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5-5 知られざる絵夢との出会い
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帰り道。俺と絵夢は二人、会話もなく歩いていた。
正直二人で帰っている目的は、利莉花のことを話すことなのだから、会話がないのはダメなんだが、絵夢がどうにも気まずそうな顔をしているため、俺も話を切り出すのにためらいが生じていた。
そんな中で絵夢が、ぽつりと呟くように口を開く。
「ヌッキーはさ……どう思ってる? 私との出会い」
「どうと言われてもな……」
俺と絵夢の出会い――。
絵夢は俺のことを前から知っていた。俺は知らなかった。高校に来て知った。
それだけだ。ただ、絵夢は俺の『彼女』であったというだけで――。
「……滅茶苦茶だよね」
「まぁ……そうだな」
絵夢は俺に告白してきた。理由は二つ。
一つは、友達間であるかけをして負けた。
二つ目は、負けた罰ゲームとして、一週間以内に誰かに告白する。そして振られると、また一週間以内に告白をする~と繰り返すゲーム。
正直腐った内容だと思ったが、一度OKをもらった後、別れればいいのだと、たかを括った。そして俺もそれでいいとした。
最初はなんで俺のところに、と思ったが、同じ中学で男友達も多くない絵夢が頼れるような人が俺だったようだ。
だが、付き合った証明を見せろということで、学校で食事を一緒にしたり、あーんさせられたり、させたり、休日にデートをさせられたりした。
そこまでは俺もなんとか耐えてやった。軽い気持ちとはいえ一度引き受けたことだ。使命は全うしようとした。
けれど、一つの出来事でそれも不可能になる。
キスをしてみろ――
俺たちはできなかった。
いや、できるはずがなかった。
お互いに好きでも何でもない。
それどころか、俺は好きな人がいる。
いや、絵夢にも――。
絵夢は他に好きな奴がいた。それは、その指示を聞き、できずに終わった後に知った。
当時、三年の先輩だったその人は、平凡な人であった。普通な人であった。だが、とても優しい人であった。
俺が出会ったのはその事実を知ってからずいぶんとあとのことになるが、現代文化研究部みんなが会っていて、そして恩人のように感じている人だ。
絵夢はその人が好きで、俺とキスはできなかった。俺の目の前で絵夢は泣いた。ごめんと、そう言って――。
その姿を見ていた絵夢の友達も、やり過ぎていたことに気付いたのだろう。俺への告白も嘘だと分かっても、彼女たちは責めなかった。近くに寄ってきて、悪いの自分たちだったと、謝っていた。
そんな苦い記憶――。
「あの時は……ごめんね」
「もういいよ。というか、言わない約束じゃなかったか?」
「あはは……そうだったね」
渇いた笑い声。それでも、少しは気晴らしになったのだろう。絵夢はさっきよりも、声を大きくして言う。
「でも、なんだか先輩のこと思い出しちゃって……」
「心残りか?」
「ううん……別に。告白はしたしね……振られちゃったけど」
その声も、さっきよりは明るい。振られたということも、今では悲しいことではないんだろう。
絵夢は続ける。
「でも、告白したことに意味があるよ。好きだってその人に伝えたことに」
それを聞いて、俺は前に絵夢と話しをしたことを思い出した。
「いつだがの昼休み、部室で会ったときも、お前そう言ってたな」
「うん。告白は私にとって本当に大切なことだったからね。その教訓ってこと」
「そういやお前、他にも利莉花と一緒にいれば、そのうち分かるようになるとか言ってたよな。あれは何なんだ?」
「そのままの意味だけど……ほら。ヌッキーって想いをぶつけられたことがあっても、周りの人の、人への想いがぶつけられるのって、近くで見たことはないでしょ? そういう意味」
「客観視できるってことか?」
「そういうことかな」
そこで一旦会話が止まる。だが、さっきの気まずい空気とは違って、昔を懐かしみ余韻に浸っているような、悪くない時間だった。
「……で!」
少しして、絵夢が切り出す。
「リリーとのこと! まだ教えてもらってないよ」
「ああ、そうだったな」
それが本題だった。忘れていたな。
「あ、でも暗い話なんだっけ? じゃあ、仲良くなった理由の部分だけね!」
全部合わせてそうなんだがな。まぁ、絵夢なりの気遣いか。
俺はどうにか、利莉花が陰口を叩かれていたことは伏せつつ、話しをする。
「俺が利莉花を遠ざけていることが、利莉花を悩ませていたから、名前で呼ぶことにした」
「なるほど……でもそうすると、話しちゃったの? ロリコンじゃなくなったこと」
「いや、伏せてある。できれば、言わないでおいてほしいな」
「大丈夫。勝手に言ったりなんてしないよ」
絵夢はそうして俺に笑いかける。
俺は、ちゃんと利莉花とのことを話してはいない。それは、俺も全部話さなかったように、大事なことは自分から言わなきゃいけないと思うからだ。
絵夢が告白したのと同じように。
そういう意味では、俺も絵夢の言った、『告白したことに意味がある』という言葉は理解できているのだろう。
結果がどうであれ、俺はロリコンでなくなったと、いつかは言わなきゃな。
そして――
「……さて、勉強の続きでもするか」
「えぇ――!! やっと、ついさっき解放されたのに!?」
俺の提案に驚きの声を上げ、否定を表す。だが、俺は追い打ちをかけるように言う。
「どうせ、帰っても勉強しないだろ? 今やらないとダメだな」
「そんな~」
「じゃあ、問題――」
「え!? ちょっと待って! まだ心の準備が!」
その後は、分かれ道まで、そうやって絵夢に問題をだし続けた。
正直二人で帰っている目的は、利莉花のことを話すことなのだから、会話がないのはダメなんだが、絵夢がどうにも気まずそうな顔をしているため、俺も話を切り出すのにためらいが生じていた。
そんな中で絵夢が、ぽつりと呟くように口を開く。
「ヌッキーはさ……どう思ってる? 私との出会い」
「どうと言われてもな……」
俺と絵夢の出会い――。
絵夢は俺のことを前から知っていた。俺は知らなかった。高校に来て知った。
それだけだ。ただ、絵夢は俺の『彼女』であったというだけで――。
「……滅茶苦茶だよね」
「まぁ……そうだな」
絵夢は俺に告白してきた。理由は二つ。
一つは、友達間であるかけをして負けた。
二つ目は、負けた罰ゲームとして、一週間以内に誰かに告白する。そして振られると、また一週間以内に告白をする~と繰り返すゲーム。
正直腐った内容だと思ったが、一度OKをもらった後、別れればいいのだと、たかを括った。そして俺もそれでいいとした。
最初はなんで俺のところに、と思ったが、同じ中学で男友達も多くない絵夢が頼れるような人が俺だったようだ。
だが、付き合った証明を見せろということで、学校で食事を一緒にしたり、あーんさせられたり、させたり、休日にデートをさせられたりした。
そこまでは俺もなんとか耐えてやった。軽い気持ちとはいえ一度引き受けたことだ。使命は全うしようとした。
けれど、一つの出来事でそれも不可能になる。
キスをしてみろ――
俺たちはできなかった。
いや、できるはずがなかった。
お互いに好きでも何でもない。
それどころか、俺は好きな人がいる。
いや、絵夢にも――。
絵夢は他に好きな奴がいた。それは、その指示を聞き、できずに終わった後に知った。
当時、三年の先輩だったその人は、平凡な人であった。普通な人であった。だが、とても優しい人であった。
俺が出会ったのはその事実を知ってからずいぶんとあとのことになるが、現代文化研究部みんなが会っていて、そして恩人のように感じている人だ。
絵夢はその人が好きで、俺とキスはできなかった。俺の目の前で絵夢は泣いた。ごめんと、そう言って――。
その姿を見ていた絵夢の友達も、やり過ぎていたことに気付いたのだろう。俺への告白も嘘だと分かっても、彼女たちは責めなかった。近くに寄ってきて、悪いの自分たちだったと、謝っていた。
そんな苦い記憶――。
「あの時は……ごめんね」
「もういいよ。というか、言わない約束じゃなかったか?」
「あはは……そうだったね」
渇いた笑い声。それでも、少しは気晴らしになったのだろう。絵夢はさっきよりも、声を大きくして言う。
「でも、なんだか先輩のこと思い出しちゃって……」
「心残りか?」
「ううん……別に。告白はしたしね……振られちゃったけど」
その声も、さっきよりは明るい。振られたということも、今では悲しいことではないんだろう。
絵夢は続ける。
「でも、告白したことに意味があるよ。好きだってその人に伝えたことに」
それを聞いて、俺は前に絵夢と話しをしたことを思い出した。
「いつだがの昼休み、部室で会ったときも、お前そう言ってたな」
「うん。告白は私にとって本当に大切なことだったからね。その教訓ってこと」
「そういやお前、他にも利莉花と一緒にいれば、そのうち分かるようになるとか言ってたよな。あれは何なんだ?」
「そのままの意味だけど……ほら。ヌッキーって想いをぶつけられたことがあっても、周りの人の、人への想いがぶつけられるのって、近くで見たことはないでしょ? そういう意味」
「客観視できるってことか?」
「そういうことかな」
そこで一旦会話が止まる。だが、さっきの気まずい空気とは違って、昔を懐かしみ余韻に浸っているような、悪くない時間だった。
「……で!」
少しして、絵夢が切り出す。
「リリーとのこと! まだ教えてもらってないよ」
「ああ、そうだったな」
それが本題だった。忘れていたな。
「あ、でも暗い話なんだっけ? じゃあ、仲良くなった理由の部分だけね!」
全部合わせてそうなんだがな。まぁ、絵夢なりの気遣いか。
俺はどうにか、利莉花が陰口を叩かれていたことは伏せつつ、話しをする。
「俺が利莉花を遠ざけていることが、利莉花を悩ませていたから、名前で呼ぶことにした」
「なるほど……でもそうすると、話しちゃったの? ロリコンじゃなくなったこと」
「いや、伏せてある。できれば、言わないでおいてほしいな」
「大丈夫。勝手に言ったりなんてしないよ」
絵夢はそうして俺に笑いかける。
俺は、ちゃんと利莉花とのことを話してはいない。それは、俺も全部話さなかったように、大事なことは自分から言わなきゃいけないと思うからだ。
絵夢が告白したのと同じように。
そういう意味では、俺も絵夢の言った、『告白したことに意味がある』という言葉は理解できているのだろう。
結果がどうであれ、俺はロリコンでなくなったと、いつかは言わなきゃな。
そして――
「……さて、勉強の続きでもするか」
「えぇ――!! やっと、ついさっき解放されたのに!?」
俺の提案に驚きの声を上げ、否定を表す。だが、俺は追い打ちをかけるように言う。
「どうせ、帰っても勉強しないだろ? 今やらないとダメだな」
「そんな~」
「じゃあ、問題――」
「え!? ちょっと待って! まだ心の準備が!」
その後は、分かれ道まで、そうやって絵夢に問題をだし続けた。
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