猫スタ募集中!(=^・・^=)

五十鈴りく

文字の大きさ
11 / 40
3◆ワイルドなハチさん

◆2

しおりを挟む
 ハチさんは、おぎゃあと生まれた時から野良だったそうだ。
 兄弟は六匹。その中でもハチさんは一番体が大きく、強かった。だから、母猫のお乳をたっぷりともらって病気ひとつせずにすくすくと育ったって。

 生まれた場所は、壁が腐食してボロボロの小さな小屋だったそうだ。人もあまり来ず、手入れもされなかったらしい。――まあ、物置小屋ってところだろうね。

 母猫は子猫たちがある程度大きくなると、そのうちにどこかへ流れていき、帰ってこなかった。子猫たちもまた、自由に小屋から出て、最後に残ったのはハチさんと一番下の弟だけだったんだって。

 一番下の弟は、ほとんど白いんだけど、右目から耳にかけてと尻尾、脇腹にだけ黒が入った猫で、ひ弱だった。だから、どこへも行けなかった。

 ハチさんは違う。自由にどこにだって行ける。でも、なんとなく行かなかったそうだ。
 ここは居心地がいいと思ったって。

 それでも、小屋にばっかりいたんじゃ食べるものがない。ハチさんは時折、弟を連れて公園や商店街の散歩に出かけた。
 そこでは虫を追いかけたり、時にはカラスと戦ったり、刺激的な毎日だったという。
 ちょっと目を離すと、弟はカラスにからかわれて縮こまっているんだって。

 ――チキもカラスに遭遇したらつつかれそうだよね。
 ええと、それで、ハチさんはいつも弟の面倒を見ながら毎日を過ごしていたそうだ。

「お、ノラとチビじゃねぇか。また来やがったな。ほれ、昨日の晩酌の残りの笹カマ、取っといたぜ」

 商店街の入り口にいつもいる頭の白い人間の男は、いつも早口でまくし立てては食べ物をくれる。声が大きくてうるさいけれど、嫌なことはしない。多分、いい人間だったって。
 その人は、ハチさんと弟に平等に食べ物をくれた。そこで腹ごしらえをして商店街を歩く。

 にゃあ、と呼び止められて振り向くと、商店街で飼われている猫のタマキがいた。
 いわゆる茶トラ。赤い首輪に鈴をつけていて、それをリンリン鳴らしながら店の前にとめてある自転車に飛び乗る。

 にゃあ?
 もう聞いたかって、何をだ? ハチさんは首をかしげた。

 すると、タマキは難しい顔をしながらハチさんたちを見下ろした。
 最近、野良猫が狙われているんだって。
 狙われているとはどういうことだって、ハチさんは訊ね返したそうだ。

 なんだか、悪戯をする人間がいるらしくって、気をつけた方がいいよ。アタシもお店のお客さんがうちのお母さんと話しているのを聞いただけだから、それ以上は知らないけどさ。
 タマキはそう言った。

 ちなみにタマキは人間を母親だと思っている。野良猫のハチさんたちからしたら失笑ではあるけれど、まあ真実を告げて、もらわれっ子だと知った時にショックを受けるのはわかっているから、あえて言わない。

 しかし、野良猫が狙われていると。
 相手は犬か、それともトンビか?

 ハチさんは、フン、と息巻いた。この爪で返り討ちにしてやるって。
 でも、弟はその話を聞いてすっかり怯えていた。

 にゃぁぁ。
 兄ちゃんは強いけど、オイラは弱虫だもん。狙われたら勝てないよって。尻尾を引きずるほどに下げた。

 弟のそういうところがイラつくのだけど、いつも決まってハチさんは尻ぬぐいをしてしまうんだって。こいつの体が小さいのは昔からだし、今さら大きくならないのもわかっているから。
 ただし、甘やかしてばかりじゃいけない。

 にゃあ!
 勝てないって思うなら、せめて逃げ足くらいは磨いておけ! って叱ったそうだ。

 結局のところ、自分の身を守るのは自分なんだから。弱いならタマキみたいに飼い猫になればいいとは思うけれど、運よくいい人間に拾われるとは限らない。たまに、紐をつけて猫を散歩するような人間だっている。あんなのに当たったら最悪だ。


 ハチさんと弟は、そのまま商店街を歩く。

「お、ボスとブチは今日も仲良しだなぁ」
「あら、ミルクでよければ飲んでいく?」
「野良猫が我が物顔で歩くんだから、今日も平和だよなぁ」

 なんて、道行く人々が声をかけてくる。人間はやたらと猫に構いたがる習性があるらしいって?

 まあ、そこは人それぞれなんだ。犬派と猫派、この二大派閥が論争を始めると大変なことになるんだよ。最近は猫ブームなんて言われているけど、飼われているのは犬が多いんだから。
 はい、すいません。話が逸れました。続けて?

 商店街でお相伴に預かったのち、二匹は公園へ行った。この公園は緑が多く、虫もたくさんいる。狩りをして遊んだり、草の上で転がったりできるいいところだった。二匹とも公園が好きだったって。
 でも、調子に乗りすぎると、体中に変な草のトゲがくっついて取れなくなる。チクチクして痛い。
 そこは気をつけないといけないところだ。

 狩りをして、ハチさんはチョウチョを捕まえた。ハチさんの前足の下でチョウチョの翅がヒラヒラと動く。弟はそんなハチさんにいつも尊敬の目を向けていた。
 兄ちゃんはすごい! って、弟はハチさんの周りをグルグル回って遊んでいた。

 そんな時、真っ黒な服に大きなカバンを持った人間が二人やってきた。
 人間のオス。あれはまだ大人じゃない。体は大きくなってきているけど、あれはまだ大人になりきっていないんだってハチさんは知っていた。
 黒い服は二人とも同じだ。上から下まで真っ黒。丸い何かが縦に並んでいる。

「あ、クロムとオハギだ」

 ――この子供が一番変な名でオレたちを呼んでいた、と。
 あはは、感性豊かだね。その黒服って詰襟の制服だろうな。中学生か高校生かな?
 その子供のツレも呆れていた。こっちは子供にしては縦に大きかった。

「変な名前。どこかの飼い猫か?」
「ううん、野良猫。俺がつけた名前。こっちのシロクロはモノクロームだから、クロム。もう一匹は模様が牡丹餅ぼたもちみたいだろ? 牡丹餅は呼びにくいからオハギ。こいつら、よく公園にいるんだ」

 この子供はよく声を立てて笑うヤツだった。別に食べ物を施されたこともない、ただの行きずりだ。
 害はないが、利もない。ハチさんはフン、とそっぽを向く。
 特に食べるつもりもなかったチョウチョは放してやった。


 大体、毎日がこんなものだったそうだ。
 時には他の猫との縄張り争いなんかもしたけれど、ハチさんは負け知らずだったって。だから、この界隈ではハチさんがボス猫だった。だからこそ、弟も安心して過ごせたんだ。

 そのはずだった。
 でも、それは猫社会での話だ。

 いつもの日常が、ある日――
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

近すぎて見えない物

あんど もあ
ファンタジー
エルリック王子と一夜を共にした男爵令嬢。エルリックの婚約者シルビアが、優しく彼女に言った一言とは。

旦那様。私が悪女ならば、愛人の女は何になるのかしら?

白雲八鈴
恋愛
 我が公爵家主催の夜会の最中。夫が愛人を連れてやってきたのです。そして、私を悪女という理由で離縁を突きつけてきました。  離縁して欲しいというのであれば、今まで支援してきた金額を全額返済していただけません?  あら?愛人の貴女が支払ってくれると?お優しいわね。  私が悪女というのであれば、妻のいる夫の愛人に収まっている貴女は何なのかしら?

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

処理中です...