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2章 魔法学校編

第2話 セレネの実力を見た

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 その子、セレネは私と同じクラスへと入学した。
 そして瞬く間に、セレネの存在は魔法学校内で話題となった。 
 自身の半分も生きていない子が先輩になり、同期になり、後輩になったのだ。

「あれが、話題の子供か」
「どうしてあんな子供に俺たちは抜かされたんだ」
「学長は何を考えているんだ」

 休み時間になれば一年生から六年生、数多の生徒がこのクラスへとやってくるのは何とも騒がしく、そんな話声が毎回聞こえてくる。
 女子からは可愛い、なんて話を聞くが、男子からは決まってそんな不満の声をあげる。実際には女子の内面も穏やかではないのだろうけども、それを口に出して自身の評価を下げるような女子は少ない。
 そんなセレネに対する評価は私にとってあまり関係がない。
 ただ、流石に嫌われているセレネ自身は落ち込んでいるだろう、なんて思って心配そうに私は隣の席のセレネを見る。
 セレネはずっと教科書とにらめっこをしていた。
 他人の声などさも興味がないように。
 始めはこんな勉強熱心な姿と、この歳で入学したのだから相当勉強できるのだろうとか思ったりもした。

「…………?」

 でも違った。
 ただ純粋に難しくて、分からなくて、セレネは教科書を読んでいるのだ。
 ずっと疑問符を思い浮かべている。

「頭がショートしそう。エミリア。これは何?」

 そして私に対して、何度も聞いてくるのだ。
 たいして勉強できない私からすると、非常に困ったことだ。何より面倒くさい。でも周りの視線もあるし、同じ部屋のよしみとして、カルル様から世話を任された私は答えなくてはいけない。

「それは火の魔法構造の項目ね。火の魔法の基本の形がこれということ。これに他の魔法を組み込んで、さらに強くしたりできるよ」
「…………はぁ」
「魔法の構造自体はただの暗記だから、それを覚えればいい。それが実際に使えるかどうかは練習あるのみ。そして、他の魔法を組み込んで、新しい魔法を生み出すことと、いかに効率の良い魔法が生み出せるかは、その人の頭の良さが出る」
「…………へぇ」
「最初は魔法の構造の暗記から始めるものよ」
「なるほど」

 分かったのか分かっていないのか、セレネはそんな相づちと共に、再び教科書に視線を戻す。
 魔法の構造は一年生と二年生で学ぶ内容だ。
 何一つ魔法の構造を知らないセレネは一年生から始めるべきだろうに、どうしてカルル様は二年生のクラスをお願いしたのだろうか。私と同じクラスにする必要はないだろうに。
 そもそもどうしてこんな子が魔法学校に入学させられたのだろうか。

「はぁ」

 私は思わずため息が出る。
 嫉妬心で狂いそうな私の心を抑えるために。




 セレネへのクラスメイトの感情が嫉妬などの負のまま、数日が経とうとしていた。
 それまでの授業でセレネは先生に当てられても何一つ答えることができないなど、何も出来ない子だった。それは先生も同じ感情を抱き、相当低い評価だったと思う。
 ただ二人、学長とカルル様を除いて。
 たまにセレネを確認に来るカルル様はセレネが答えれない姿を見ても、何も落胆した表情ではなかった。
 それは学長も同様である。
 どうしてか、私には理解に苦しむものだった。それは他の生徒たちも同様である。
 でも、その日。
 数日ぶりの魔法の実技練習の日。
 私たちはその評価を変えることとなる。

「水の魔法の練習を始めたいと思う。それぞれ二人組になってくれ」

 外のグランドで行われる実技練習の日。
 先生の指示でクラスメイト達がそれぞれ組みを作り始める。
私はセレネと組まないといけないだろうな、なんて思いながらセレネの元へ行くと。

「セレネはこっちに来い。お前にはまだ早い」

 このクラスの人数は奇数だ。つまり一人余る事になる。
 その一人を先生はセレネにしたのだ。
 セレネは先生の元へ向かい、私はクラスの男子と組むこととなる。

「注目。今から私は水の魔法を使用する。これは教科書に載っている構造だ。決して難しくない」

 そんな声でクラスメイトの視線は先生とセレネに集まる。
 セレネを横に立たせて、先生は魔方陣の展開を始める。水の魔法、その基礎となる魔方陣。セレネを除いて見慣れた魔方陣である。ただ使うのは初めてである。
 三年生になるまで、魔法の実技練習は少ない。そして、実技練習以外での魔法の使用は禁止されている。
 私にとって水の魔法を使ったのは数えるほどだ。それも何一つ成功したことはない。
 だから私は先生を凝視する。
 少しでも理解するように。
 先生の前方に人の頭程度の大きさの水が出来上がる。
 その水は瞬く間に姿を変えて、様々な動物の姿と経て、文字へと形を変える。
 魔法の操作。
 簡単なようで難しい。

「以上だ。今回は発動だけでなく、形を変えてみて欲しい。二人組の内、片方は魔法を使い、もう片方はその魔法の欠点を探して、ペアに伝えるように。では開始!」

 先生の言葉でクラスメイトたちは魔法を使う側と、その魔法を客観的に見る側へと自然と別れ、魔法が唱えられ始める。
 半分ほどの生徒は魔法の展開さえできない。残り半分は水を出現させることはできても、球体に形を固定させるだけで一苦労しているみたいだ。
 そんな中、セレネは。

「先生、こんな感じで良いですか?」

 まるで一切の苦労なく、水の魔法を展開、そして操作を始めたのだ。

「…………な」

 先生から驚きの声が上がる。
 セレネの魔法に気づいた生徒から連鎖的にクラスメイトたちはセレネの魔法を見て、同じように驚いた表情をする。
 それは私自身も。

「お前は魔法が使えるのか? そのレベルで」

 その事実は、先生さえ知らなかったらしい。
 ただ、すぐに理解する。子供が魔法学校に入学する方法は本来一つである。
 それは魔法が使用できること。
 でもそれに気づけなかったのはセレネが何一つ勉強についていけなかったからだ。魔法の構造を知らずして魔法を使えるはずがない。

「お前じゃないです。セレネです。他にも幾つか使えます」
「どうやって」
「魔法を見せてもらえば、あとは適当に真似れば良いから」

 真似れば良い、なんて簡単なことではない。
 それをさも当たり前のように言うセレネに対して、先生は呟く。

「特別な子か。カルルと学長が特別扱いしようとする理由が分かった」
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