、と手を打ちました。
「よし、森に帰ってもの知りなチョウロウにきいてみよう」
「よし、帰ろう帰ろう」
森へもどってすぐ、リーさんとスーさんはチョウロウのいる木のうろへ走りました。
「チョウロウ、チョウロウ」
「教えてほしいことがあります」
いちばんの長生きをしているおじいさんリスのチョウロウは、ねむたそうな目をこすりながらいいました。
「なんだい? どうしたんだい?」
「チョウロウ、『オコタ』とはなんですか?」
リーさんがたずねます。
「ニンゲンの親子がいってたのです。『オコタ』があれば幸せになれるって」
スーさんも目をかがやかせて、期待いっぱいの顔でチョウロウのことばを待ちました。
チョウロウはふむふむ、とシッポの毛づくろいをしながら答えてくれました。
「その『オコタ』というのは『コタツ』のことではないかな」
「コ、タ、ツ?」
二匹は床に頭がつくくらいに首をかしげました。
チョウロウはそんな二匹にキュキュキュと笑いました。
「ここをさんぽ道にしている飼いネコのパコが『コタツ』ほどよいものはないとジマンしていたよ」
「そうなのですか? やっぱり、『コタツ』があればみんな幸せになれるのですね」
「『コタツ』はどこへいけばもらえるのでしょう?」
二匹の夢はふくらみます。うっとりと、まだ見ぬ『コタツ』のすがたを想像しようとするのですが、手がかりがあまりにもありません。
「その、飼いネコのパコさんに会えばいいんだ」
「そうしたら、『コタツ』のありかを教えてもらえるね」
リーさんとスーさんはうなずき合うとチョウロウにお礼をいって木のうろを出ました。チョウロウが最後にあわててなにかをいいましたが、もう二匹の耳にはとどいていません。
さて、飼いネコのパコさんにはどこへゆけば会えるのでしょうか。
二匹は町に近い森の入り口のあたりでパコさんを待つことにしました。じっとしていると寒いので、二匹で輪になって踊りながら待ちました。
そうしていると、一匹のぶちネコが現れたのです。大きな鈴が首にあります。カランコロンと鳴っています。
「もしかして、パコさんですか?」
リーさんが礼儀ただしくたずねます。
すると、ネコはすぅっと目を細めました。
「そうだけど、どうしてワタシのことを知っているんだい?」
「リスのチョウロウに聞きました。パコさん、ぼくはリー、こっちはおとうとのスーといいます。ぼくたち『コタツ』のことが知りたいんです。パコさんは知っているのでしょう? どうか教えてください」
パコさんは、『コタツ』ねえといって細いシッポをゆらゆらしました。
そうして、見あげるリーさんとスーさんに向かって笑いました。その笑顔は口がさけたように見えてすこしだけこわかったりもします。
「いいよ、『コタツ』のあるところに連れていってあげるよ」
「ほんとうですか?」
「わあい、ありがとう」
二匹は手をとり合ってとびはねて喜びます。でも、パコさんはいいました。
「さあ、狩りの時間だねぇ」
ぺろり、と舌を出すしぐさに、リーさんとスーさんはふるえあがりました。二匹はいちもくさんににげます。あのするどい爪にひっかかれたら大変です。木のうえ、した、うえ、した、よこ、それはいっしょうけんめいににげました。
そうして最初に根をあげたのはパコさんでした。
「フゥ、フゥ、なんてすばしっこいリスたちだ。負けたよ、その走りにめんじて教えてやろう。『コタツ』というのはね、ニンゲンの家にある四角いあったかい箱のことさ。中は赤くて、ふとんがかけてあるんだ。ニンゲンたちはそこへ足を入れてあったまるんだよ」
「そうなんだ? うん、教えてくれてありがとう」
スーさんは追いかけまわされたことは水にながしてお礼をいいました。パコさんはゼェゼェフゥフゥいいながら立ちあがります。
「ワタシももう若くないんだ。帰って『コタツ』に入って休むよ。じゃあね」
「はい、さようなら」
二匹は手をふってパコさんを見おくりました。
「四角い箱におふとんをかけたら『コタツ』のかんせいだ。これならぼくたちにも作れるね」
リーさんが力づよくいいます。スーさんもうなずきました。
「赤くなくちゃいけないんだよ。赤い箱だよ」
「うん、心当りがあるよ」
二匹はおうちに帰りました。おうちの木の根もとにためこんであった、役に立ちそうな拾いものの中に、マッチ箱があります。それから、秋に色づいて落ちた葉っぱが。
「ほら、赤い箱。それから落ち葉のおふとん」
マッチ箱はたしかに赤かったのです。二匹はウキウキとマッチ箱をひっぱって開けました。中は白いのですが、そのときは気になりませんでした。小さな箱なので片足ずつしか入りません。よりそって、片足ずつをマッチ箱に入れ、うえに赤く色づいた落ち葉をかけました。
「これが『コタツ』」
「あったかい『コタツ』」
じぃん、と感動のしゅんかんでした。
なんとなくあたたかい気がしました。幸せな気もしました。
やっぱり、『コタツ』はみんなを幸せにするすごいものなのです。リーさんとスーさんは顔を見合わせてそう思いました。
「『コタツ』っていいね。でも、この『コタツ』は小さすぎる。もっともっと大きな『コタツ』を作ってみんなであったまりたいね」
ぽつりといったリーさんの言葉に、スーさんは目をキラキラとかがやかせました。
「いいね、そうしようよ。大きな大きな『コタツ』を作ろう」
「ぼくたちだけじゃムリだ。よし、みんなに声をかけてまわろう」
二匹はそう思い立ったので、二匹だけの小さな『コタツ』から足を抜いて出かけることにしました。
大きな『コタツ』に必要なのは、まず大きな『コタツ』がおける場所です。これは森の原っぱにします。
つぎに必要なものは、大きな箱です。大きな箱は簡単には手に入りません。二匹はまず力もちのクマのワグさんをたよりました。
ワグさんは眠そうです。
「なんだ、どうした? オレはもうすぐ冬眠するんだから準備で忙しいんだぞ」
二匹はそれをきいてあわてました。
「ワグさんワグさん、その前に『コタツ』でいっしょにあったまろうよ」
「そうだよ、『コタツ』って幸せになれるんだよ」
「なんだそれは?」
つぶやきながらワグさんのまぶたがおりてしまったので、二匹はワグさんのからだにのぼると右と左のまぶたをひっぱって持ち上げました。
「まだねちゃダメ」
「起きて起きて」
ワグさんはしぶしぶ目を開けてくれました。
「ふぁあ、まったく、困ったやつらだ。それで、その『コタツ』ってのはなんだ?」
二匹は身ぶり手ぶりで説明します。ワグさんはようやくわかってくれました。
「なるほど。大きな箱に大きな布をかけるんだな? でも、森のみんなが足を入れるほど大きな箱を作るのはむずかしい。四角く線をひいて、そこへ布をかけられるように石をつんでいったらどうだ? 四隅の大きな岩はオレがはこんでやるから。イノシシのウリーにも手つだってもらうよ」
イノシシのウリーさんも力もちです。これは期待できそうです。
リーさんはウキウキといいました。
「うん、そうだね。ありがとうワグさん」
「ウリーさんによろしく。ぼくたちは布をさがしてくるね」
二匹はそういってワグさんのねぐらを出ます。
大きな箱は解決しました。でも、大きな布は大きな箱以上にむずかしいのでした。
「大きな布はどこで手に入るのかな?」
「うぅん、そうだなぁ」
テクテクと歩いていると、とちゅうでオオカミのオカさんに出会いました。オカさんは気さくなおにいさんオオカミです。
「やあ、リー、スー、考えこんでどうしたんだい?」
「ああ、オカさん。実はね、大きな『コタツ』を作るために大きな布をさがしているんだ」
二匹が『コタツ』について説明すると、オカさんはあっさりといいました。
「町に探しにいけばいいんじゃないか? ニンゲンはすぐになんでも捨てるから、大きな布もあるんじゃないかな?」
「なるほどね」
オカさんはさらにいいます。
「うん、カラスのカーラにたのんでひとっとびして見てきてもらおうか。もしあったらボクも手つだってはこんであげるよ」
「ありがとう、オカさん。じゃあ、ぼくたちは原っぱで『コタツ』の組み立てを手つだっているよ」
リーさんとスーさんはそこでオカさんと別れると原っぱに向いました。
原っぱではクマのワグさんとイノシシのウリーさん、それからシカのシィさんが大きな石をおしてせっせと『コタツ』の土台を作ってくれていました。手つだいたいのはやまやまですが、リーさんとスーさんでは自分たちの体の何倍もある岩ははこべません。
「がんばれがんばれ」
「フレーフレー」
はこばれてゆく岩に乗っておうえんします。力もちのワグさんたちは笑いました。
「気もちはうけとっておくから、ここはオレたちにまかせて、お前たちは森のみんなを『コタツ』に招待してこいよ」
二匹は顔を見合わせ、大きくうなずきました。
「わかったよ。いってくるね」
「がんばってね」
まずはチョウロウのところにゆき、その足で穴ぐらに住むタヌキのポンさん、ウサギのウッさんに呼びかけました。
「みんなであったかくて幸せな『コタツ』に入ろう」
「これで冬もあんしんだよ」
みんな、きょうみしんしんです。
「うん、いこういこう」
キツネのコンさんにフクロウのローさん、みんながつぎつぎに原っぱに集まります。
原っぱにはオオカミのオカさんとカラスのカーラさん、それからサルのおねえさんのルルさんがいました。二匹と一羽は大きな布をさがしてきてくれたのです。
「大きな布は小さな布をつないで作ったよ。いくつか集めてきたからな」
「わたしがつないであげたのよ」
サルのルルさんは得意げにいいました。ルルさんは森でいちばん器用なのです。茶色の毛布、花がらのカーテン、草色のタオル、たくさんの布のカドをじょうずにむすんで大きな布にしてくれました。じゅんちょうに『コタツ』はできあがっていくのです。リーさんとスーさんは小さな胸をワクワクとときめかせていました。
「おおい、土台ができたぞ」
クマのワグさんがそうさけびました。四角くつみあげられた石は、大きな箱のかたちになっています。森のみんなが入れる大きな箱です。
「うわぁい、ありがとう」
「ありがとう」
リーさんとスーさんはとびはねて喜びをひょうげんしました。
「よし、このうえに大きな布をかければ『コタツ』のかんせいだな?」
オオカミのオカさんがたずねます。
「うん、そうだよ」
リーさんがうなずくと、カラスのカーラさんとフクロウのローさん、それからおくれてやってきたワシのワッシさんがまえに出ました。
「よし、おれたちが大きな布をうえにかけてやろう」
ワッシさんがたのもしくいいます。リーさんとスーさんは大喜びでたのみました。
「もうすぐだね」
みんな、期待いっぱいに空を見あげました。トリさんたちが大きな布をせっせともちあげます。ワッシさんがグイグイひっぱり、カーラさんとローさんがそれを手つだいます。土台にふわりとかけられた大きな布は、見るからにあったかそうでした。
「かんせいだかんせいだ」
「くろうしたかいがあったな」
「うん、りっぱな『コタツ』だ」
森のみんなはそういって喜びました。
けれど、リーさんとスーさんは大切なことを忘れていたのです。
「『コタツ』は、赤くなきゃいけないんだった!」
「そうだよ、『コタツ』は赤いんだ!」
冬の原っぱは茶色、土台の石や岩は灰色、大きな布は色とりどり。けっして赤いとはいえません。赤い落ち葉ももう風でとんでいってほとんど残っていないのです。
みんなできょうりょくして作りあげたはずの『コタツ』が、自分たちのせいで台なしになってしまいました。あまりのかなしさにリーさんとスーさんは泣き出してしまいました。
「みんな、ごめんなさい。ぼくがうっかりしていたから」
「せっかくここまでできたのに」
うわんうわんと泣く二匹に、森のみんなは困ってしまいました。いつも元気な二匹が泣くと、みんなかなしい気もちになるのです。
「そんなに泣かなくてもいい。みんな楽しかったよ」
「そうだよ。しっぱいしてもまた作りなおせばいいんだ」
「ほら、たくさん動いたからからだはポカポカさ」
みんな、くちぐちにやさしくなぐさめてくれます。そんなやさしいみんながだいすきで、喜んでほしかったのにと涙がとまりません。
どれくらい泣いていたのでしょうか。いつの間にか空にあったお日さまがしずみかけていました。
さいしょに大きな声をあげたのはキツネのコンさんでした。
「あ、あれ!」
先っちょの黒いコンさんの手が指したのは、大きなしっぱい作の『コタツ』でした。涙でぼやけたどんぐりのような目でリーさんとスーさんはその『コタツ』を見ました。すると、『コタツ』は赤かったのです。
しずむ夕日が大きな『コタツ』を赤くそめていました。
「『コタツ』!」
「赤い『コタツ』!」
リーさんとスーさんは手をとり合ってさけびました。
「さあ、みんないそげ! いそいで足を入れるんだ!」
クマのワグさんが大きな声で呼びかけます。みんな、大いそぎで『コタツ』に足を入れました。
大きな『コタツ』を森のみんながぐるりと囲んでいます。みんなの笑顔も赤くそまっています。
それは、がんばった森のみんなへの、お日さまからのごほうびだったのかも知れません。
「ポカポカの『コタツ』!」
「楽しい『コタツ』!」
「幸せな『コタツ』!」
みんなで作りあげた大きな『コタツ』にみんなで入ることができて、リーさんとスーさんの涙もとまりました。ニコニコと元気な笑顔でいうのです。
「『コタツ』っていいね」
「うん、これで冬もあったかだね」
みんなで作った『コタツ』のあたたかさを、どんなにさむい冬がきても忘れることはありません。
ポカポカと心にあたたかな『コタツ』があるのです。
そうして冬をこせば、春がやってきます。そうして、夏が。つぎに秋が。
リーさんとスーさんは笑い合いました。
「来年もまた、『コタツ』を作ろうね」
「そうしよう。みんなで入れる大きな『コタツ』をね」
☆おわり☆
そこにはなかよしの動物たちがくらしています。
森に住むリスのきょうだい、リーさんとスーさんは冬のさむさもなんのその。毎日元気にとびまわっているのでした。
ときには森をぬけ、町まであそびにゆくのです。
おにいさんリスのリーさんは電線のうえを先にゆきます。やわらかなお日さまの光が電線から落ちたしずくをキラキラとかがやかせていました。それをうっとりと見おろしていたおとうとリスのスーさんに、リーさんは首をかしげます。
「スー、おちないように気をつけるんだよ」
「ぼく、おちたりしないよ」
スーさんはもうりっぱなおとなリスのつもりです。そんなことをいわれてムッとしました。
リーさんはやさしくわらって空を見あげました。
「もうすぐ雪がふるよ。さむいのはいやだね。森のみんなもさむいのはきらいだ」
スーさんもうなずきました。
「うん。さむいとそのまま起きられなくなって、死んでしまうこともあるもの。どうやったらみんなであたたかく冬をすごせるんだろうね」
電線のうえで、二匹はうぅんと考え込みました。
そんなとき、電線のしたを歩くニンゲンの親子が楽しそうに手をつなぎながら話す声がきこえたのです。
「おかあさん、今日こそ『オコタ』出してね」
「あらあら、ユキちゃんは本当に『オコタ』がだいすきね」
ニンゲンの女の子は大きくうなずきました。
「うん、だいすき。だって、すごくあったかくて幸せな気もちになれるから」
「そうねえ。『オコタ』に勝てるヒトはきっといないわね」
女の子のお母さんもそういって笑いました。そうして、ニンゲンの親子は去っていったのです。
リスのきょうだいは電線のうえで顔を見合わせました。
「今の、きいたかい?」
「うん、きいた」
「『オコタ』があればあったかで幸せになれるんだって」
「でも、『オコタ』ってなんだろう?」
「なんだろうね?」
二匹はそろってうでを組んでうぅんとなやみました。でも、知らないのですから答えは出ません。
リーさんはぽん、と手を打ちました。
「よし、森に帰ってもの知りなチョウロウにきいてみよう」
「よし、帰ろう帰ろう」
森へもどってすぐ、リーさんとスーさんはチョウロウのいる木のうろへ走りました。
「チョウロウ、チョウロウ」
「教えてほしいことがあります」
いちばんの長生きをしているおじいさんリスのチョウロウは、ねむたそうな目をこすりながらいいました。
「なんだい? どうしたんだい?」
「チョウロウ、『オコタ』とはなんですか?」
リーさんがたずねます。
「ニンゲンの親子がいってたのです。『オコタ』があれば幸せになれるって」
スーさんも目をかがやかせて、期待いっぱいの顔でチョウロウのことばを待ちました。
チョウロウはふむふむ、とシッポの毛づくろいをしながら答えてくれました。
「その『オコタ』というのは『コタツ』のことではないかな」
「コ、タ、ツ?」
二匹は床に頭がつくくらいに首をかしげました。
チョウロウはそんな二匹にキュキュキュと笑いました。
「ここをさんぽ道にしている飼いネコのパコが『コタツ』ほどよいものはないとジマンしていたよ」
「そうなのですか? やっぱり、『コタツ』があればみんな幸せになれるのですね」
「『コタツ』はどこへいけばもらえるのでしょう?」
二匹の夢はふくらみます。うっとりと、まだ見ぬ『コタツ』のすがたを想像しようとするのですが、手がかりがあまりにもありません。
「その、飼いネコのパコさんに会えばいいんだ」
「そうしたら、『コタツ』のありかを教えてもらえるね」
リーさんとスーさんはうなずき合うとチョウロウにお礼をいって木のうろを出ました。チョウロウが最後にあわててなにかをいいましたが、もう二匹の耳にはとどいていません。
さて、飼いネコのパコさんにはどこへゆけば会えるのでしょうか。
二匹は町に近い森の入り口のあたりでパコさんを待つことにしました。じっとしていると寒いので、二匹で輪になって踊りながら待ちました。
そうしていると、一匹のぶちネコが現れたのです。大きな鈴が首にあります。カランコロンと鳴っています。
「もしかして、パコさんですか?」
リーさんが礼儀ただしくたずねます。
すると、ネコはすぅっと目を細めました。
「そうだけど、どうしてワタシのことを知っているんだい?」
「リスのチョウロウに聞きました。パコさん、ぼくはリー、こっちはおとうとのスーといいます。ぼくたち『コタツ』のことが知りたいんです。パコさんは知っているのでしょう? どうか教えてください」
パコさんは、『コタツ』ねえといって細いシッポをゆらゆらしました。
そうして、見あげるリーさんとスーさんに向かって笑いました。その笑顔は口がさけたように見えてすこしだけこわかったりもします。
「いいよ、『コタツ』のあるところに連れていってあげるよ」
「ほんとうですか?」
「わあい、ありがとう」
二匹は手をとり合ってとびはねて喜びます。でも、パコさんはいいました。
「さあ、狩りの時間だねぇ」
ぺろり、と舌を出すしぐさに、リーさんとスーさんはふるえあがりました。二匹はいちもくさんににげます。あのするどい爪にひっかかれたら大変です。木のうえ、した、うえ、した、よこ、それはいっしょうけんめいににげました。
そうして最初に根をあげたのはパコさんでした。
「フゥ、フゥ、なんてすばしっこいリスたちだ。負けたよ、その走りにめんじて教えてやろう。『コタツ』というのはね、ニンゲンの家にある四角いあったかい箱のことさ。中は赤くて、ふとんがかけてあるんだ。ニンゲンたちはそこへ足を入れてあったまるんだよ」
「そうなんだ? うん、教えてくれてありがとう」
スーさんは追いかけまわされたことは水にながしてお礼をいいました。パコさんはゼェゼェフゥフゥいいながら立ちあがります。
「ワタシももう若くないんだ。帰って『コタツ』に入って休むよ。じゃあね」
「はい、さようなら」
二匹は手をふってパコさんを見おくりました。
「四角い箱におふとんをかけたら『コタツ』のかんせいだ。これならぼくたちにも作れるね」
リーさんが力づよくいいます。スーさんもうなずきました。
「赤くなくちゃいけないんだよ。赤い箱だよ」
「うん、心当りがあるよ」
二匹はおうちに帰りました。おうちの木の根もとにためこんであった、役に立ちそうな拾いものの中に、マッチ箱があります。それから、秋に色づいて落ちた葉っぱが。
「ほら、赤い箱。それから落ち葉のおふとん」
マッチ箱はたしかに赤かったのです。二匹はウキウキとマッチ箱をひっぱって開けました。中は白いのですが、そのときは気になりませんでした。小さな箱なので片足ずつしか入りません。よりそって、片足ずつをマッチ箱に入れ、うえに赤く色づいた落ち葉をかけました。
「これが『コタツ』」
「あったかい『コタツ』」
じぃん、と感動のしゅんかんでした。
なんとなくあたたかい気がしました。幸せな気もしました。
やっぱり、『コタツ』はみんなを幸せにするすごいものなのです。リーさんとスーさんは顔を見合わせてそう思いました。
「『コタツ』っていいね。でも、この『コタツ』は小さすぎる。もっともっと大きな『コタツ』を作ってみんなであったまりたいね」
ぽつりといったリーさんの言葉に、スーさんは目をキラキラとかがやかせました。
「いいね、そうしようよ。大きな大きな『コタツ』を作ろう」
「ぼくたちだけじゃムリだ。よし、みんなに声をかけてまわろう」
二匹はそう思い立ったので、二匹だけの小さな『コタツ』から足を抜いて出かけることにしました。
大きな『コタツ』に必要なのは、まず大きな『コタツ』がおける場所です。これは森の原っぱにします。
つぎに必要なものは、大きな箱です。大きな箱は簡単には手に入りません。二匹はまず力もちのクマのワグさんをたよりました。
ワグさんは眠そうです。
「なんだ、どうした? オレはもうすぐ冬眠するんだから準備で忙しいんだぞ」
二匹はそれをきいてあわてました。
「ワグさんワグさん、その前に『コタツ』でいっしょにあったまろうよ」
「そうだよ、『コタツ』って幸せになれるんだよ」
「なんだそれは?」
つぶやきながらワグさんのまぶたがおりてしまったので、二匹はワグさんのからだにのぼると右と左のまぶたをひっぱって持ち上げました。
「まだねちゃダメ」
「起きて起きて」
ワグさんはしぶしぶ目を開けてくれました。
「ふぁあ、まったく、困ったやつらだ。それで、その『コタツ』ってのはなんだ?」
二匹は身ぶり手ぶりで説明します。ワグさんはようやくわかってくれました。
「なるほど。大きな箱に大きな布をかけるんだな? でも、森のみんなが足を入れるほど大きな箱を作るのはむずかしい。四角く線をひいて、そこへ布をかけられるように石をつんでいったらどうだ? 四隅の大きな岩はオレがはこんでやるから。イノシシのウリーにも手つだってもらうよ」
イノシシのウリーさんも力もちです。これは期待できそうです。
リーさんはウキウキといいました。
「うん、そうだね。ありがとうワグさん」
「ウリーさんによろしく。ぼくたちは布をさがしてくるね」
二匹はそういってワグさんのねぐらを出ます。
大きな箱は解決しました。でも、大きな布は大きな箱以上にむずかしいのでした。
「大きな布はどこで手に入るのかな?」
「うぅん、そうだなぁ」
テクテクと歩いていると、とちゅうでオオカミのオカさんに出会いました。オカさんは気さくなおにいさんオオカミです。
「やあ、リー、スー、考えこんでどうしたんだい?」
「ああ、オカさん。実はね、大きな『コタツ』を作るために大きな布をさがしているんだ」
二匹が『コタツ』について説明すると、オカさんはあっさりといいました。
「町に探しにいけばいいんじゃないか? ニンゲンはすぐになんでも捨てるから、大きな布もあるんじゃないかな?」
「なるほどね」
オカさんはさらにいいます。
「うん、カラスのカーラにたのんでひとっとびして見てきてもらおうか。もしあったらボクも手つだってはこんであげるよ」
「ありがとう、オカさん。じゃあ、ぼくたちは原っぱで『コタツ』の組み立てを手つだっているよ」
リーさんとスーさんはそこでオカさんと別れると原っぱに向いました。
原っぱではクマのワグさんとイノシシのウリーさん、それからシカのシィさんが大きな石をおしてせっせと『コタツ』の土台を作ってくれていました。手つだいたいのはやまやまですが、リーさんとスーさんでは自分たちの体の何倍もある岩ははこべません。
「がんばれがんばれ」
「フレーフレー」
はこばれてゆく岩に乗っておうえんします。力もちのワグさんたちは笑いました。
「気もちはうけとっておくから、ここはオレたちにまかせて、お前たちは森のみんなを『コタツ』に招待してこいよ」
二匹は顔を見合わせ、大きくうなずきました。
「わかったよ。いってくるね」
「がんばってね」
まずはチョウロウのところにゆき、その足で穴ぐらに住むタヌキのポンさん、ウサギのウッさんに呼びかけました。
「みんなであったかくて幸せな『コタツ』に入ろう」
「これで冬もあんしんだよ」
みんな、きょうみしんしんです。
「うん、いこういこう」
キツネのコンさんにフクロウのローさん、みんながつぎつぎに原っぱに集まります。
原っぱにはオオカミのオカさんとカラスのカーラさん、それからサルのおねえさんのルルさんがいました。二匹と一羽は大きな布をさがしてきてくれたのです。
「大きな布は小さな布をつないで作ったよ。いくつか集めてきたからな」
「わたしがつないであげたのよ」
サルのルルさんは得意げにいいました。ルルさんは森でいちばん器用なのです。茶色の毛布、花がらのカーテン、草色のタオル、たくさんの布のカドをじょうずにむすんで大きな布にしてくれました。じゅんちょうに『コタツ』はできあがっていくのです。リーさんとスーさんは小さな胸をワクワクとときめかせていました。
「おおい、土台ができたぞ」
クマのワグさんがそうさけびました。四角くつみあげられた石は、大きな箱のかたちになっています。森のみんなが入れる大きな箱です。
「うわぁい、ありがとう」
「ありがとう」
リーさんとスーさんはとびはねて喜びをひょうげんしました。
「よし、このうえに大きな布をかければ『コタツ』のかんせいだな?」
オオカミのオカさんがたずねます。
「うん、そうだよ」
リーさんがうなずくと、カラスのカーラさんとフクロウのローさん、それからおくれてやってきたワシのワッシさんがまえに出ました。
「よし、おれたちが大きな布をうえにかけてやろう」
ワッシさんがたのもしくいいます。リーさんとスーさんは大喜びでたのみました。
「もうすぐだね」
みんな、期待いっぱいに空を見あげました。トリさんたちが大きな布をせっせともちあげます。ワッシさんがグイグイひっぱり、カーラさんとローさんがそれを手つだいます。土台にふわりとかけられた大きな布は、見るからにあったかそうでした。
「かんせいだかんせいだ」
「くろうしたかいがあったな」
「うん、りっぱな『コタツ』だ」
森のみんなはそういって喜びました。
けれど、リーさんとスーさんは大切なことを忘れていたのです。
「『コタツ』は、赤くなきゃいけないんだった!」
「そうだよ、『コタツ』は赤いんだ!」
冬の原っぱは茶色、土台の石や岩は灰色、大きな布は色とりどり。けっして赤いとはいえません。赤い落ち葉ももう風でとんでいってほとんど残っていないのです。
みんなできょうりょくして作りあげたはずの『コタツ』が、自分たちのせいで台なしになってしまいました。あまりのかなしさにリーさんとスーさんは泣き出してしまいました。
「みんな、ごめんなさい。ぼくがうっかりしていたから」
「せっかくここまでできたのに」
うわんうわんと泣く二匹に、森のみんなは困ってしまいました。いつも元気な二匹が泣くと、みんなかなしい気もちになるのです。
「そんなに泣かなくてもいい。みんな楽しかったよ」
「そうだよ。しっぱいしてもまた作りなおせばいいんだ」
「ほら、たくさん動いたからからだはポカポカさ」
みんな、くちぐちにやさしくなぐさめてくれます。そんなやさしいみんながだいすきで、喜んでほしかったのにと涙がとまりません。
どれくらい泣いていたのでしょうか。いつの間にか空にあったお日さまがしずみかけていました。
さいしょに大きな声をあげたのはキツネのコンさんでした。
「あ、あれ!」
先っちょの黒いコンさんの手が指したのは、大きなしっぱい作の『コタツ』でした。涙でぼやけたどんぐりのような目でリーさんとスーさんはその『コタツ』を見ました。すると、『コタツ』は赤かったのです。
しずむ夕日が大きな『コタツ』を赤くそめていました。
「『コタツ』!」
「赤い『コタツ』!」
リーさんとスーさんは手をとり合ってさけびました。
「さあ、みんないそげ! いそいで足を入れるんだ!」
クマのワグさんが大きな声で呼びかけます。みんな、大いそぎで『コタツ』に足を入れました。
大きな『コタツ』を森のみんながぐるりと囲んでいます。みんなの笑顔も赤くそまっています。
それは、がんばった森のみんなへの、お日さまからのごほうびだったのかも知れません。
「ポカポカの『コタツ』!」
「楽しい『コタツ』!」
「幸せな『コタツ』!」
みんなで作りあげた大きな『コタツ』にみんなで入ることができて、リーさんとスーさんの涙もとまりました。ニコニコと元気な笑顔でいうのです。
「『コタツ』っていいね」
「うん、これで冬もあったかだね」
みんなで作った『コタツ』のあたたかさを、どんなにさむい冬がきても忘れることはありません。
ポカポカと心にあたたかな『コタツ』があるのです。
そうして冬をこせば、春がやってきます。そうして、夏が。つぎに秋が。
リーさんとスーさんは笑い合いました。
「来年もまた、『コタツ』を作ろうね」
「そうしよう。みんなで入れる大きな『コタツ』をね」
☆おわり☆
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